2007年04月15日

◆涙の刑事裁判

 
川原 俊明 (弁護士)
被告人を処罰すべき刑事裁判で、被告人も弁護人も涙を流す光景は、めったにありません。ある地方裁判所での、刑事法廷の出来事でした。

被告人が刑事裁判にかけられている罪は、今はやりの詐欺事件。騙されやすい高齢者を相手に、警察官を装い、「某会社に、リフォーム工事を依頼したことがありますね。その会社が不正を働いたので、警察を通じてお金を返すことになりましたが、手続上、あなたから、まずお金をお預かりしないと行けないのです。」といって,お金を騙し取ったというものでした。

犯罪それ自体は、決して容認されるべきものではありません。私達弁護人としても、被告人には、接見(面会)のたびに、二度と罪を犯さないよう厳しく問い詰めて来たのです。

これを担当するK弁護士。
刑事弁護について、一つの信念を持っています。弁護士たるもの、言い渡された刑事判決の量刑の軽さを手柄のごとく自賛するだけでは、かえって被告人の再犯を助長するようなものである。

被告人に、犯罪の重大さと比べて、判決内容が「この程度で済んだ」と勘違いさせるのでは、本来の刑事弁護の目的に反する、と。弁護士は、被告人に有利な事情を引き出すことが当然の職責としても、裁判所、検察庁とともに、司法の一翼を担う立場にあります。

弁護士は、被告人が犯罪者であることに間違いなければ、十分な反省と再犯防止策を講じさせ、更生の決意を抱かせなければなりません。「社会を良くする」「社会から紛争を少しでもなくす」こと信念に、刑事弁護にチャレンジするK弁護士。


刑事法廷では、被告人に対する検察側の立証を終え、次に弁護側の情状立証に入るところでした。情状証人に予定されていた被告人の奥さんが、むずがる幼い男の子を脇に抱えながら、傍聴席を出て、証人席に立とうとしたときのことです。

裁判長が、被告人の奥さんに、「その子は被告人の子ですか。」と確認したあと、「被告人に抱いてもらっておいて下さい。」。

裁判長は、奥さんが抱えていた子供を、一時的にせよ、身柄拘束をうけて刑事裁判中の被告人に託することを許可してくれたのでした。約5か月もの期間、勾留状態にある被告人にとって、妻子が毎日のように拘置所に面会に来てくれていたものの、面会室では、もちろんガラス越しの話ゆえに、肌の触れ合いができなかったため、被告人もびっくり。

慌てて我が子を抱きしめ、奥さんの情状証人が終わるまで、幼い子は、ずっと被告人の膝の上にいたのです。その間の被告人。ぐずっていた子供に代わって、被告人自身が感極まって涙を流し続けていました。

30年近く弁護士生活を送っているK弁護士。裁判長のこんな粋な計らいは、初めての経験でした。K弁護士、早速、被告人質問で尋ねました。

「今、裁判長のご配慮で、子供さんを抱かせてもらったけれど、どんな思いでしたか」。
被告人「うれしかったです。ありがとうございました。子供のためにも立派に更生するつもりです」。

泣きながらの被告人の言葉に、被害者や、被告人の家族達が見守る傍聴席から、すすり泣きが聞こえてきました。そしてK弁護士の目にも・・・。

K弁護士「あなたが罪を犯していなかったら、毎日のように子供を抱けるのですよ。いかに罪を犯すことが愚かであることを自覚しましたか」。
被告人「もう二度と罪を犯しません」。
被告人の言葉は、子供を抱えた温かみが裏打ちされていました。

裁判翌日の毎日新聞朝刊(平成19年4月13日付け)ー大きな見出しが載っていました。
「むずがる長男 被告の腕に」、「裁判官 開廷中に促す」、「家族のために更生したい」。

裁判長の英断に、被害者と被告人、そして家族が涙した刑事法廷が生まれ、そこには、被告人の更生への硬い決意が響いていました。(了)
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