2014年06月11日

◆「核」が日中開戦を抑止する(35)

平井 修一


日本国際問題研究所のサイトに阿南友亮・東北大学教授が寄稿している。
以下はその一部――
・・・

海洋に賭ける習近平政権の「夢」「平和的発展」路線の迷走と「失地回復」神話の創成

国家海洋局の掲げてきたスローガンが共産党中央の政治報告に含まれたことの背景には、党内における周辺国に対する対抗姿勢を支持する声の高まりがあったことは想像に難くない。

2013年3月に開催された第12期全国人民代表大会(全人代)では、国務院の機構改革の一環として、これまで海洋の「執法隊伍」(法の強制執行権をもつ部隊)として存在した国土資源部国家海洋局の「中国海監」、交通運輸部の「中国海事」など4部隊の陣容と職責を統合し、統合された部隊(人員は約1万6300人)を「中国海警」として国家海洋局の指揮下に置くことが決められた。

これにより、国家海洋局は、海上権益維持の法執行を統括する機関へと格上げされたのである。

このように、2010年と2012年に日中が尖閣諸島をめぐって激しく対立し、日中の戦略的互恵関係が暗礁に乗り上げるなかで、国家海洋局はその悲願であった権限および組織の大幅な拡大を実現させたのである。

2008年末以降、尖閣問題における中国側の尖兵という性格を強めた国家海洋局の地位向上が習近平政権の外交方針とどのようにかかわるのかは、2013年7月に開催された中共中央政治局による「海洋強国」に関する集団学習の場における習近平の発言から明確に読み取ることができる。

習近平は、集団学習の際に、

「海洋強国の建設は中国の特色ある社会主義事業の重要な一部だ。第18回党大会は海洋強国の建設という重大な計画を打ち出した。この計画の実施は、持続的で健全な経済発展の推進、国家の主権、安全保障、発展上の利益の維持、小康(ややゆとりのある)社会の全面的完成という目標の実現、そして中華民族の偉大な復興の実現にとって重大かつ計りしれない意義をもつ。

一段と海洋を重視し、海洋について認識し、海洋を経略し、わが国の海洋強国建設が絶えず新たな成果をあげるようにしなければならない」と述べた。

この発言からわかるように、習近平政権は、「海洋強国」を「中華民族の偉大な復興」を達成するための重要課題と位置づけたのであり、それによって海洋問題をあえて「失地回復」という幻想に取り憑かれたナショナリズムに強く結びつけたのである。

国家海洋局を中心とする海洋管理体制の大々的な再編には、海洋をめぐって対立する周辺国への圧力を強めるとともに、習近平政権が「中華民族の偉大な復興」に真摯に取り組んでいる姿をアピールし、中国社会において広範な共感・支持を勝ち取る狙いがあると考えられる。

しかし、こうした党指導部の姿勢は、中国外交をますます袋小路に追い込む可能性がある。

習近平政権は、外交とナショナリズムとの結びつきを強める姿勢をみせる一方で、「平和的発展」路線を堅持するという立場を表明している。

しかし、2013年11月に発生したフィリピンにおける甚大な台風被害に対する支援に関して中国政府が示した消極的な態度、および多くの国々がフィリピンでの災害援助に取り組んでいた最中に、中国人民解放軍が国際的な慣例に反するかたちで東シナ海における防空識別圏の設定を宣言して、アジア・太平洋地域の緊張を著しく増大させたことに鑑みれば、同政権の周辺国に対する協調姿勢は、きわめて希薄であると言わざるをえない。

習近平政権は、「平和的発展」という看板を維持しながら米国に対する「新しい大国間関係」の呼びかけを強め、米国が日本やASEAN諸国よりも「台頭する」中国を重視する方針を選択するように働きかけるとともに、ヨーロッパ、アフリカ、中南米の国々と依然として良好な関係にあるという環境を利用して、日本およびASEAN諸国に対して優位性を誇示し、海洋問題で譲歩を引き出すという外交戦略を志向しているようである。

