2014年07月12日

◆安易な安倍訪朝は避けよ

張 真晟


日朝間で対話が再開し、小泉純一郎元首相に続いて安倍晋三首相の北朝鮮訪問が取り沙汰されている。

私には、日本政府が政治的にとても性急に動いているようにみえる。対北制裁の一部解除は北朝鮮側の対応のスピードをみて段階的に行うこともできたのに、人的・物的交流の基本的解除で譲歩したようだ。しかし日本がこれから“真実の刃”を握って対話を進めれば、情勢を主導できる。

まず、安倍首相の訪朝を絶対に簡単には実現させないことだ。なぜなら北朝鮮は首領独裁なので、指導者個人の決心と行動を絶対視する習慣がある。

恐らく北朝鮮は、日朝対話の究極の目標を安倍首相の訪朝に置いている。安倍首相は、横田めぐみさんとの面談、そして拉致被害者全員の送還を条件に訪朝する意思を明示すべきだ。そうすれば日本は会談の心理的な主導権を握ることができる。

現在、平壌が活用できるカードは極めて限定的なものだ。

小泉純一郎首相の訪朝のとき、金正日(キム・ジョンイル)総書記は日本の国交正常化資金100億ドルを当て込んで拉致事件を公式謝罪したが、すでにこのカードはなくなった。平壌は、小泉訪朝で「拉致解決カード」を使ってしまったのだ。

衝撃的な解決法が残っているとすれば、日本の悲願である横田めぐみさんと他の生存者たちの送還だが、北朝鮮は“死亡”をすでに何度も明言している。

小泉訪朝のときと唯一異なるのは、今回は拉致再調査にとどまらず、遺骨収集・送還問題に調査を転換することができるという点だ。北朝鮮はこの政治的継続と余韻を狙い、国防委員会の特権による全国再調査という大々的な規模と“誠意”を演出しているのだ。

韓国には「カラの荷車の方が音が大きい」ということわざがある。北朝鮮は全国に特別調査委員会の支部を設置するなどと騒いでいるが、日本側は、短剣のように小さくても鋭利なファクト(事実)を中心に対話を模索していくべきである。

首領の神格化や歴史歪曲(わいきょく)の虚偽宣伝を一貫して行ってきた北朝鮮は、客観的なファクトに体質的に弱い。小さな解決なしに大きな解決もないという原則の手順を守れば、北朝鮮は慌てるに違いない。

原則の手順とは、拉致問題を解決してこそ遺骨送還の主題へ移れるというような段階の設定を明確に規定することだ。

すなわち「前の丘を越えてこそ次の山も越えることができる」という認識を北朝鮮の政権に分からせなければならない。

そうしてこそ、遺骨を探そうと全国を徘徊(はいかい)する北朝鮮交渉チームの心理を初めから対話のテーブルに固定することが可能になり、(拉致を実行した)対南工作部署に交渉全体の責任を押し付けることもできる。

日本外務省の自画自賛は禁物だ。自らの成果を広報するため結果でなく過程を強調すると、後日、対話が失敗したとき、安倍政権に責任を押し付ける際の物証に使われてしまうだろう。

心理戦の勝者こそ、対話の勝者である。北朝鮮は在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)と結託して、調査委の活動を誇大に喧伝(けんでん)し交渉を背後から圧迫しようとするのは明らかだ。

その対日心理戦を遮断する方法は、対話の成果だけでなく、難航している状況も日本国民にそっくりそのまま知らせることだ。

そうすれば北朝鮮は、自分たちの嘘がバレることを恐れ慎重になるだろう。そして、日本人特有の粘り強く緻密なペースに巻き込まれていくに違いない。
                ◇

【プロフィル】張真晟(チャン・ジンソン)

北朝鮮・金日成総合大学卒。元朝鮮労働党統一戦線部(対南工作部門)幹部で2004年に脱北。北朝鮮の権力実態に詳しいウオッチャーとして注目されている。日本人拉致問題にも関心を寄せ、「救う会」のセミナーに参加し被害者家族との交流もある。

               ◇

張氏が運営する北朝鮮情報サイト「NEW FOCUS」のコンテンツを精選して邦訳したメールマガジン「張真晟の北朝鮮コンフィデンシャル New Focus」(毎週金曜日)が発刊中です。発行は産経デジタル。詳しくは
www.mag2.com/m/0001619334.htmlへ。
産経ニュース【元労働党幹部、張真晟氏特別寄稿】 2014.7.11

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