2007年04月13日

◆笑顔で人を殺す国


                     渡部亮次郎

「中国首脳の来日には、相手を懐柔するトウ小平型と、激しく威嚇する江沢民型がある。しかし、来日した温家宝首相のニコニコ顔に惑わされてはいけない。来日に水をさすようだが、微笑外交は腹に一物ありなのだ」と12日の産経抄は過去の経験を踏まえて戒めている。

そうなのだ、ケ(とう)小平は私の前に、にこやかに現れた。北京の人民大会堂。1978年8月10日、の本時間午後4時。6年越しの懸案だった日中平和友好条約にやっと目途をつけた我々交渉団は同行記者団と北京ダックの昼食をして一息入れたあとだった。

人民大会堂の玄関からテレビのライトに照らされながら1人の小男がゆったりと歩いてきた。それが「あの」ケ(とう小平)だった。合計3度の失脚から甦り、いまや最高実力者になろうとする副主席。

丸顔。既に74歳だが老人のシミはひとつも無い。失脚と復活を繰り返した自信からか余裕綽の雰囲気が出ていた。これが貫禄と言うものなのだ。

会談の冒頭、カーツ、ペッと痰壷にツバを吐き、下から園田直日本外相を見上げた。園田は睨(ね)めつけられた、気おされちゃいかんからオレもやろうとしたんだけどタンが出てこない。やったのは大分経ってからだった。

その2日後に会談する華国鋒国家主席や前日まで会談した黄華外相はメモを読みながら言葉を発するが、トウ氏はメモ一切なし。園田外相が「監獄に入っているときはどうでした?」と失礼なことを聞いても「俺は毛沢東にかばわれて軟禁だった、1日2時間の重労働はしたがね」と平然たるものだった。

老練。外相が思わず突っ込んでゆくと「ときにあんたは歳はいくつかね」ときて「あ、それならオレより十何歳も下だ、下だ」なんて言ってはぐらかしたりした。

尖閣列島をテーマにした時もにこやかに「今までどおり、20年デモ30年でも放っておけ」と言ったから、日本側は実効支配が認められたと解釈してしまった。尤もあそこで更に詰めようと言う雰囲気が双方に無かった。

日中平和友好条約とはケ(トウ)小平による中国4つの近代化と経済の改革、解放化を実質的に梃入れする担保であった。あの年から中国経済が飛躍的に伸びた事は誰も否定できない事実である。

にも拘らず、トウは日本から受けた莫大な経済援助について人民に一言も言っていない、ひた隠しして死んだ。死ぬ前に1989年6月4日、北京の天安門広場に集まっていた市民、学生に対して、人民解放軍に一斉射撃させ、何百人も殺したのもケ(トウ)小平だったのだ。

尤も、あの時に市民、学生の自由化要求を認めていたならば、中国共産党は滅亡に追い込まれた事は確実である。つまり中国共産党は自己を守り貫くためには、時に応じて笑いもするし殺しもする、断乎として。にこやかに殺すのである。騙されてはいけない。

<中国首脳の来日には、相手を懐柔するトウ小平型と、激しく威嚇する江沢民型がある。30年ほど前に来日したトウさんは、新幹線に乗って科学技術の水準の高さを褒めあげ、トウブームを起こした。コワモテの江さんは歴史認識で説教をたれ、尖閣諸島はおれたちのものだと欲張った。

 ▼きのう来日した温家宝首相は、表面的にはトウさんタイプかもしれない。国会で演説し、西京極球場では立命館大野球部員とキャッチボールに興じる予定だ。テレビは「これは絵になる」と大挙して押しかけ、彼に翻弄(ほんろう)されることだろう。

 ▼しかし、ニコニコ顔に惑わされてはいけない。日本のコメ輸入で合意したところで、恭しく調印したのはわずか25トンだ。大型トラック2台分で大きな顔はされたくない。東シナ海の資源開発で譲歩したわけでも、巨大軍事力を減らすといったわけでもない。

 ▼なぜか、温さんは記者会見を予定していない。大国の指導者らしからぬ。その理由は明かさないから、こちらで勝手に推測する。日中の「氷をとかす旅」なので、余計なボロは出したくないのがホンネだ。自虐的な日本人記者から、慰安婦問題や首相の靖国参拝の質問が出れば批判をせざるをえない。

 ▼すると中国内に跳ね返って、大衆の反日気分に火を付ける。中国経済のひずみを是正するのに、日本経済が役立つと考えているから、いまは困るのだ。

▼ 自著が発禁処分をうけた何清漣さんによると、小紙連載の「トウ小平秘録」を抄訳掲載したブログがネット上から削除されている。天安門事件はいまも「教えたくない歴史」なのだろう。

歴史を鑑(かがみ)とするとは彼の国の主張だが、自国には適用されないようだ。来日に水をさすようだが、微笑外交は腹に一物ありなのだ。>(産経抄 Sankei Web 2007/04/12 05:01)
2007・04・12


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