2014年04月28日

◆事実上零成長、中国市場幻想を捨てよ

田村 秀男


先の日米首脳会談で中国について、安倍晋三首相が「力による現状変更の動きには明確に反対する」と牽制(けんせい)したのに対し、オバマ米大統領は「平和的な台頭は支持している」と述べた。はからずも日米の間の対中観の食い違いが明らかになったのだが、中国が「力」を振りかざす局面は経済停滞とともに長期化、常態化するだろう。

「えっ、中国はこの第1四半期でも7・4%もの国内総生産(GDP)の実質成長を遂げているじゃないの」と疑問を抱く読者もおられるだろう。だが、中国で言う7%台の成長は景気の低迷を意味する。中国のGDPデータはそれほど、経済実体との乖離(かいり)が激しい。

このことを最初に認めたのが、他ならぬ李克強首相で、首相が2007年3月、遼寧省党書記時代、訪ねてきた米国の駐中国大使に向かって、当国のGDP統計は作為的で信頼できないとし、「重量をもとに運賃を計算する鉄道貨物量はかなり正確にGDPと連動する」と述べた。

そこで、まず鉄道貨物輸送量とGDPの増減率を見てみる。2008年9月の「リーマン・ショック」後、鉄道貨物輸送量はマイナス6%だったのに、GDPデータは6・6%のプラス成長になっている。当時の中国経済を引っ張ってきた輸出が激減したのだから、どちらのデータが現実の経済を反映するのか答えは歴然としている。

2012年以降、GDP公式統計でみる実質成長率は現在まで7%台を保っているが、鉄道貨物データのほうは12年9月から13年6月にかけてマイナスまたは0%の成長を示したあと13年後半に回復したのもつかの間、今年3月にはマイナス3・5%に落ち込んだ。中国の経済不振は今や、リーマン・ショック当時よりも長く厳しい。

グラフには全国不動産平均相場動向を加えた。不動産相場はおおむね、鉄道輸送量の変動を先導していることが読み取れる。言わば中国景気の先行指標である。12年前半には急激に落ち込んだあと、昨年半ばには急速に回復したように見えたが、後半からは再び急落し始めた。鉄道貨物輸送量もその後を追うように減少している。

この関連性は中国経済特有の要因による。中国はリーマン後、北京の党中央が地方政府と国有商業銀行に指令を出して、不動産熱をあおり立てた。不動産開発を中心にした固定資産投資は中国GDPの45%を占めるので、固定資産投資が前年比20%増えるだけで中国のGDPは9%増える計算になる。

中国は党官僚の裁量がきく土地の公有制をとるので、不動産開発は党の意向次第でコントロールできる。地方政府は土地使用権を農民などから強制収容し、デベロッパーに売却する。

不動産相場が上がる中で開発投資が活発になるので鉄道貨物に代表されるモノが動くようになる。逆に不動産相場が下がり出すと地方政府は土地使用権の販売を控えるので開発投資が減り、鉄道貨物輸送量も細る。

他方で、地方政府は主要財源を土地使用権販売収入としているが、不動産相場が下がると財源難に陥る。使用権を乱売せざるをえなくなって不動産相場を崩落させる。

不動産デベロッパーは年利回り10%前後の投資信託である「理財商品」を発行して資金調達するが、単純に考えると不動産相場が10%以上上昇を続けないと、デベロッパーは返済不能になる。理財商品の5割程度は銀行が保証しているので、不動産バブルの崩壊は金融不安を招きかねない。

以上のように、グラフが指し示すのは中国経済モデルの破綻であり、これまでの開発投資主導に代わる経済成長モデルの不在である。鉄道貨物輸送量が中国経済の紛れもない現実だとすれば、正真正銘の経済成長率は0%以下と見るべきだろう。

再浮上させるためには、人民元を大幅に切り下げて輸出にてこ入れするしかないが、そのときは巨額の資本逃避ばかりか、悪性インフレが発生しかねない。

経済不振は出稼ぎ農民の雇用条件悪化や年間710万人にも上る新卒者の就職難を招いている。一党支配を正当化してきた高度成長が不可能になった以上、党中央が若者や農民の不満の矛先を日本など外部に向けさせるのは不可避だ。

沖縄県尖閣諸島をめぐる武力威嚇も、戦時中の問題を根拠に商船三井の船を差し押さえた事件も、第2次大戦中に強制連行されたという元労働者らが日本企業に損害賠償を求める動きも、根は一つなのである。日本企業は中国市場幻想を捨てるべきだ。
産経ニュース【日曜経済講座2014.4.27
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