「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
平成26(2014)年3月10日(月曜日)弐:通巻第4179号
〜ウクライナ情勢を巡る欧米露中の情報戦争、舞台裏は電話会談
仲裁の中心はドイツのメルケル首相が握っている実態が判明、出遅れの米国〜
オバマ米大統領は、ほとんどしどろもどろ。外向的無能という醜態をさらしている。
米国議会と共和党保守派はオバマの無能を批判している。ウクライナの内戦状態から発展したクリミア分離独立問題である。
なにしろ、オバマの対ロシア外交はジグザグである。「ヴィザ発給停止、資産凍結、貿易と投資制限の制裁を加える」と言っていたかとおもうと、いつの間にあやらトーンダウンだ。日本は明確に「制裁には加わらないしウクライナへのIMFの方針が決まれば(援助を)熟慮したい」と述べたことが米国を動かしたか。
ともかく直近の米国の態度には「劇的な変化がある」(プラウダ)。
クリミア自治共和国のロシア編入を巡る住民投票は3月16日に急遽行われるが、結果は火を見るよりも明らかで、住民の大多数はロシア人である。セバストポリで開催された住民集会はロシア国旗が乱立している。
プーチンはしかしながら「クリミアは併合はしない」と明言しているため、かつての南オセチア型の決着になるだろう。つまりロシア国内では、クリミア自治共和国は独立国家扱いされ、欧米は容認しないが、既成事実が積み上がる。
欧米の論理は「クリミアへのロシア軍派遣は国際法に違反し、ウクライナ憲法に違反する」というものだ。
一方、プーチンのそれは「クリミア半島にすむロシア人の安全を保護するためであり、ウクライナに誕生した暫定政権は非合法である」とする。
2008年8月8日、北京五輪開会式の日、開会式に出席したプーチンのもとに飛び込んできたのがグルジアにおけるサアカシビリ大統領(当時)の戦闘開始というニュースだった。グルジア民族主義に立脚するサアカシビリ大統領がオセチアに分離独立は認めないとして戦争を仕掛けたのだ。
このサアカシビリの軍事的冒険は欧米が支援してくれるだろうという計算があったからだが、結果的に欧米は軍事支援をせず、その後、ロシアは南オセチア共和国独立を認め、世界はそれを認めなかった。
欧米の外交的矛盾は、ロシア同様に国益重視のご都合主義である。 シリアへの爆撃を一度は決定しながらも、英国は議会の反対を理由に逃げ、米国は追随して、アサド政権の横暴をみて見ぬふりをふることにした。セルビアへ5000メートル上空から介入したクリントン政権のようなまねもできなかった。
シリアでは、プーチンが明確に欧米の介入に反対したため、ロシアでは「プーチン外交」の勝利と評価された。今回のウクライナ問題でもクリミアへの軍隊派遣を決断したプーチンの人気が急上昇を示している。ロシア議会は満場一致で軍の派遣を決めた。しかもロシア国民の70%近くが、クリミア分離独立に賛成している。
東チモールの独立で欧米は「住民投票の結果を重視する」と言い、セルビアからのコソボ独立も、スーダンからの南スーダン独立も同じ論法で支持した。
それでいながら、クリミアのウクライナからの分離独立には反対するというのは論理的矛盾である。住民の意思を尊重するという原則は、結局、列強のご都合主義に振り回されるのだ。
住民の意思を尊重するのならば、新彊ウィグル自治区もチベット自治区も中国から分離独立しなかればなるまい。
▲ このややこしい時期に中国外交の鵺的行動が始まった
電話外交が国際政治の舞台裏で行われている。
仲介役はどうやらドイツのメルケル首相である。メルケルは中国の消極的沈黙を揺るがす目的を含めて、なんとか中国を欧米よりの姿勢に転化させることができないか模索しているようである。
中国の沈黙が欧米にとって不安材料となったらしいのだ。
メルケル独首相は3月2日、5日、9日の3回に亘ってプーチン大統領に電話をしている。キャメロン英首相とも頻繁に電話している。
同時にメルケルは3月2日、4日、7日にオバマ大統領に電話している。
他方、ロシアはラブロフ外相が「同盟」の中国に対して3日に王毅外相に電話し、プーチン大統領は4日に習近平に電話したことが判明している。 ラブロフは6日にも、楊潔チ国務委員(外交担当、前外相)に電話をかけているが、米国はライス大統領補佐官が、6日に楊潔チに電話しているだけ。それは「意見交換」しただけで、要するに米国は中国にさぐりをいれただけである。
こうみてくるとメルケルが3月9日に習近平に電話したことを、いかに評価するか。
3月下旬にドイツ訪問をひかえる習近平は、さきにホロコースト記念塔の見学希望を断られたが、メルケルは「訪問は歓迎する。中独両国の相互理解は重要であり、ウクライナ問題では平和的解決を希望する。中国の影響力は重要であり、この平和的解決に向かっての中国の協力が必要である」と述べたという。
また中独関係の発展を評価し、マレーシア航空事故での中国人の犠牲に哀悼の意を表した。
対して習近平は「ウクライナ問題は複雑であり。中国はあらゆる事態を考慮したうえで『法と秩序』に従った均衡を重視したい」と述べるにとどめた。
日本? ウクライナ問題では、例によって列強からまったくの蚊帳の外におかれている。