2014年04月29日

◆尖閣明言に見えた大統領の覚悟

坂元 一哉


米国初の「太平洋系大統領」を自任するバラク・オバマ大統領。ウクライナ問題などで揺らぐ米国の世界指導を立て直し、また、40%台で低迷する政権支持率を立て直すためにも、自らが外交政策の目玉に掲げるアジア・太平洋重視政策(「ピボット」あるいは「リバランス」と呼ばれる)を大きく前進させる必要がある。

 ≪中国に地域覇権は許さない≫

オバマ大統領を国賓として迎えた先週の日米首脳会談は、その前進にかける大統領の覚悟が問われる会談だったといえるだろう。会談後の共同声明は、安倍晋三首相がいうように、日米同盟の発展に画期的な意味を持つものになった。だが、大統領の覚悟はといえば、見えたところもあれば、見えにくいところもあったとしかいえない。

「ピボット」政策は、米国外交・安全保障政策の中心を成長著しいアジア・太平洋に置き、この地域に米国を中心とした、自由と繁栄の新しい国際システムをつくる。急速に台頭する中国については、「平和的発展」を歓迎するが、地域覇権は許さず、新しいシステムへの参加を誘う。そういう政策である。

この政策に関して今回、大統領の覚悟がよく見えたのは、大統領が、この政策の「中心的基盤」と位置づける日米同盟の抑止力強化を一段と明確にしたことだろう。それは中国に地域覇権を許さないための重要な努力でもある。

オバマ大統領は、日米安保条約が「尖閣諸島を含め、日本の施政の下にある全ての領域に及ぶ」(共同声明)ことを確認した。

尖閣諸島に安保条約が適用されることはクリントン前国務長官など、オバマ政権の重要閣僚も確認している。また尖閣諸島は実際に日本の施政権下にあるのだから、米国が日本の尖閣防衛に協力するのは安保条約の条文上、当然でもある。だが、大統領がその当然のことを初めて明言し、共同声明に「尖閣諸島」と書き込んだのは画期的な意味を持つ。

 ≪「警戒と抑止」の比重増す≫

オバマ政権はこれまで、尖閣問題などで中国の行動を警戒し、抑止する姿勢を示しつつも、政治的、経済的に関係を深める中国をなるべく刺激しないよう配慮してきた。その態度は今後も基本的には変わらないだろう。

だが最近は、警戒と抑止の比重が増してきたようである。大統領が尖閣防衛を明言したのもその表れと見てよい。

昨年、中国は、尖閣上空を含む空域に、ADIZ(防空識別圏)を一方的に設定した。また今度のウクライナ問題では、米露の間で漁夫の利を得ようとしているように見える。そうしたことがオバマ政権内に、中国に対するこれまで以上の警戒と抑止の必要性を認識させているのではないだろうか。

今回の会談でオバマ大統領の覚悟がよく見えなかったのは、新しい国際システムの中核になるTPP(環太平洋戦略的経済連携協定)に関してである。

アジア・太平洋地域に高いレベルの自由貿易と投資のルールを設定しようとするTPPは、地域の経済発展に大きく貢献するだけでなく、中国の経済力がアジア諸国を政治的に取り込んでしまう不当な影響力を持たないようにするための戦略的な政策でもある。経済交流と話し合いが平和を生む、といったオバマ大統領のリベラルな世界観にも合致している。

大統領は今回、そのTPP成功の鍵を握る日米2国間交渉の決着を期待して来日した。

 ≪TPPでは譲歩意思見えず≫

だが、事務レベル、閣僚レベルで何十時間も交渉したにもかかわらず、日米は「大筋での合意」に至らなかった。共同声明の文言は、日米間の重要な課題について「前進する道筋を特定した」とするだけである。

交渉の詳細が明らかではなく、この言葉の意味するところが「大筋での合意」に近いのか、遠いのか私にはわからない。ただ報道などからすると、交渉が異常に長引き、結局まとまらなかったのは、米国側に大きな譲歩をする覚悟がなかったからのように思われる。

首脳会談前日の夕食会で、オバマ大統領は安倍首相に、首相の支持率は60%で自分は45%だから首相に譲ってほしい、と述べたという。むろ ん冗談だろうが、秋に議会の中間選挙を控えるなど、国内事情で自分は大きな譲歩ができないのだとアピールしているようにも見える。

しかし、国内事情があるのは日本も同じで、交渉をまとめるには双方が譲歩して「前進する道筋」を前進するしかない。それに支持率のことをいえば、いまのオバマ大統領が支持率を50%台、あるいは政権初年のような60%台に戻そうと思えば、外交政策で成功をおさめるしかないだろう。

TPPは、米国同様、アジア・太平洋への関心を深めているロシアを経済的に牽制(けんせい)するという意味でも重要性が増している。オバマ大統領は今後、より一段と強い覚悟を持って、TPP問題に取り組むべきだろう。(さかもと かずや)大阪大学大学院教授
産経【正論】2014.4.28


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