2014年06月02日

◆「核」が日中開戦を抑止する(29)

平井 修一


(承前)松井茂氏の論考「世界軍事学講座」から。
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先に、核兵器があたかも使えない兵器となったかのように論じた。ただし、これは米ソ間のオーバーキル(過剰)状態、あるいは「核兵器を最初に使った」ことに対する国際世論の非難を恐れる場合のことである。

核兵器が「高度の政治兵器」であることの意義は少しも薄れていない。そこでフランス、中国が昨今、核実験を再開し、北朝鮮、イラク、ブラジルなどが核兵器の開発を推進してきたのであった。

フランスの場合、スエズ動乱(1956、注)に出兵し、作戦目的をほぼ達成しながら、すでに水爆を開発したソ連の核の恫喝に屈せざるを得なかった屈辱を味わっている。その時、米国の核の傘はフランスの味方とならなかった。こうした苦い思い出が独自の核兵器体系の開発にフランスを走らせたのである。

さらに近年の東西冷戦構造の崩壊によるヨーロッパにおける米核戦力の大幅削減、英国の核戦力の現状維持(フランスの約3分の1程度)、およびドイツが当面核武装を行わないことなどが、フランスをしてヨーロッパの核大国となる機会を与えた。

これは、経済面で米国、日本、ドイツに大差をつけられたフランスが、政治大国として甦る絶好の機会であった。これと先の苦い思い出とが、1996年の核実験再開の背景にある。それだけに、なまじっかな反対運動で引っ込むはずはない。


中国の場合、将来生じるであろう米中対決に備えて、核戦力の質量両面における増強を図っている。米中交渉におけるバーゲニング・パワー(国際間の交渉・折衝などにおける対抗力、交渉能力)として核戦力を位置付けているのだ。さらに近隣の台湾、日本、ベトナム、フィリピン、マレーシア、インドネシアなどへの軍事的圧力をも考慮してのことである。

核兵器が「究極の兵器」であるゆえんは、通常兵器と異なり、その大量破壊性にある。すなわち、たとえ一発であろうと、核大国に対し相当の損害を与え得る。もしその命中地点が政治、経済、軍事の中枢地域であったならはかり知れない不利益をもたらす。そこで米国、ロシアのような核大国といえども、小国の核戦力を無視できない。


この事実と、核兵器を持つことで地域の覇権を握れることが、第三世界における核拡散を招いている。米朝交渉において米国が北朝鮮に大幅に譲歩したのは、北朝鮮が核兵器を完成させる可能性を考えたからである。湾岸戦争において、もしイラクが事前に原爆を完成させていたなら、米国はあのように一方的に戦争に邁進できなかったであろう。


核兵器開発の潜在能力があるのは北朝鮮、イラク、ブラジル、アルゼンチン、イラン、アルジェリア、リビア、シリア、台湾、韓国、日本、オーストラリア、スウェーデン、フィンランド、ノルウェー、ドイツ、イタリア、カナダなどの諸国である。依然として核拡散の恐怖は消えていない。(つづく)
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注)スエズ動乱:スエズ戦争、第2次中東戦争とも。1956年、英・米両国のアスワン・ハイダム建設援助計画撤回を機に、エジプトのナセル大統領はスエズ運河国有化を宣言。これに反対して英・仏・イスラエルが出兵したが、親米諸国を中心とした国連の停戦決議や、ソ連の英仏へのミサイル攻撃警告(核恫喝)などに押され、1957年完全撤兵した。

フランスにとって、米国は頼りにできないことになり、ソ連の核恫喝には屈するしかなかったのだ。

1958年、フランス大統領に選出されたドゴールは、国益のために核武装に踏み切った。当時のフランスは、今の日本と同じく、ソ連の核の脅威をアメリカの核の傘でしのいでいたのだが、第二次大戦生き残りのリアリスト、ドゴールは核の傘に疑問を持ち、NATOの総司令官(米軍大将)やケネディ大統領に率直に疑問点を表明した。

「どんな状況であろうとも、アメリカは、ソ連がフランスを核攻撃した時、報復のためにソ連と核戦争をするのか、それならば、その軍事シナリオを具体的に説明してほしい」

ドゴールは具体的な核戦争時の保障を求めたのだが、ケネディも総司令官も答えられず沈黙したままだったという。

核を保有しなければ核恫喝に屈して、戦う前に敗戦国になってしまうのである。世界の現実とはこういうものだ。(2014/5/31)
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