2014年03月01日

◆「パール真論」を読む(4)

平井 修一


パールは何も変わっていなかった。しかし以前とはパール招請をめぐる状況が一変していた。以前の招請は下中弥三郎(平凡社創業者)を中心とする世界連邦論者、アジア主義者たちが行っていた。彼らは「日本無罪論」に何も疑いをもっていなかった。しかしすでに下中は世を去り、このときパールを招請したのは「日本無罪論」の言葉を目の仇にする「東京裁判研究会」だった。

パールの来日を前に新聞に載った歓迎記事にも「研究会」の学者たちが「日本無罪論ではない」と書いていた。この最後の訪日でパールは何か違和感を覚えなかっただろうか。

パールは田岡良一(国際法学者、当時は京都大学名誉教授、関西学院大学教授)とNHKで対談したが、田岡はこう言っている。

「日本国民が1931年から1945年にかけて行った愚かなことが、博士の判決で正当化されて完全に無罪だと判断すべきではないのですね。日本国民は違った判決書を作成すべきです。その我々自身の判決書に従って、お互いに熟考すべきで、あのように愚かな行為を繰り返さないと誓約すべきだと考えます」

田岡のこのいやらしいまでの自虐的な言い方は一体何なのか。「我々日本人は有罪ですよね?」とパールに否定的返答を求め、パールの判決書では不満だと表明しているのである。

国際法の権威のはずの田岡は「我々自身の判決書」なるものを、何の法に基づいて書くべきと思ったのか、まったく理解不能である。

パールが帰国する前日、世界連邦建設同盟が主催する歓送会が行われた。田中正明氏ら世界連邦、アジア主義グループの人々とパールが交流した数少ない行事だった。「東京裁判研究会」の言行録では、このときのパールの挨拶はこれしか載せられていない。

「はじめ6か月の予定と聞かされてきたが、膨大な資料を見て、とても半年などで終わるものではなく、判決までに6年はかかると思いました。それが、日本人戦犯を有罪にするのに都合のよい資料だけを公表し、その他の資料を隠してしまったため、3年足らずで終わったのであります」

しかし「世界連邦新聞」1966年11月1日付によると、パールはもっと重要なことを話していた。

「私は通算4回、日本に来ました。1回は東京裁判、2回と3回目は下中さんが、裁判中私が判決文と取り組み、どこにも出なかったのを慰めるつもりで呼んでくださった。そのたびに日本の皆さんが深い愛情をもって下さることが感じられました。

今度も私の医者が絶対反対しましたが、日本の皆さんの愛情に応え、日本で死ぬなら安心して死ねると思ってきました。

私の日本に対する希望は、日本人はイデオロギーに毒されたり、占領政策の残りかすに毒されて分裂することなく、民族として団結してほしい。そして罪悪感におしひしがれず、誇りをもって世界のために起ち上がっていただきたい。今やあなた方を裁いた人々さえも、あなた方を注目しています。世界は日本に期待しています」

どうやらパールは最後に訪れた日本で、日本人の分裂を感じたらしい。それはおそらく「日本無罪論」に疑いを持たない人々と、「日本無罪論じゃないんでしょう?」と執拗に聞いてくる人々との分裂ではなかったか。

「日本人は分裂せず、団結してほしい。罪悪感におしひしがれず、誇りをもってほしい」

それこそがパールが日本に残した遺言といっていいだろう。

しかし言行録でその発言を抹消した「東京裁判研究会」の「共同研究 パル判決書」だけがパール判決書の完訳本として流通し続けた。その本では「日本人は罪悪感を持つべきですよね」と言わんばかりのことをパールに面と向かって言った学者が序文を書き、パール判決書の曲解の仕方まで載せられていた。

そしてパールの願いとは逆に、イデオロギーと占領政策の残りかすの毒はますます強まり、パールの没後40年の年(2007年)には、パールに関するウソとデマを集大成した本(中島岳志著「パール判事」)が出版され、それを学者やマスコミがほめあげるという事態にまで至ってしまった。

最後の訪日において、パールは行く先々で「I Love Japan」と記した。日本の恩人は死ぬまで日本を愛していたのだ。それに応えるには、まずパール判決書を正確に読み取り、そして占領政策の残りかすを払拭することから始めなければならない。(おわり)

              ・・・

本の返却日が来たので、とりあえずここで筆をおく。判決書の原文は「史実を世界に発信する会」のサイトにある。
http://hassin.org/01/newsletter/843
英語力がないために不本意ではあるが「共同研究 パル判決書」を取り寄せているところなので、機会があればまた報告したい。(2014/2/24)

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