ところが、米国は、少なくとも現時点では、尖閣諸島への日米安保条約の適用を宣言するとともに、いわゆる「九点破線」によって中国が示してきた南シナ海における「中国の勢力圏」を認めない立場をとっている。

米国のこうした姿勢を崩すことに失敗すれば、習近平政権の周辺国に対する強硬な措置は、ブーメランのように跳ね返ってきて同政権の権威に大きな打撃を与える可能性もある。その意味で、習近平政権の外交は、重大なリスクを抱えていると言えるであろう。

では、習近平政権に、胡錦濤政権のような対日関係改善のイニシャティヴを期待できるとかと言えば、中国経済の減速、国内情勢の不安定化、尖閣をめぐる日本との対立の深刻化、中国における既得権益擁護派の影響力拡大といった要因により、2006年よりもハードルが格段に高くなったと考えられる。

習近平政権は、靖国参拝のみならず尖閣問題でも日本の譲歩を要求している。

前者に関して日本側は、ギヴ・アンド・テイクがきちんと機能すれば譲歩・配慮することができることを過去7年間の行動で示してきた。

後者に関しても、2010年の漁船衝突事件にみられるように、日本は主権国家の常識では考えられないほどの譲歩・配慮をしてきたと言えるが、結果的に、そうした譲歩・配慮は、中国側の冷静な対応を引き出す処方箋とはならなかった。

逆に、中国側は、日本側の譲歩・配慮を逆手にとって同問題を意図的かつ積極的にエスカレートさせ、日本の主張の正当性を相対化しようとする試みをいっそう強化させてきた。

尖閣問題は、日中間の領土をめぐるナショナリズムの衝突という文脈で論じられる傾向が強いように見受けられるが、本稿で概観したように、同問題は南シナ海の問題と同様に、台湾問題と密接にリンクしているとともに、アジア・太平洋地域全体を舞台とした米中の戦略的駆け引きの影響を色濃く受けているのである。

また、そこには、中国の国内政情、すなわち、改革派の挫折と既得権益擁護派の巻き返しという事情も少なからず作用している。

既得権益擁護派の政権という性格の強い習近平政権は、国際法的根拠を度外視して、これまで実効支配の実績がない尖閣諸島やスプラトリー諸島を香港・マカオ・台湾とならぶ「失地」と位置づけ、国家海洋局などを駆使して「失地回復」に取り組んでいる姿勢を演出することによってナショナリズムを発揚し、国内で鬱積した不満が共産党に向かって大々的に噴出するのを回避しようとしているように見受けられる。

国際司法裁判所(ICJ)や多国間協議による解決を選択せず、あえて緊迫した環境を醸成して周辺国に譲歩を強要しようとするこうした試みに対して、国際社会では、現在の中国の対外姿勢がリヴィジョニスト的性格、つまり、既存の国際秩序に対する挑戦者という性格を強めているという認識が急速に広まっている。

特に防空識別圏の一件以来、そうした認識は世界的な広がりをみせているといっても過言ではない。

概して言えば、尖閣問題は、リヴィジョニスト的な「夢」に傾きつつある中国政府に対して、米国およびアジア・太平洋地域の関係国がいかにしてチームワークを発揮して自制を促すかという大きな駆け引きの一部に組み込まれているのである。

したがって、今後の日本の政権担当者には、法に基づく国際秩序を守護するチームの主要な一員であるという自覚と使命感に立脚し、チームプレーを意識した対中政策を推進していくことが求められることになる。

習近平政権が現実離れした「夢」から醒め、国家海洋局や海軍の艦船などを用いて周辺諸国を威嚇・牽制する行為を控えるという姿勢をみせるまで、日本政府としては、チームのメンバーとして信頼しうる国々との関係強化に主眼を置いた外交を展開していくことが肝要となる。(以上)
・・・

海洋に賭ける習近平の「夢」は悪夢になった。悪夢はやがて「中共大崩壊」の正夢になるだろう。世界はそれを待っている。習近平よ、走れ、13億人を道連れに地獄へ突き進め!(つづく)(2014/6/10)
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