2014年02月10日

◆「日本型集団的自衛権」を考える

浅野 勝人 (安保政策研究会 理事)


私は、以前、集団的自衛権の行使は、我が国の平和憲法の下では認めるべきではないと考えていました。

この確信的な理念が揺らぎ始めたのは、主としてアジア・太平洋地域の安全保障環境の変化とアメリカのプレゼンスの低下によります。

アジア・太平洋地域には大規模な軍事力をもつ複数の核兵器保有国が存在する一方、安全保障の地域協力枠組みが十分に制度化されていません。

具体的には、中国、インドの軍事力強化に伴い国家間のパワーバランスが崩れ、特に中国は国際社会において存在感を増大させています。

これに対して、強大だったアメリカの力は相対的に弱まっており、世界の統治構造に少なからぬ影響を及ぼしています。従来通り、アメリカの核の傘による抑止力があれば、日本は安泰とばかり言ってはおられない変化に私たちは直面しています。

日本は、国際社会の主要なプレーヤーとして、国際協調主義に基づく平和主義の立場から、日本の安全およびアジア・太平洋地域の平和と繁栄を確保するため、これまで以上に積極的な役割を果たしていくことが求められる状況にあります。

従って、集団的自衛権の行使を許容する態様について、戦後一貫して平和主義を貫いてきた日本にふさわしい「日本型集団的自衛権」の姿を考察してみる必要に迫られています。

従来から、我が国の平和憲法は、@ 日本に対する急迫不正の侵害があること。A これを排除するために他の適当な手段がないこと。B 必要最小限度の実力行使にとどまるべきことに該当すれば、個別的自衛権の発動として武力の行使を許容しています。

これは、日本が武力攻撃を受けた「日本有事」を想定した要件です。

一方、集団的自衛権に関する国際法上の要件である「自国と密接な関係にある外国に対する武力攻撃」が発生した事態には到底あてはまりません。従って、現行憲法の下では集団的自衛権の行使は認められないと解されてきました。

こうした情況の中で、日本の安全およびアジア・太平洋地域の平和と繁栄に寄与する立場を貫くためには、平和憲法の理念を具現化した「日本型集団的自衛権」が必要となります。

この場合、平和憲法の理念に沿った歯止めとして、周辺事態安全確保法の規定に基き「日本の周辺地域において、そのまま放置すれば日本が、直接、武力攻撃されるおそれがあって、日本の平和と安全が脅かされ、重要な影響を受ける事態」(同法1条の趣旨)いわゆる「周辺事態」の発生を「日本型集団的自衛権」の要件に加えることを提案したいと存じます。

これによって、日本と密接な関係にある外国が武力攻撃を受け、「周辺事態」が発生すれば、自衛隊は後方支援活動から一歩踏み出して「日本型集団的自衛権」に基づく武力の行使が可能となります。

要約すると、「日本の周辺地域において、日本と密接な関係にある外国に対する武力攻撃が発生し、そのまま放置すれば日本に対する直接の武力攻撃に至るおそれがあって、日本の平和と安全が脅かされる事態」が「日本型集団的自衛権」の行使の対象となります。

これを要件とすれば、集団的自衛権は厳格な歯止めに縛られ、日本の平和と安全に力点をおいた「日本有事優先思考」の平和憲法を重視した「日本型集団的自衛権」となります。

ところで、周辺事態安全確保法では、「周辺事態」とは地理的概念ではないとされていますから、理論的には地球の裏側も対象にしています。「日本型集団的自衛権」の対象も「周辺事態」であることから、理論的には地球の裏側も対象となります。

しかしながら、日本の平和と安全を直接脅かすような「周辺事態」が地球の裏側で発生することは考えにくいとみるのが妥当な判断でしょう。

現に周辺事態安全確保法をめぐって行われた国会の審議の折にも、政府は「周辺事態が生起する地域にはおのずと限界があり、例えば中東やインド洋で生起することは現実の問題として想定されない」と答弁してきました。

この要件に準じて「日本型集団的自衛権」が発動される具体的な事態を想定しますと、例えば、A国(日本と同盟関係にある米国だけでなく日本と密接な関係にある国も対象)ないしはA国の艦船に対して、X国が武力攻撃を行ったと想定します。

その場合、X国の軍艦が引き続き日本周辺海域を航行して、日本に対する武力攻撃の明白な危険を生じさせ、日本の平和と安全を脅かす重要な影響を与える「周辺事態」が発生した時には、「日本型集団的自衛権」が発動されて武力の行使が可能となります。

このような状況に至れば、必要に応じてインド洋や中東海域を航行する日本及びA国のタンカーをX国の攻撃から護衛するため、海上自衛隊の護衛艦を派遣することが可能となります。

また、自衛隊がB国と共同してPKOあるいはPKF活動を実施している際、近くにいるB国が第3国から攻撃を受けた場合、B国救助のための武力行使は可能と考えます。

さらに、第3国が日本の同盟国あるいは日本と密接な関係にある特定の国に向けて発射したミサイルが日本上空を通過する場合には、撃墜可能かどうかの技術論と離れて、迎撃・撃墜できるものとみなします。

このほか、日本型集団的自衛権の行使と関連してグレーゾーンのケースにある事態については、個別に可否を判断して国会の承認を得ることといたします。

以上の考えを整理しますと「日本型集団的自衛権」の発動要件は、
@日本または日本と密接な関係にある外国に対する急迫不正の侵害があること。
Aこれを排除するために他に適当な手段がないこと。
B必要最小限度の実力行使にとどまるべきこと。
C日本周辺の地域において、そのまま放置すれば日本に対する直接の武力攻撃に至るおそれがあって日本の平和と安全が脅かされて重要な影響を受ける事態(周辺事態)が発生すること。
となります。

もともと、国際法上の集団的自衛権とは、アメリカが武力攻撃を受けた場合にアメリカの要請があれば、自衛隊も地球の裏側まで行って、米軍と一緒に戦うことを意味しています。

これに対して、日本国憲法の平和主義の理念を踏まえた「日本型集団的自衛権」なら、歯止めが明確となっており、多くの国民の理解が得られるのではないかと思われます。                
(元内閣官房副長官、元外務副大臣、元防衛政務次官)



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