2014年08月03日

◆安倍氏の「第2次大東亜戦争」宣言

平井 修一


欧州のマスコミが安倍首相について「平和をあれほど激しく訴えた人はいない」と書いていたが、これは第13回アジア安全保障会議(シャングリラ・ダイアローグ)での安倍氏の基調講演(5/30)についての評価だった。

どこかに講演記録があるだろうと探したら在シンガポール日本大使館のサイトにあった。「アジアの平和と繁栄よ永遠なれ」がタイトルだ。以下、転載(一部カット、小見出しは大使館が付けたのだろう)。長いが歴史的文章だと思う、読んでほしい。「,」が多いが、安倍氏の演説は、そんな間合いを取るので、省略していない。

この演説は外務省本省のサイトに載っていないのだが、中共を刺激したくない、ということだろう。ということは尖閣をめぐっては日中は「とりあえず刺激しない」ということで合意したのかもしれない。そうであれば小生が靖国に祀られる可能性は小さくなるが、まあ、政治、外交とはそんなものなのだろう。さあ、読んでいこう。

・・・
■国際法の重要さ

以上,私の情勢認識を,皆さんと共有するためお話しました。そのうえで,本日第1の要点,国際法を守るべきことを,申します。

海洋には,その秩序を定める国際法があります。歴史は古く,古代ギリシャの昔にさかのぼるといわれています。早くもローマ時代,海は,すべての人々に開放され,私的な所有や,分割が禁止されました。

いわゆる大航海時代以降,多くの人々が海を通じて出会い,海洋貿易が,世界を結びます。公海自由の原則が確立するに至り,海は,人類の繁栄の,礎となりました。

歴史を重ね,時として文字通り荒波に揉まれながら,海にかかわる多くの人々の,知恵と,実践の積み重ねがあって,共通のルールとして生み出されたものが,海に関する国際法です。

誰か特定の国や,集団がつくったものではありません。長い年月をかけ,人類の幸福と繁栄のためはぐくまれた,われわれ自身の叡智の産物なのです。

今日,私たちおのおのにとっての利益は,太平洋から,インド洋にかけての海を徹底してオープンなものとし,自由で,平和な場とするところにあります。

法の支配が貫徹する世界・人類の公共財として,われわれの海や,空を保ち続けるところ,そこにこそ,すべての者に共通する利益があります。

■海における法の支配・3つの原則
海における法の支配とは,具体的には何を意味するのか。長い歳月をかけ,われわれが国際法に宿した基本精神を3つの原則に置き直すと,実に常識的な話になります。

原則その1は,国家はなにごとか主張をなすとき,法にもとづいてなすべし,です。

原則その2は,主張を通したいからといって,力や,威圧を用いないこと。

そして原則その3が,紛争解決には,平和的収拾を徹底すべしということです。

繰り返しますと,国際法に照らして正しい主張をし,力や威圧に頼らず,紛争は,すべからく平和的解決を図れ,ということです。

当たり前のこと,人間社会の基本です。しかしその当たり前のことを,あえて強調しなくてはなりません。アジア・太平洋に生きるわれわれ,一人ひとり,この3原則を徹底遵守すべきだと,私は訴えます。

先日,インドネシアとフィリピンが平和裏に,両国間の排他的経済水域の境界画定に合意しました。法の支配が,まさに具現化した好例として,私は歓迎したいと思います。

また,南シナ海における紛争の解決を,まさに3原則にのっとり求めようとしているフィリピンの努力を,私の政府は強く支持します。ベトナムが,対話を通じて問題を解決しようとしていることを,同様に支持します。

既成事実を積み重ね,現状の変化を固定しようとする動きは,3原則の精神に反するものとして,強い非難の対象とならざるを得ません。

いまこそ,南シナ海の,すべての当事国が約束した2002年行動宣言,あのDOC(平井:ASEAN・中国間の重大文書と称えられた「南シナ海における関係国の行動宣言」)の精神と規定に立ち返り,後戻りができなくなる変化や,物理的な変更を伴う一方的行動をとらないという,固い約束を交わすべき時ではないでしょうか。

