2014年03月22日

◆あの石炭成金たちの末路

「宮崎正弘の国際ニュース・早読み」
 

<平成26(2014)年2月28日(金曜日):通巻第4164号> 
   
〜あの石炭成金たちの壮大で剛毅な「夢は儚く消えて」
 中国石炭企業の負債を「投資信託」で乗り切ってきたが、ついに限界〜

10年ほど前のことだった。

筆者は山西省を南から北へと10日ほどほっつき歩いた。仏教の「聖地」とされる五台山にも登り、麓の旅館でサソリを食べた。ちょうと中国国内に観光ブームが押し寄せ、五台山にはでこぼこの山道が開け、四輪駆動のジープ(もちろん日本製)で頂上まで登ることができた。江沢民も2回参詣した仏教の聖地で、麓の街にはにょきにょきと高層のホテルが建っていた。

旅館には300人が収容できる巨大な食堂、そこでは朝から掛け軸のオークションをやっている。街で買えばせいぜい一本1000円ほどの水墨画など、五千円、一万円と跳ね上がって、買い手はとみるとボロボロのジャンバーを着たおじさん風情。異様なバブルの始まりだった。

山西省の北に大同という街がある。

中ソ対立のおり、この大同には人民解放軍が50万人も駐屯し、まさしく軍事都市だった。中ソ対立が終わり、軍の他地域への移動が始まると、大同は石炭の街に戻り、おりからの石炭ブームであちこちに成金が出現した。

この石炭成金のことを「煤老板」と呼称した。内蒙古自治区から若い女性を呼び寄せ、煤老板らは愛人を何人持っているかを自慢しあった(内蒙古は背が高く色白の美人が多い)。

大同を走るクルマはベンツ、BMWなど、しかもぴかぴかの新車だった。人口比率からいえば上海より大同のほうが高級外車が売れるとガイドが鼻高々に言った。

たまたま食事を摂ったホテルの宴会場は派手派手しい結婚式。新郎新婦は洋装、参加者の女性の多くがけばけばしい化粧をしていた。

アルコール度の強い白酒、コウリャン酒、五糧液など、歌手を呼び込んで嵐のような大騒ぎに興じていた。あの豪快な山西省石炭成金の夢は、いまや儚く消えて、繁栄は幻のなかに潰える。

中国で石炭は2006年から価格上昇が開始され、08年の石炭生産は4000万トン、それへ投機ブームが折り重さなって2012年には2億9000万トンとなり、石炭業界に26兆円が投下された。ヤクザも絡んだ怪しげな炭坑には各地から誘拐してきた少年らを奴隷のように働かせていた。

その絶頂時、2012年9月に筆者は北朝鮮との国境の町、丹東(日本時代の安東)から鉄道で瀋陽へ出た。

このルートは中国人民解放軍瀋陽軍区の兵隊が移動する鉄道輸送ルートで、貨物列車には装甲車、戦車が搭載されていた。同時にこの鉄道沿線はすべてが石炭生産と鉄工所が建ち並ぶ場所である。瀋陽の隣は世界最大の露天掘り、撫順炭坑がある。煤煙でまっ黒な街である。

車窓から沿線の風景を観察しながら驚かされた。

遼寧省各地でも石炭集積所に山のように石炭が積まれ、鉄工所は火が消えている。荒みきった不況に陥没していたのだ。

筆者は帰国後、そういうルポを書いたが、日本のマスコミは中国の高度成長まだまだ続くなどと現場を異なる報道をしていた。


 ▼不動産部門に2600兆円が投じられて各地にゴーストタウンができた

じつは2011年から石炭業界は過剰在庫になやみ、「山西連盛集団」などは1万人の従業員への給与遅配が生じていたのだ。そして銀行は貸し渋りに転じた。民間炭坑は国有銀行からの融資が受けられないので閉山閉鉱が相次いでいた。

「山西連盛集団」は悪化する一方の資金繰りに妙手を思いついた。

年利10%前後の高利をうたう投資信託を「発明」した。その名を「吉林松江77号」と呼称し、銀行を通じて、この「投資信託は元利保証です」と騙って、預金者に売った。これがシャドーバンキングの嚆矢である。

後智恵になるが、リーマンショック直後の中国の財政出動は4兆円(当時のレートで57兆円)だった。降って湧いたような金に群がり、各地に高速道路、団地、そして新幹線が東西南北に1万キロ!

爾来、つまり2009年から13年までに固定資産(住宅、マンションなど)に投じられたカネは2600兆円。だからGDPの47%は不動産という中国のいびつな変形経済構造が出来上がった。

また同期間、成長率より高い通貨供給の増大がみられているが、これは借り換えのためである。

石炭はピークを打った。2000年代に4倍に跳ね上がっていた石炭価格は2割から3割下落した。国際価格は暴落し、鉄鉱石もインドや豪で余りだした。

鉄鋼も粗鋼生産6億トンという異常な生産過剰、在庫過多におちいって鉄鋼業界そのものが再編過程、あちこちの鉄鋼場の日が消えた。


 ▼無謀な借金経営も償還時期がやってきて。。。

中国の石炭業界は大手100社、ほかに数千の民間企業が鉱山を経営してきた。なかでも本場が山西省、遼寧省、黒竜江省だ。

大手の一つ「山西振富能源集団」は資金繰りが悪化したため「中誠信託」なる高利の投資信託を売り出し、その商品名は「中誠誠至金開一号」。中国工商銀行が預金者に販売して70億元(1200億円)をかき集めた。誠意のかけらもなかった。償還がきてもカネはどこかに消えていた。

元利保証は詐欺だった。しかし販売した中国工商銀行は責任を取らなかった。

2014年1月、債務不履行が生じ、各地で取り付け騒ぎに発展した。これは石炭業界全体を震撼させる由々しき事態だが、突如「身元不明」の投資家が現れ、元利を保証した。

これから石炭と不動産バブル期に販売した高利の理財商品の償還が本格化する。地方政府の債券も償還時期を迎える。

英誌『エコノミスト』(2014年2月15日号)によれば、そのうち2割前後しか地方政府は債務保証していないけれど、貴州省などはあきらかに地方政府の補償限界を超えていると指摘している。

つぎの危機に遭遇しても、「身元不明」の投資家が土壇場で現れることも想定されるが、おそらくそれは中国の国庫からの緊急融資であろう。

人民元が下落気配にあるのは、投資家がいよいよバブル崩壊が始まることを本能的に知覚し、極度の警戒を始めたからだろう。

げんに豪シドニーを拠点として日本の優良企業の株を、おおよそ5兆円も保有していた謎の「オムニバス05」は、静かに日本株を市場で売却した。このファンドの実態は中国国家ファンド(CIC)であり、手元資金不如意が原因と推定できる。
 
かくして拙著『中国バブル崩壊が始まった』と『中国共産党3年以内に崩壊する』の予測は日々、その通りに推移しているのが中国の現状である。
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