2014年07月29日

◆研究進む「ウナギ完全養殖」

伊藤 壽一郎


ニホンウナギが6月、国際自然保護連合の絶滅危惧種に指定された。保護機運の高まりで国際取引が規制されると、うな丼が食べられなくなるかもしれない。そんな事態を避けるため期待が高まっているのが、天然資源に頼らない完全養殖によるウナギの量産だ。29日の土用の丑の日を前に、研究の最前線を探った。

稚魚は激減

「天然資源を守りながら将来にわたってウナギを安定供給するため、一刻も早く実用的な完全養殖の方法を確立したい」。水産総合研究センター増養殖研究所(三重県南伊勢町)の田中秀樹ウナギ量産研究グループ長は、情熱を込めてこう語る。

通常のウナギ養殖は、シラスウナギと呼ばれる体長5センチ前後の稚魚を沿岸で捕らえ、成魚に育てる。稚魚の年間採捕量は1960年代に100トンを超えていたが、2012年はわずか2トンで国内需要の約1割にまで激減した。残りは中国などからの輸入に頼っており、国際取引が規制されると大打撃は確実だ。

完全養殖は受精卵を成魚に育て、採卵して人工授精し、再び成魚にする循環型の技術。ウナギでは田中氏らのチームが10年に世界で初めて成功し、日本の食文化の危機を救う画期的な研究として脚光を浴びた。だが、田中氏は「解決すべき課題が多く、実用化には時間がかかる」と慎重に話す。

青い光の飼育室

ウナギは、卵から孵化(ふか)すると、レプトセファルスという柳の葉のような形をした幼生になる。それが親ウナギに似た姿の稚魚に変態し、成魚に育つ。

増養殖研究所の飼育室では、小型水槽で多数の幼生を育てている。通常は暗くしておくが、餌をやるときは光を照らす。海中のような青色の光が適しており、飼育室は幻想的な雰囲気だ。水温も生息域に近い25度前後が餌をよく食べ成長に適している。

課題は飼育法の改良だ。自然界では稚魚になるまで100日から半年程度だが、養殖は早くて150日、遅いと1年以上もかかってしまう。

幼生の餌はアブラツノザメの卵などをスープ状にして与えているが、最適な材料は分かっていない。アブラツノザメは絶滅危惧種の指定候補で、先行きが不安な面もある。調達が容易で成長にも適した餌を模索中で、鶏卵も候補の一つという。

飼育規模の拡大も課題だ。飼育室では5〜20リットルの小型水槽で数十匹ずつしか稚魚に育てられない。同研究所南伊豆庁舎(静岡県)では昨年以降、形状や水流を工夫した1千リットルの大型水槽に孵化直後の仔魚(しぎょ)約2万8千匹を入れ、半年で幼生約900匹、1年で稚魚約300匹の育成に成功したが、本格的な量産には生存率をさらに向上させなくてはならない。

良質な受精卵を安定生産する手法の確立も必要だ。ウナギは飼育環境では性的に成熟しないため、生殖腺を刺激するホルモンを投与する。だがこのホルモンをウナギから採取するのは困難で、サケの脳下垂体からの抽出物などで代用しているため、成熟も孵化率も安定しない。

最近はウナギのホルモンを人工的に生産して投与する研究を進めており、雄は100%近く成熟できるようになったが、雌は投与量などの試行錯誤が続いている。

20年にも商業化

総務省によると、日本の天然魚の漁獲量は1984年の1160万トンをピークに年々減少。2012年は約3分の1の380万トンにまで落ち込んだ。漁獲量の回復が難しい中、100万トン程度にとどまっている養殖魚の生産をどこまで増やせるかが鍵になる。

政府は20年にウナギ完全養殖の商業化を目指している。田中氏の目標は、まず16年度をめどに稚魚を年間1万匹量産する技術を確立すること。その先にあるのは養殖に適したウナギの育種だ。

完全養殖での稚魚の生産コストは餌の材料費や光熱費、設備費などを考えると、天然よりはるかに高くなるのは確実だ。それでも、完全養殖を何世代も繰り返すことで「成長がよくておいしく、栄養価が高くて飼育しやすいウナギの特徴や条件が見えてくるはずだ」と田中氏。養殖に最適な品種を確立し、低コストでの安定供給を目指している。産経ニュース2014.7.28

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