2014年04月29日

◆核が日中開戦を抑止する H

平井 修一


(承前)平松茂雄氏の論考「日本核武装の緊急性」から――。

               ・・・
■米国を封じ込める中国の核戦力

最初の核実験から40年ばかりを経た平成17年(2005)7月に、中国人民解放軍の最高教育機関である国防大学の高級幹部、朱成虎少将は、外国人記者との会見で、「米国がミサイルや誘導兵器で中国の領土を攻撃するならば、中国は核兵器で反撃する」と答えた。

将軍は「中国の領土には、中国軍の艦艇や航空機も含まれる」中国は西安以東のすべての都市が破壊されることを覚悟しており」「米国も当然、西海岸の100以上、もしくは200以上、さらにはもっと多くの都市が破壊されることを覚悟しなければならない」と述べた。

この発言について、当時わが国には「一部の軍人の跳ね上がった発言」との見方があった。「それはとんでもない見当違いの見方である」と当時筆者は批判した。朱将軍の発言は、例えば中国には台湾軍事統一に際して米国が軍事介入する場合、通常戦力では米国に勝つ能力はないこと、米国との戦争で中国は核兵器を使用することを明確にしたといえる。

中国は核ミサイル戦力がひとまず完成した1980年代に入ると、限定的な通常戦力の現代化を進め、中国周辺地域・海域で起きると想定する局地紛争に即応できる戦力、および台湾海峡を渡海・上陸するための軍事力の構築に全力を投入している。

だが台湾の軍事統一に米軍が介入するならば勝ち目はないから、その場合には、米国本土の主要都市を核攻撃すると威嚇して、軍事介入を断念させるほかない。米国国民を「人質」にする戦略である。

平成8年(1996)3月、台湾で初めて総統選挙が実施された時、「台湾独立」を指向する李登輝総統の再選を妨害する目的で、中国は弾道ミサイルをはじめとする軍事力を誇示して、あからさまに台湾を威嚇したことがあった。

このとき米国は「台湾関係法」にもとづいて、台湾の北部と南部の海域に、航空母艦を派遣した。一隻は横須賀の米海軍基地から出港した「インディペンデント」、もう一隻は中東にいた原子力空母「ニミッツ」がインド洋からマラッカ海峡を通って南シナ海を北上した。緊張は高まったが、それにより台湾海峡の危機は去ったといわれた。

この時台湾はもとより、台湾を支持する日本や米国の人たちは、「台湾は勝った、中国の軍事力はとるに足らない」と勝ち誇った。だが間もなく、このとき中国は米国に対して核攻撃をほのめかしたことが、米国側から明らかにされた。

当時米国・日本などとの交渉を担当していた熊楷光副参謀長は、中国を訪問したフリーマン前国務次官に、次のように伝えたといわれている。

「1950年代に米国は3回、核兵器で中国を攻撃すると公言した。米国がそのようなことができたのは、中国が反撃できなかったからだ。今は反撃できる。米国は台北よりもロサンゼルスについて、もっと心配した方がい
い」と。

当時中国はワシントンやニューヨークに到達できる大陸間弾道ミサイル「東風5号」を配備していた。このミサイルはロケットの推進に液体燃料を使用するので、発射までに時間を要し、その間に偵察衛星で発見され攻撃されてしまうから役に立たないと見られていた。

だがそれより10年ばかり前の昭和60年(1985)5月に、人民解放軍機関紙「解放軍報」は、「十数年の歳月をかけて、刻苦奮闘の末、長城工事と呼ばれる弾道ミサイル基地が完成した」ことを公表していた。

それによると、上空からの偵察で発見されにくい人跡まれなガガたる山岳地帯に、各種・各型の弾道ミサイルを発射できる複数の発射基地、それらを結ぶ数十キロの道路、通信ケーブルが設置され、変電所が地下に建設された。いくつもの囮の発射口が設けられている。

この記事は、中国の大陸間弾道ミサイルが米国の先制攻撃を受けても生き延び、米国を核攻撃できる発射基地が構築されたことを意図的に伝えたと考えられる。

また同じ時期に、中国は射程8000キロの移動式の新型大陸間弾道ミサイルの発射実験を実施した。このミサイルならばロサンゼルスは射程内に入る。発射時間は10分から15分程度、しかも移動式だから、発射してから別の場所に移動して、敵の攻撃から生き残ることができると見られている。

「米国は台北よりもロサンゼルスについて、もっと心配した方がいい」との副参謀長の言葉は、それを踏まえた発言であった。

ロサンゼルスの400万人を含め、その近郊地域の1000万人が脅威にさらされることになれば、日米安保条約に基づく米国の「核の傘」が持つ効力は大きく変質することになるであろう。そうなった場合、米国政府は果たして自国民の安全を危険にさらしてまで、日本人の生命を守るであろうか。

正常な国であれば、自国民が深刻な危険にさらされている時に、それに優先して他国を守ろうとする国はないであろう。どんな国でも自国民を防衛するのが最優先であるし、本国への直接の脅威に直面すれば、他国を守る余裕はなくなる。(つづく)(2014/4/29)

この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック