2014年05月30日

◆北、孤立脱却への突破口を狙う

杉浦 正章



“拉致”で“カネ”が最大の目的
 

北朝鮮第一書記・金正恩が世界的な孤立からの脱却を目指して拉致カードを切った。3週間後に北朝鮮が再調査のための特別委員会を立ち上げ、それに応じて日本は独自の制裁措置を徐々に解除してゆく仕組みだ。


就任以来核実験、ミサイル実験など強硬路線を誇示してきた金正恩が、ここに来て日本との関係改善と融和を突破口として選択しようとしている背景は何か。明らかに各国による制裁が効いて、“音(ね)を上げる” 状態に立ち至ったのだ。


拉致問題を最終的に日本からの経済援助に結びつけ、窮状脱却のよすがにしたいのだ。そして日本との関係改善をきっかけに、世界的な対北包囲網の切り崩しを図りたいのだろう。


「拉致問題は解決済み」一点張りだった北朝鮮を「全ての日本人に対する包括的な調査」に急変させたことは、首相・安倍晋三の外交路線にとっても大きな得点だ。安倍は官房長官・菅義偉とともに、対北強硬路線の最右翼である。


北にしてみれば、そこを“懐柔”させることができれば全ては動き始めると判断したのであろう。


しかし全ては「包括的調査」の内容にかかっていることは言うまでもない。かつて北朝鮮は08年に調査を合意しているが、首相・福田康夫退陣とともに一方的に打ち切ってきている。状況不利と見ればいつでも約束を翻す国であることを忘れてはなるまい


加えて拉致を実行に移したのは北の特務機関であり、これには金正恩の父親の金正日がとりわけ深く関与しているといわれる。本格的調査をするとなればこの特務機関にメスを入れなければならないが、厚い組織の壁を突破してでも調査ができるのか。


金正恩がよほどのリーダーシップを発揮しない限り正確な調査は難しいと見なければなるまい。かつて横田めぐみの遺骨が偽であったことが判明したが、苦し紛れに同様のことをしかねない事に注意を払う必要がある。


ただ08年の調査は拉致被害者限定であったが、今回は「全ての日本人」が対象であり、これが意味するものは政府が掌握していない拉致被害者や拉致された疑いのある特定失踪者が出てくる可能性もあると言うことだ。


北朝鮮はこれまで被害者12人のうち8人が死亡、4人が未入国としている。しかし、政府筋によれば、生存者が存在する可能性はかなり高いようであり、拉致問題を解決すべき優先順位の上位に位置づけている安倍としては、最終的には平壌に行ってでも、被害者を連れ戻したいところまで考えているに違いない。


明らかにこれだけの合意は大使の一存でできるものではない。金正恩が深く関わっていることは間違いない。金の狙いはまず孤立状態の突破口を対日関係改善で開けたいのだろう。


現在一番北の経済にとって痛手は、中国との関係が、張成沢粛正以来最悪状態にあることだろう。中国からは原油も入ってこない状態にあるといわれる。習近平はこれ見よがしに朴槿恵との関係を誇示して、金正恩には目もくれない。


さらに加えて金正恩の狙いは日本からの経済援助である。隣の韓国は日本が対日請求権に応じて無償・有償で計5億ドルもの資金を取り付け、これが飛躍的な国力増強に直結した歴史を十分に認識している。今なら500億ドルくらいもらえると算段しているかも知れない。そのためなら拉致問題の解決など金正恩にとってみれば小さいのだ。


明らかに金正恩にはこれまでの指導者とは違った対応が見て取れる。現実主義に根ざした独自路線が感じられるのだ。外務省筋によると国交正常化担当大使・宋日昊はこれまでと打って変わった率直さであったという。まとめようという意志を前面に出してきたようである。


これは金正恩の意向の反映であることは間違いあるまい。金にしてみれば来年が朝鮮労働党結成70周年に当たる節目の年であり、軍事力優先で勇ましいことばかりやっていられない状況に立ち至っている。


70周年を祝うには国民生活の向上が不可欠であり、体制固めのためにも状況打破は避けて通れないところにまで来ているのだ。簡単に言えば“拉致”で“カネ”なのである。


しかし援助と言ってもそう簡単な事ではない。日本からの資金が核とミサイルの開発に回ったのでは、極東軍事情勢にも大きな影響を与えることになるからだ。当然資金供与は核・ミサイル開発断念を条件にする必要がある。金正恩が非核化なしで拉致への譲歩だけで事が簡単に実現すると踏んでいるとすれば甘い。


調査委設置後が日本外交にとっても正念場であろう。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
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