2013年11月10日

◆「中国の報道は死んだ」

矢板 明夫


―新快報事件 当局の圧力で社長更迭 

中国広東省の人気紙、新快報の李宜航社長兼編集長と馬東瑾副編集長が11月1日に親会社の羊城晩報報業集団に解任されたことが、中国のメディア関係者に大きな衝撃を与えた。

権力の横暴を正面から批判し、与えられたわずかな報道の自由を守ろうとした新快報が当局側に完全に鎮圧されたと受けとめられている。「今回の事件で、中国の報道は完全に死んだ」との感想をもらした大手紙の記者もいた。

1面トップで抗議

新快報の経済担当の陳永洲記者(27)が、湖南省長沙市の建設機械大手「中連重科」の不正経理疑惑を追及したことがきっかけだった。国有企業である中連重科は、不正な会計書類処理を行い政府に巨大な資産損失を与えたとして、陳記者は5月頃から15回にわたって報道した。中連重科は「虚偽報道」として長沙市公安局に陳記者を告訴した。

陳記者は10月18日、広州市内にある自宅近くの派出所に呼び出され、待ち受けていた長沙市公安局の警察官に車で連行された。4日後の22日になってから、長沙公安局はようやく陳記者の拘束を発表した。

拘束を受け、新快報は陳記者の書いた一連の記事を調査し、確かな取材に基づいた報道であり、ほぼ間違いではなかったと判断した。23日に新快報の1面の横幅いっぱいに「請放人(釈放して下さい)」との大見出しで長沙の警察に抗議する記事を掲載した。

中連重科に関する報道の責任は新聞社が持つべきで、記者を捕まえるのは筋違いとして「弊紙の報道に問題があれば、訂正や謝罪はいくらでもするし、それでも気が済まなければ、裁判を起こせばよい。われわれは判決に従って賠償金をきちんと払うつもりだ」と記した。長沙市の警察が新聞社に連絡もせず、いきなり記者を拘束するやり方を批判、徹底抗戦の構えを見せた。

拘束記者の謝罪

香港に隣接する広東省を拠点に置く新快報は、中国を代表する改革派メディアとして知られる。今回、当局に対し激しく抗議した背景には、中国当局による言論弾圧が最近、強化されたことへの不満がある。

2012年秋の党大会を前に、新快報は習近平国家主席(60)ら最高指導部メンバーの青年時代に関する独自の記事を掲載したため、当時の編集長が更迭された。また、今年8月に中国政府高官の不正を実名告発した新快報の劉虎記者も北京の公安局に誹謗容疑で逮捕された。

以上の2つは当局を刺激しやすい政治絡みの報道だが、今回拘束された陳記者は経済担当だった。これまで比較的に規制が緩やかだった経済分野での管理も強化されたことに、新快報は危機感を覚えたことが激しい抗議の原因だ。

中国政法大学の何兵教授ら多くの知識人がインターネットで新快報を応援し、北京紙「京華時報」など複数の新聞は、新快報を暗にする支持する記事を掲載した。

しかし、中国国営中央テレビ(CCTV)は26日、留置中の陳記者が「第3者から50万元(約800万円)を受け取って記事を書いた」と罪を認める映像を繰り返し放送した。

これを受け、新快報は27日に1面で謝罪文を掲載、一転して非を認めた格好となった。関係者によると、新快報の編集部内で最後まで抗議し続ける声もあったが、当局の大きな圧力を受けて謝罪をせざるを得なくなったという。

真相は闇の中

北京の人権派弁護士ら多くの知識人は、陳記者が裁判で正式に罪を問われる前に、中国当局がその供述をテレビで流すことは法律上と人権上の問題があると指摘している。

また、「自由を失った陳記者は自白を強要された可能性もある」と見る人も多い。仮に陳記者に本当に問題があったとしても、中連重科が新快報に対し民事訴訟を先に起こすべきで、いきなり警察を使って記者を逮捕するのは法律上の問題がある。「今後、記者が批判報道を書きにくくするのが当局の狙いだ」と指摘する声もある。

長沙市関係者によると、中連重科の経営者は習主席も属している太子党グループと大変近い関係にあるという。今回、新快報は国有資産の私物化という太子党にとってのタブーに触れてしまったことで、報復にあったという。

あるメディア関係者は、「今回、共産党宣伝部の圧力で、新快報の社長らが更迭されたことで今後、当局に逆らうメディアはいなくなるだろう」と話している。
(やいた・あきお 産経中国総局)
産経ニュース【国際情勢分析 矢板明夫の目】 2013.11.9

<「頂門の一針」から転載>

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