2013年11月08日

◆「満洲国」建国譚(8)

平井 修一


「清朝最後の皇帝、ラストエンペラー」と呼ばれる宣統帝・溥儀(ふぎ、1906−1967)は2歳10か月で第13代皇帝に即位した(父・醇親王が摂政)。

1912年1月に中華民国政府が樹立されると2月に宣統帝は退位したが、その際に退位後も「大清皇帝」の尊号を保持し、引き続き紫禁城(皇宮)で生活すること、中華民国政府が清朝皇室に対して毎年400万両を支払うことなどの「清帝退位優待条件」を取り決めた。

退位と中華民国の樹立は溥儀自らの詔勅によっており、この取り決めは無血で政権を移譲した代償である(400万両支払いは1年で反故にされた)。

ところが1924年10月、軍閥・馮(ひょう)玉祥のクーデターにより「清帝退位優待条件」を一方的に破棄され、溥儀は紫禁城から強制的に退去させられる。溥儀を保護したのは日本だけで、以来、天津市の日本租界の張園に移って暮らしていた。

満洲事変が始まって間もない1931年10月末、関東軍特務機関長の土肥原賢二が25歳の溥儀を訪ねた。退位したとはいえ溥儀は祖国満洲の満人から支持されており、彼自身も復辟(ふくへき、復位)を望み、満洲事変は満洲皇帝になるチャンスだった。溥儀は南次郎陸相にも接触していた。

土肥原「関東軍の行動は張学良個人に対するもので、張が満洲人民を塗炭の苦しみに落とし、日本人の権益や生命、財産を保護しないで、やむを得ず出兵を行ったのです。

日本政府は、満洲に対しては決して領土的野心はなく、誠心誠意、満洲人民が自己の新国家を建設するのを援助する方針であり、皇上(陛下)がこの機会に初代太祖ヌルハチ皇帝発祥の地に帰り、親しく新国家の指導にあたっていただきたいと願っています」

溥儀「どのような国家になるのですか」

土肥原「独立自主の国で、宣統帝がすべてを決定する国家です」

溥儀「いや、私が知りたいのは、その国家が共和制か、帝政かということです。復位なら奉天へ行きますが、そうでないなら行きません」

土肥原「皇上、もちろん帝国です。それは問題ありません」

溥儀「帝国ならば行きましょう」(溥儀の自伝「我が半生」)

溥儀は「玉」だった。溥儀にとっては待ちに待った朗報だったが、玉を奪われてなるものかと蒋介石の南京国民政府から暗殺団が送られていた。

<溥儀を天津から連れ出すのは難しい状態であった。昭和6年(1931)11月8日夜、天津日本租界のはずれから中国街一体にかけて暴徒が襲来した。1000人の中国人が日本側に雇われてやった行動である。

(どさくさに紛れて)彼は私邸から洗濯物の籠の中に入って運び出され、一旦、日本料亭の奥に入り、日本陸軍将校の少佐の肩章がついた軍服を着せられた。土肥原大佐と並んで乗用車に乗り、フルスピードで市街を通り抜け、白河に用意した陸軍の小艇に乗り込む。

防弾用の鉄板と畳にかこまれた船室に入ると、艇は河口の溏沽(とうこ)へ向け急ぎ出航した。待機していた汽船に乗船し、渤海湾を渡って遼寧省営口に着いたのは12日午前9時のことである。

宣統帝は初めて祖宗発祥の地、満洲の大地を踏んだ。従者は後に満洲帝国総理となる鄭孝胥ら4名である。営口の桟橋には甘粕正彦が人夫の小頭といったようなボロ外套と巻き脚絆姿で出迎えていた。

溥儀は満洲に入っても不安だったが、湯岡子温泉に到着した時、初めて日満の歓迎の人波に迎えられた。満族の人が進み出て「陛下、この日を200年間お待ちしていました」と述べた時、溥儀も満族の人々も感極まって涙を流して泣いたという>(古野直也「張家三代の興亡」)

まるで映画のハイライトを見るようだ。手に汗握る名場面である。

古野は言う、「分かりやすく言えば、満洲の所有者である清国皇帝だった宣統帝が君臨したのだ。列国も文句のつけようがなかった」。

翌1932年3月1日、「満洲国」の建国を宣言、溥儀を執政(1934年に皇帝)とし、3月9日、首都新京(長春)で盛大な建国式を行った。建国の理念は「五族協和、王道楽土」で、五族は日本人、漢人、朝鮮人、満洲人、蒙古人を指す。

半年後の9月15日、日本政府は満洲国を承認し、これに続いて正式承認したのは中華民国南京国民政府、ドイツ、イタリア、スペイン、ヴァチカン、ポーランド、クロアチア、ハンガリー、スロバキア、ルーマニア、ブルガリア、フィンランド、デンマーク、エルサルバドル、準承認(国書交換)がエストニア、リトアニア、ドミニカ、大東亜戦争中に承認したのがタイ、ビルマ、フィリピン、蒙古自治邦(内モンゴル)、自由インド仮政府だった。

国際連盟加盟国が50か国ほどだった時代に、世界23か国が満州国を承認したのである。(2013/11/5)

<「頂門の一針」から転載>
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