石井 聡
安倍晋三政権による集団的自衛権の行使容認の決定は、今後の政界の枠組み、とりわけ新たな再編を目指す野党の路線選択にも影響を与える可能性を秘めている。
憲法改正、自衛隊の活動の拡大などに慎重な姿勢をとってきた公明党が、連立与党にとどまったまま、憲法解釈の変更に同意したためだ。
与党協議の経過や支持組織内での説明ぶりなどを考えれば、これで公明党が一気に保守化、右傾化したといった見方は適切ではなかろう。
だが、新たな保守勢力になり得ると目されてきた「第三極勢力」は、党首の交代、党分裂など混乱を続けている間に、安全保障面での自民党との協力という分野で、すっかり公明党にお株を奪われてしまった。
与党合意に先立ち、日本維新の会から次世代の党に移行する石原慎太郎氏は「集団的自衛権をめぐって、必ず公明党は足手まといになる」と安倍首相に繰り返し助言するなど、連立見直しを呼びかけていた。
橋下徹氏も「集団的自衛権問題が前に進むのは政治家冥利に尽きる」と公明党を牽制していた。ところが、行使容認に慎重な結いの党との合流で今後の対応は不透明になった。
首相から見れば、維新やみんなの党などの第三極勢力は、憲法改正や安全保障政策で協調できる頼もしい存在だったはずだ。実際、与党協議が難航する中で開かれた党首討論で、首相は公明党の山口那津男代表の目の前で両党の名前を挙げ、その協力的姿勢を評価した。
駆け引きの末、首相は公明党の歩み寄りを得られ、与党分裂の事態も回避した。かたや第三極勢力はといえば、共闘どころか先を読みにくい相手という印象を強くしている。
民主党との連携も探る橋下氏は、リベラル色を強めるのだろうか。それは、憲法改正勢力の構築という重要な路線選択の放棄につながりかねない。公明党を従来の「中道」という言葉でくくりにくくなった状況に、どう対応するかが問われる。(論説副委員長)
産経ニュース【風を読む】2014.7.29