平穏な海を取り戻すため,叡智を傾けるべきときはいま,です。

■不測の事態を防ぐため

世界が待ち望んでいるのは,わたしたちの海と,その空が,ルールと,法と,確立した紛争手続きの支配する場となることです。

最も望まないものは,威圧と威嚇が,ルールと法にとってかわり,任意のとき,ところで,不測の事態が起きないかと,恐れなければならないことです。

南シナ海においては,ASEANと中国の間で,真に実効ある行動規範ができるよう,それも,速やかにできるよう,期待してやみません。

日本と中国の間には,2007年,私が総理を務めていたとき,当時の温家宝・中国首相との間で成立した合意があります。日中両国で不測の事態を防ぐため,海,空に,連絡メカニズムをつくるという約束でした。

残念ながら,これが,実地の運用に結びついていません。

私たちは,海上での,戦闘機や,艦船による危険な遭遇を歓迎しません。交わすべきは言葉です。テーブルについて,まずは微笑みのひとつなり交わし,話し合おうではありませんか。

両国間の合意を,実施に移すことが,地域全体の平和と安定につながる。私はそう確信しています。

■EAS強化と,軍事予算透明化

それにつけても,EAS(平井:東アジア首脳会議*)に重きをもたせるときが来た。私はそう思います。

(*ASEAN10カ国〈インドネシア,マレーシア,フィリピン,シンガポール,タイ,ブルネイ,ベトナム,ラオス,ミャンマー,カンボジア〉,日本,中国,韓国,豪州,ニュージーランド,インド,米国,ロシア。米国,ロシアは2011年から参加)

「ARF」(平井:ASEAN地域フォーラム)は相レベル,「ADMM+」(平井:拡大ASEAN国防相会議。ASEAN及び、日本を含む8カ国の「プラス」諸国が集う新しい枠組)は,国防大臣レベルの会議です。首脳たちが集まり,あるべき秩序を話し合う場として,EASに勝る舞台はありません。

軍備拡張の抑制,軍事予算の透明化,あるいは武器貿易条約の締結拡大や,国防当局間の,意思疎通の向上――。首脳同士が互いにピア・プレッシャー(平井:加盟国間の相互圧力)を掛け合い,取り組んでいかねばならない課題には事欠きません。

地域の政治・安全保障を扱うプレミア・フォーラムとして,EASを一層充実させるべきである。そう,訴えます。

来年が,ちょうどEAS発足10周年です。まずは参加国代表からなるパーマネントな委員会をつくり,EASの活性化,さらには,EASとARF,ADMM+を重層的に機能させるため,ロードマップをこしらえてはどうでしょう。

まず話し合うべきは,ディスクロージャーの原則です。

陽の光にまさる,殺菌薬はなし,と,そう言うではありませんか。

アジアは今後とも,世界の繁栄をひっぱっていく主役です。そんな場所での軍拡は,元来不似合です。繁栄の果実は,更なる繁栄,人々の生活の向上にこそ再投資されるべきです。軍事予算を一歩,一歩公開し,クロスチェックしあえるような枠組こそ,EASの延長上に,私たちが目指すべき体制だと,そう信じます。

■ASEANへの支援

ASEAN各国の,海や,空の安全を保ち,航行の自由,飛行の自由をよく保全しようとする努力に対し,日本は支援を惜しみません。では日本は何を,どう支援するのか。それが,次にお話すべきことです。

フィリピン沿岸警備隊に,新しい巡視艇を10隻提供することに致しました。インドネシアには,既に3隻,真新しい巡視艇を無償供与しました。
ベトナムにも供与できるよう,必要な調査を進めています。

日本が実施する援助全般について言えることですが,ハード・アセットが日本から出て行くと,技能の伝授に,専門家がついていきます。そこで必ず,人と,人のつながりが強くなります。職務を遂行すること,それ自体への,誇りの意識が伝わります。

