2013年12月15日

◆防空識別圏「恥かいた」

西見 由章


一転「思い知ったか」…米対応に一喜一憂

「敗戦国が四の五の言うな」。中国が東シナ海に設定した防空識別圏をめぐり、中国のネットユーザー「網民」(ワンミン)たちの“愛国心”が加熱している。無通告で爆撃機を悠々と飛ばしながら防空圏の撤回自体は求めないという米国の揺れる対応に、中国の網民たちは一喜一憂。

その矛先は防空圏拡大を発表した韓国にも向かっている。ただ、「中国こそ軍国主義ではないか」という冷静な見方もじわりと広がっているようだ。

「敗戦国が四の五の言うな」

日本の防空圏は第二次大戦後に米軍が設定したものを1969年に継承した、いわば「戦後秩序」の一部。その防空圏への非難は、中国メディアが日本の「右傾化」を批判する際の決まり文句である「戦後秩序への挑戦」が、ブーメランとなって自国の行動に跳ね返ってくることになるのだが、多くのネットユーザーにその自覚はない。

中国の防空圏設定に対して米国が「深い懸念」(バイデン副大統領)を表明しながらも、撤回は求めず、民間航空機の飛行計画の提出についても事実上容認したことに対して、網民からは歓喜の声が上がった。

「日本は自分が将棋のコマでしかないと思い知っただろう」

「国家が強大になったことを喜びたい」

「小日本は敗戦国だ。四の五の言う資格はない。敗戦国の恥辱を洗おうというのか? アメリカだって承知しないぞ」

「張り子の虎」

ただし防空圏の設定当初、ネット上の言論空間は大荒れだった。11月25〜26日に米軍のB52戦略爆撃機2機をはじめ自衛隊機などが無通告で進入したものの中国側は軍用機の緊急発進(スクランブル)をかけなかったことが伝えられると、中国人の怒りは自国の弱腰な対応に向けられた。

小説家の北村(ベイツン)氏は、中国版ツイッター「微博(ウェイボ)」にこう書き込んだ。

「中国が防空圏設定を発表した直後にアメリカのB52がはるばるやってきて、中国側の声明はまったく相手にしなかった。これは耐え難いことだ。中国はどう対応すると思う? おそらく『厳正に抗議し、申し入れる』のだろう」

11月27日の中国外務省の定例記者会見。海外メディアから「中国側は防空圏が(見かけ倒しの)『張り子の虎』と考えられることを懸念していないのか」と厳しい質問が浴びせられた。

報道官は「中国政府には国の主権と安全を防衛する十分な決意と能力があり、防空圏の空域に対して有効に管理する能力があることを強調したい」などと苦しい回答に終始した。これに対してネット上では多くのツッコミが寄せられた。

「空軍少将は当初、相手が警告を聞かずに防空圏に進入した場合は撃墜することもあり得ると言っていたはず。自分で辱めを招いた」

「答えになっていないぞ」

「これだけ長くしゃべって、実質は何も言っていない。言葉の芸術だ」

「対外的な強硬姿勢を示すことによる国内向けアピール」という短期目標に限っていえば、当初は明らかに“オウンゴール”の感もあった中国の防空圏設定。しかし米国の態度の軟化に伴い、ネット世論もだんだん威勢がよくなっていった。

「頑張れ中国! 国と国の間に正義なんかない。あるのは利益だけだ」

「いっそ原爆を日本に落とせ」

サムスンをやっつけろ

最近の網民たちの主な関心は、12月5日に公表された韓国の防空圏拡大に向かっている。韓国は15日以降、中国と管轄権を争う離於島(イオド)を含む範囲まで拡大することを発表。中国側は黙認の構えだが、ネットでは批判が相次いでおり、ニュースのコメント欄は「棒子(バンズ)」という韓国人への蔑称であふれかえっている。

「棒子は鬼子(グイズ、日本人の蔑称)よりもっとあくどいな」

「軍事的に対抗する必要はない。(中国に進出している)サムスンをやっつければ棒子の経済規模は半減する」

「蘇岩礁(離於島の中国名)は中国のもの!」

「心配無用だ。われわれの有害濃霧で棒子に蘇岩礁は見えない」

「中国こそ軍国主義」

こうした排他的なナショナリズムの高揚を「偽愛国者」「愛国賊」などと批判する冷めた声も少なからずある。

中国共産党機関紙、人民日報系の環球時報(電子版)は12月7日、駐中国大使館の堀之内秀久公使が同紙主催の北京のシンポジウムで発言した内容を取り上げた。

「中国は一方的に東シナ海の現状を変えようとしている」と批判し、特定秘密保護法の成立で「日本の軍国主義化」を懸念する中国側に対して、「日本が批判されるなら中国はとっくに軍国主義国家だ」と反論したとの内容である。

日本の立場からの正論だけに“炎上”するかと思いきや、中国のネット上では意外にも「賛同」の声が多く寄せられた。

「日本を支持する。中国こそ軍国主義で、人民に無限の苦痛を与えている」

「来日して3年になるけど、日本兵(軍人)を一度もみたことがない」

「中国の本当の敵は、日本やアメリカではなく汚職官僚だ」

中国の最大の脅威は…

防空圏設定問題の渦中にあった11月29日、環球時報(電子版)は「米国と日本は中国が一流強国になることを妨げることはできない」と題する社説を掲載した。

社説は、中国の発展に向けた最大の障害は日米の軍事的な脅威ではなく、「内部の対立」だとし、「最も重要なことは、国内問題を解決することだ」と主張。「中国社会の分裂は、日米が最も望んでいることだ」と警戒感をあらわにした。

その一方で、「愛国主義は中国の発展には欠かせない。国家の士気の重要な源泉であり、社会の亀裂を修復させるものだ」とした上で、「現在、国内のネット上では愛国主義に泥を塗るような異端の邪説が広まっているが、これは有害だ」と強調している。

他国の愛国心は「右傾化」と批判する一方で、自国の愛国主義は「他国よりも劣ってはならない」というのだから、その我田引水ぶりには恐れ入る。

超タカ派の論調で知られる環球時報のこの社説は、中国が喧伝(けんでん)してきた愛国主義への疑念が、ネット上で無視できない程度にまで広がっていることへの危機感の表れだろう。
産経ニュース 2013.12.14 07:00 [中国ネットウオッチ]

<「頂門の一針」から転載>
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