山本 秀也
日中「政冷経熱」再演の危うさ
経済や民間交流の分野に限れば、このところ日中関係の潮目が少し変わった印象を受ける。政治、安保問題で険悪な状況が続いているので、全然安心はできないのだが、閣僚級を含めた官民要人の訪問や、地方レベルでの往来は動き始めた。
中国経済の成長鈍化が確実とみられる中で、冷え込んでいる日中経済を少し動かせないか、というのが北京の思惑だろう。折しも、日本からは経団連の新旧会長が正式交代を控えた5月下旬に訪中した。
中国側の説明によると経団連一行と会談した李源潮国家副主席は、歴史、尖閣問題で原則を繰り返しながらも「日本経済界に両国関係改善への積極的な役割を期待する」と述べた。このところの北京での日本人「冷遇」を思えば、一行が歓迎されたことは間違いない。
小泉政権当時の関係冷え込みで、中国側は「政冷経熱」という策略をとった。政治は冷たくても経済は熱く、という図式には、中国ビジネスに関わる日本企業にもそこそこの支持があったように思う。
いまの習近平政権は、国内政治の比重が高すぎて江沢民時代とは同列に論じにくいのだが、最近の動きはやはり「政冷経熱」の再構築への動きのようにみえる。そこの呼吸は日本側にも伝わって、いわば東京と北京で瀬踏みが始まっているとみてよいだろう。
関係悪化が「一過性」原因でないだけに深刻とはいえ、先行きは決して容易ではない。この2年間の関係後退は、日中間に焼け野原の惨状をもたらした。貿易や投資は戻るときが来れば戻るだろうが、国交正常化後、ボトムのところまで冷え込んだ日本人の対中マインドは、そう簡単に温まるとは思えない。
その冷え込みは、対中認識に関する世論調査というような抽象的な数字ではなく、駐在員の家族や若い留学生を含めた在留邦人数の増減に表れる。
最近の数字をみると、中国での在留邦人数(昨年10月1日現在)は、前年比で約1万5000人減った。香港、マカオを含めて邦人総数は約13万5000人となったわけだが、今回の邦人減少は、天安門事件(1989年)直後のような一過性の減少とは違う。
尖閣国有化後の反日暴動の記憶も鮮烈だが、政治の高みから号令された「日本たたき」の影響は強烈だ。普通の日本人には、毒餃子事件から大気汚染までひっくるめて、中国全般への印象がひどく悪くなった。意識の硬直化はたかだか2年間で起きた話ではないだけに厄介だ。
しかも、肝腎の政治、安保問題での雪解けは見通しが立たない。中国軍の戦闘機が公海上で自衛隊機に危険行動を挑む状況は、海南島沖での米中軍用機衝突が東シナ海で再演されてもおかしくないことを示している。「政冷経熱」もある種の知恵かもしれないが、賽(さい)の河原の石積みのように政治対立という“鬼”に蹴倒される危うさをはらんでいる。(産経新聞中国総局長)
(フジサンケイビジネスイ)2014.6.11