高い士気と,練度が育ち,厳しい訓練をともにすることで,永続的な友情が芽吹きます。

フィリピン,インドネシア,マレーシア3国だけで,沿岸警備のあり方について日本から学んだ経験のある人は,250人をゆうに上回っています。

2012年,ASEAN主要5カ国から海上法執行機関の幹部を日本へ招いたときは,1カ月の研修期間中,1人につき日本の海上保安官が3人つき,寝食をすべて共にしました。

「日本の場合,技術はもちろん,1人1人,士気の高さがすばらしい。持って帰りたいのは,この気風だ」と,マレーシアからの参加者は言ったそうです。私たちが本当に伝えたいことを,よくわかってくれたと思います。

ここシンガポールでも,8年前にできた地域協力協定(ReCAAP)に基づいて,各国のスタッフが,海賊許すまじと,日夜目を光らせています。事務局長はいま,日本人が務めています。

日本はこのほど,防衛装備について,どういう場合に他国へ移転できるか,新たな原則をつくりました。厳格な審査のもと,適正な管理が確保される場合,救難,輸送,警戒,監視,掃海など目的に応じ,日本の優れた防衛装備を,出していけることになりました。

国同士で,まずは約束を結んでからになります。ひとつひとつ厳格に審査し,管理に適正を図ることを心がけつつ進めていきます。

ODA,自衛隊による能力構築,防衛装備協力など,日本がもついろいろな支援メニューを組み合わせ,ASEAN諸国が海を守る能力を,シームレスに支援してまいります。

以上,お約束として,申し上げました。

■「積極的平和主義」と「安保法制の再構築」

最後の話題に移りましょう。日本が掲げる,新しい旗についてのお話です。

もはや,どの国も,一国だけで平和を守れる時代ではありません。これは,世界の共通認識でしょう。さればこそ,集団的自衛権や,国連PKOを含む国際協力にかかわる法的基盤の,再構築を図る必要があるのではないか。そう思い私はいま,国内で検討を進めています。

いま,日本の自衛隊は,国連ミッションの旗の下,独立間もない南スーダンにいて,平和づくりに汗を流しています。

そこには,カンボジア,モンゴル,バングラデシュ,インド,ネパール,韓国,中国といった国々の,部隊が参加しています。国連の文民スタッフや,各国NGOの方々も,大勢います。南スーダンの国造りを助けるという点で,彼らは皆,仲間です。

ここでもし,自らを守るすべのない文民や,NGOの方々に,武装勢力が突然襲い掛かったとしましょう。いままでの,日本政府の考え方では,襲撃を受けているこれら文民の方々を,我が国自衛隊は,助けに行くことはできません。

今後とも,それでいいのか。われわれは現在,日本政府としての検討を進めるとともに,連立与党同士の協議を続けています。

国際社会の平和,安定に,多くを負う国ならばこそ,日本は,もっと積極的に世界の平和に力を尽くしたい,「積極的平和主義」のバナーを掲げたいと,そう思うからです。

■「新しい日本人」とは

自由と人権を愛し,法と秩序を重んじて,戦争を憎み,ひたぶるに,ただひたぶるに平和を追求する一本の道を,日本は一度としてぶれることなく,何世代にもわたって歩んできました。これからの,幾世代,変わらず歩んでいきます。

この点,本日はお集まりのすべての皆さまに,一点,曇りもなくご理解をいただきたい。そう思います。

私はこの1年と半年ちかく,日本経済を,いまいちど,イノベーションがさきわい,力強く成長する経済に立て直そうと,粉骨砕身,努めてまいりました。

アベノミクスと,ひとはこれを呼び,経済政策として分類します。

私にとってそれは,経済政策をはるかに超えたミッションです。未来を担う,新しい日本人を育てる事業にほかなりません。

新しい日本人は,どんな日本人か。昔ながらの良さを,ひとつとして失わない,日本人です。

貧困を憎み,勤労の喜びに普遍的価値があると信じる日本人は,アジアがまだ貧しさの代名詞であるかに言われていたころから,自分たちにできたことが,アジアの,ほかの国々で,同じようにできないはずはないと信じ,経済の建設に,孜々(しし)として協力を続けました。

