2007年04月22日

◆国務次官補の田中均化


          渡部亮次郎
日本の外務省筋では、アメリカで北朝鮮外交を担当しているヒル国務次官補が「米国の田中均」と囁かれているという。対北朝鮮融和派と見られたからだろう。

イラク・イラン・北朝鮮外交で手詰まり観があるブッシュ政権が、ヒル国務次官補を試しに使っているというのが、大方の見方である、と友人が教えてくれた。

そういえば中川昭一(当時経済産業大臣)に向かって「大臣、北朝鮮のような小さな問題ではなく、もっと大きな事に関心をもってくださいよ」などと発言したことに対し「北朝鮮による拉致で、子どもや家族が26年間も帰ってこない人たちがいる。それでも小さい問題なのか。 あなたみたいに北朝鮮のスパイみたいなようなことをしていては駄目なのだ」と中川大臣からどやされた。田中はどこへ行ったのだろう。

古い記録を調べた。05年03月31日付の読売新聞に
<田中均外務審議官(58)が、今夏に予定される外務省の定期人事異動を機に退官する方向となった。

外務省筋によると、同期の谷内正太郎氏が05年1月に外務次官に就任したことから、今夏の人事での大使転出を非公式に打診されたが、本人は固辞したという。

田中氏は北朝鮮高官と秘密交渉を重ね、2002年に小泉首相の電撃的訪朝を実現させた。一方、自民党などから「北朝鮮に融和的すぎる」との批判も招いた>とあり、退官後、日本国際交流センターシニア・フェロー。2006年春より東京大学公共政策大学院客員教授になっていた。拒否しなければ彼のプライドが許さなかった。


外務次官間違いなしと言われていた田中だったが、北朝鮮による拉致問題の処理で「靴下の履く順序」を間違えて転落してしまった。それにしても外務省筋がアメリカのヒル国務次官補が「米国の田中均」と囁かれているということは、ヒルも転落間違いなしと呼んでいるのだろうか。

外務省職員略歴(簿)によれば田中は本籍岐阜県。戦後の1947年1月15日生まれである。団塊の世代。父親は総合商社日商岩井(現双日)元会長の田中正一。私が大臣秘書官として在任当時、彼は1等書記官としてワシントンに居たらしいが、面識の無いまま終わった。

京都大学出の田中は若い頃、外務省のメインストリームである北米局、条約局の日米安保関係を担当する部署を経ていない、非「安保屋」「条約屋」だったが、2000年 経済局長に就任したあたりから、政界とのパイプを梃子にのし上がり 2001年には地域局長たるアジア大洋州局長のポスト獲得に成功。北朝鮮問題という政局の核心的テーマにたどり着いた。

2002年9月の小泉純一郎首相の訪朝においても、アジア大洋州局長として2001年末から長く水面下の交渉を担当し、訪朝まで80回に及ぶ小泉総理との面談を行ないながら官邸主導外交を演出した。しかし福田康夫官房長官の信頼を獲得した。

2002年遂に外務審議官(政務担当)にのし上がり事務次官間違い無しと自他ともに信じた。一方で田中はこれらの交渉の中で日朝国交正常化を優先し、拉致被害者問題を軽視したと言われており、普天間基地交渉でも行なわれた彼の「秘密外交」スタイルともあいまって、田中はマスコミに激しく糾弾されることとなった。

同年10月に帰国した拉致被害者5人に対し、北朝鮮の要求通りいったん送り返すよう主張したと言われている。このあたりが靴下の履き違いである。

国民はまず拉致された人たちの奪還が先と考えているのに、田中はそれを無視し、国交正常化が先だと考えていたのである。この点を私は当時「靴下を履くとき、左から先にすると決意したものを急に右にはかせろと言っても無理なのと同じだ」と論評したのである。

2003年9月10日には「建国義勇軍国賊征伐隊」を名乗る右翼団体によって、田中の自宅ガレージに爆発物が仕掛けられる事件も発生した。

都知事石原慎太郎が「(田中審議官宅に)爆弾が仕掛けられたが、当たり前の話だと思う。いるかいないか分からないミスターXとわたしは交渉したなんて、向こう(北朝鮮)の言いなりになっている」と発言したが大問題にはならなかった。

一部の石原嫌いはこれは超弩級の問題発言で、これで「石原新党」の話も、次期総理の話も消えましたと揶揄したものだが石原は悠々と2007年、と知事似に3選した。ここでも田中は無視されたのである。

2005年 退官(8月)で幕は下り、世間は田中を忘れた。ヒル国務次官補もこうならなければいいが。事情通は、彼は、さらに譲歩に次ぐ譲歩を重ねて、何とか恰好をつけるしか手は残されていない、と冷たい。文中敬称略。2007・04・20


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