2014年03月12日

◆「真珠湾」の1年前(4)

平井 修一


彼等(海軍のアメリカ人)が勇猛心に富んで居るのはアメリカの国民性の中にまだ植民地的なワイルドな点が残って居ることと、もう一つはアメリカ海軍の伝統政策と云うものは、「海軍は即ち決戦の具である、軍艦は決戦をする為に存在する、従って海軍と云うものは攻勢を執る為に存在するものである」と云う精神が、是は伝統的に海軍の中に植え付けられ成長して居る点であります。

その点はアメリカの人的要素の中の一つの特徴であります。

造艦力でありますが、是はアメリカが世界で一番大きい力を持って居るのであります。今大戦艦の船体を造るには恐らく千万円単位の金を要すると思うのでありますが、船体を仮りに経済的に造ることが出来ましても、そこから大きな戦艦を進水させる港の広さ等色々の関係からこの船体が容易に出来ないのであります。

それから金は御承知の通り材料も十分にあるのだから本当に造る気があれば出来るのであります。又今迄それを造りかけたこともあるのであります。

問題は造艦技術がどんなものであるかと云うことであります。果たして立派な船が出来るのかどうかと云う問題であります。そこで四、五年前には「アメリカの軍艦は案外だらしがない」と云う風な説が世界に伝えられたのであります。「アメリカは其の材料設備はあるけれども一部には大したものでない」と云う風な批評がつい三四年前迄世界一般に行はれて居ったのであります。

処が最近のものはどうかと言いますと、欠陥によって今後改造すべき点を知り、又遠慮なく改造した結果色々な重要な材料を発見しまして、最近に於ける各軍艦の内容は先ず世界の一流として差支えない程度になって居るのであります。

是は常識で考えましてもあれだけ立派な飛行機を作り得るアメリカが単り軍艦に於てのみ世界の一流海軍に較べて劣って居ると云うことはないはずでありまして、失敗の経験に依って今日では立派な艦が出来るようになったのであります。

其の相当の艦と云うのは全体どう云う風な威力を持って居るかと云うことを考えなければならないのであります。今造って居るアメリカの戦闘艦は十艘でありますが、其の中の六艘が三万五千トンの日本の陸奥、長門に匹敵するものであります。

後の四艘が四万五千トン乃至五万三千トンと言われる巨艦であって、是はアメリカから言わせますと日本も大きいのを造って居るから俺もそれに敗けないものを造ると称して之を起工したのであります。

アメリカの発表に依りますと四艘の中二艘は四万五千トンと決定して居りますが後の二艘は五万トン乃至五万三千トンと云う風に言われて居ります。其の六艘は本年の六月進水したワシントン、ノース・カロライナ級でありまして、是は大体に日本の陸奥、長門に匹敵し、そうして陸奥、長門よりも厚いアーマー(装甲)を持って居るものと思えば大して間違いないと思うのであります。

日本の山城、扶桑に匹敵するのがオクラホーマー級のものでありまして、それ等を見ますると、アメリカ戦艦の特徴は非常な厚いアーマーを張って、其の代り速力が遅いという点であります。其のオクラホ―マー級の戦艦でも尚重要な点には十六インチの厚さの鋼鉄を張って居るのでありまして、是は恐らく日本のものよりも厚いのであります。

其の代り速力は日本の戦闘艦よりも一割方遅いのであります。此の点は両国の主力決戦を観察する場合の大きな又興味ある点であります。

アメリカの海軍は攻勢の為に存する、守る為にあるのではなくして攻める為にある。攻める場合の一番の重大な要件は何かと言えば砲力と防御力である。速度は第二の問題であります。何となれば自分は逃げない。

敵が逃げれば自分より早ければ之を逸するかも知れないが、併し自分は飽迄(あくまで)或(ある)戦略に副ふて決戦場迄行く、そうして敵と戦う、敵と戦う場合に一番大事なことは無論砲力であるが、もう一つは敵に打たれても沈まないと云う点、詰り長く攻撃に耐えるという点が戦闘艦をして攻撃の武器たらしめる為に必要であるのである。

斯う云う思想がアメリカには前からあるのであります。従って「アメリカの戦艦は遅いけれども強い」。そう云う意味に於ては世界で一番な戦闘艦でありましょう。今造りつつありますワシントン、ノースカロライナ級の戦闘艦は重要なる部分には皆十八インチの鋼鉄板を張っております。それから中甲板にも又四インチ前後の銅鉄板を張って居ります。それから上甲板は十インチの鉄板を以て張られて居ります。之は申す迄もなく弾く為の
ものであります。

恐らくワシントン級に至ってはそれよりも尚防御鉄板の為に余計のトン数を割いて居るのであろうと思うのであります。其の代り速力は二十七ノット位しか走らない。今世界の戦艦はドイツで最近に出来ると思いますがビスマーク級の三万五千トン戦艦は恐らく三十一ノット走ると思うのであります。

イギリスの戦艦は三十ノット、日本が若し造るとすれば或はそれよりも速いものを造るかも知れませぬ。少なくとも三十ノットは常識となって居る時に、それよりも一割も遅い二十七ノットの速力で満足して居ると云う所にアメリカの戦闘艦の特徴があるのであります。

是は唯決戦をする為に真っしぐらに戦場に臨んでそうしてそれで自分は逃げずに最後迄戦うと云う戦闘精神が軍艦の上に表現されて居るのであります。此の戦艦の特徴と相俟って我々はアメリカの海軍政策が常に攻勢的であると云うことを考え得るのであります。

アメリカで非常に大事にされて居るのが航空母艦であります。此の航空母艦を中心としたアメリカの新戦略に付ては本月も私は東京の或る雑誌へ其の一部を書いて置いたのでありますが、アメリカが空軍を完全に使用することは恐らく外の国よりも最も先に発達して来たのであります。

現在浮いて居るのが六艘、造って居るのが五艘、是から造るのが八艘でありまして、其の航空母艦の勢力はどこの国よりも多くなるわけであります。日本でもサラトガとかレキシントンと云う名前は子供でも知ってる位に有名になって居る艦であります。此の外に最近になってアメリカはエンタープライズ、ヨークタウン、レンジャー、ワスプの四隻(二万トン級)を造ったのであります。

其の航空母艦は元は戦闘機と偵察機と爆撃機と水雷機と四種類の飛行機を積むのが定石であったのでありますが、最近は其の中から偵察機と戦闘機とを取ってしまって、爆撃機と水雷機、此の二つに集中して来たのであります。サラトガ、レキシントンは大体百十二程積んで居るのであります。

アメリカは此の航空母艦を単独に外国の襲撃の為に使う戦法を考えて居った。所謂キャリヤー・ストライキング・フォース、空軍攻撃戦隊、私は之を海上電撃隊と云う風に訳して置いたのでありますが、それは一艘の快速巡洋艦とが組んで一体となって、そうして敵の都市要塞の爆撃、敵の商船の爆撃、或は商船隊の襲撃、又是が海上の決戦を行う場合は両軍の主力艦の前方に立ふさがってそこから水雷及爆弾を以て敵の主力艦の運動を妨害すると云う、そう云う風な幾つもの作戦に利用されるのであります。(つづく)(2014/03/10)

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