浅野 勝人(安保政策研究会理事長)
2月17日の安保研ネットに「ジャーナリズムとは何か」について所感を掲載いたしました。その際、ジャーナリズムは不偏不党をかざして中立公正を求め、「権力と対峙」するのが使命と申しました。
ジャーナリズムを支える報道の自由は、高い倫理観と重い責任感を担保に保証されており、その欠落はジャーナリズムであることの放棄を意味すると申しました。
これは、NHK政治記者、解説委員として20年、国会議員、政府高官として20年、取材する側と取材される側の体験から学んだ真理です。それぞれの立場で積み重ねられた失敗と悔恨の中から生まれた帰結といった方が正直です。
どの報道機関もジャーナリズムを大切にする多くの人材の努力を積み重ねて維持・発展してまいりました。NHKも1925年に放送を開始してから90年間、膨大な職員の艱難辛苦が実って、世界一の文化集団、世界有数の報道機関に成長して参りました。
この間、毎日新聞会長・阿部眞之助、朝日新聞代表取締役・野村秀雄、NHK解説委員・前田義徳ら、日本を代表するジャーナリストがNHK会長として真のジャーナリズムの確立に努め、その積み重ねが今日のNHKの骨格をなしています。
確かに中立公正とは何かを見定めることほど難しい判断はありません。
そんな中で、世界的規模のネットワークの放送メディアに限ってみれば、NHKやイギリスのBBCは不偏不党の立場を守ろうとする姿勢が鮮明です。
少なくとも、NHKが中立公正なニュースや番組を提供しようと懸命に努力している姿を認めている人は少なくありません。
そうでなければ、TVを視聴する世帯のおおむね80%がNHKの受信料を払うはずがありません。
籾井さん。NHKの放送内容が左寄りだから、ナットを締め直してまともな姿に戻すのが自分の仕事と思ったようですが、とんだ間違いです。
真ん中に立って見れば中道に見えるものが、あなたが右に偏った地点から見ているので真ん中のものが左寄りに映っただけです。
ですから、籾井さんは自らナットを締め直して放送法を順守するまともな位置にご自分を置き変えれば問題はおきませんでした。
そもそもジャーナリズムほど個々の個性、個人の能力に支えられて成り立っている業種はありません。
例えば、経営陣と取材記者、カメラマン、プロデゥサー、ディレクター、アナウンサー、映像編集者、技術者、その他多彩な職種の職員との相互信頼が失われたら放送メディアは崩壊します。
ですから放送内容の軸位置を大きく変えさせようとしたら、籾井さん、あなたのかざす思想、哲学、理念に東京の放送センターだけでなく、全国の放送局に勤務する1万人の職員が心服して納得しないかぎり達成できません。
世界一の文化集団、世界トップ級の報道機関にはどんな使命があり、どれほど多くの貴重な個性が存在するか、あなたにはまるで理解できていません。
分っていないから、放送人としての見識と能力を備えた10人の理事全員に、会長就任と同時に日付を空白にした「辞職届」を出させたのでしょう。
こんな非常識な振る舞いは、現職の理事に対する冒涜に止まらず、受信料を払って今日のNHKを築いてきた視聴者をはじめ、OBや関係者全員に対する侮辱以外のなにものでもありません。
籾井さん! もはやこれまで : お引き取りください。
(元NHK解説委員、元内閣官房副長官)