新しい日本人は,こうした,無私・無欲の貢献を,おのがじし,喜びとする点で,父,祖父たちと,なんら変わるところはないでしょう。

変わるとすれば,日本が実施する支援や協力は,その対象,担い手とも,ますます女性になることでしょうか。

カンボジアで,民法をつくり,民事訴訟法をつくるお手伝いをした日本人が,3人の,いずれも若い女性裁判官,女性検事だったことを,ご記憶ください。

2011年8月のことでした。フィリピンの,ベニグノ・アキノ3世大統領と,ムラド・エブラヒムMILF(平井:モロ・イスラム解放戦線)議長とのトップ会談が,日本の,成田で実現し,本年3月には,とうとう,両者間に包括和平の合意がなりました。

2年後には,いよいよ,バンサモロ自治政府が産声をあげます。そのため私たち日本の援助チームは,何に,いちばん力を入れているでしょうか。

女性たちに,生活の糧を稼ぐ実力をつけてもらうことが,そのひとつです。ミンダナオに,我が国は女性職業訓練所を建てました。銃声と怒号が消えたミンダナオに響くのは,彼女たちが動かすミシンの,軽快な機械音です。

新しい日本人とは,いままでと同じように,成長のエンジンが,結局のところ人間であり,ともすると不当に不利な立場に置かれてきた,女性たちであることを踏まえ,その,実力向上に,力を惜しまない人間です。

新しい日本人は,アジア・太平洋の繁栄を,自分のこととして喜び,日本を,地域の意欲ある若者にとって,希望の場所とすることに,価値と,生き甲斐を見出す日本人です。日本という国境にとらわれない,包容力ある自我をもつ,日本人です。

中国からは,毎年,何十人かの高校生がやってきて,北から南まで,日本列島に散らばって,まる1年,日本人の高校生と,生活や,学習を共にします。

彼ら,彼女らは,例外なく,日本人の友達と結んだ友情に感動し,ホストファミリーが注ぐ愛情に涙して,母国に帰ります。日本を,第二の故郷だと言って帰ります。

新しい日本人には,そんな,外国の人たちを慈愛深く迎える心を,いっそう大切にしてほしい。そう思います。

新しい日本人とは,最後に,この地域の平和と,秩序の安定を,自らの責任として,担う気構えがある日本人です。

人権や,自由の価値を共有する地域のパートナーたちと,一緒になって,アジア・太平洋の平和,秩序を担おうとする意欲の持ち主です。

そんな新しい日本人のための,新しいバナー,「積極的平和主義」とは,日本が,いままでより以上に,地域の同輩たち,志と,価値を共にするパートナーたちと,アジア・太平洋の平和と,安全,繁栄のため,努力と,労を惜しまないという,心意気の表現にほかなりません。

米国との同盟を基盤とし,ASEANとの連携を重んじながら,地域の安定,平和,繁栄を確固たるものとしていくため,日本は,骨身を惜しみません。

私たちの行く手には,平和と,繁栄の大道が,ひろびろと,広がっています。次の世代に対するわれわれの責任とは,この地域がもつ成長のポテンシャルを,存分に,花開かせることです。

日本は,法の支配のために。アジアは,法の支配のために。そして法の支配は,われわれすべてのために。アジアの平和と繁栄よ,とこしえなれ。有難うございました。(以上)

・・・

時あたかも南シナ海で緊張が高まっている時期であり、名指しはしていないが、中共に対する強烈な牽制、警告だ。この講演に各国の参加者は大拍手したそうだが、朝日の6/5の記事にはそれは書かれていない。

この会議は英国際戦略研究所(IISS)主催で朝日新聞社などが後援しているのに、朝日が応援・代弁する中共が満座の席で「行儀を良くしろ」とたしなめられたのだから、朝日の記者もがっくりしたのではないか。以下は朝日の6/5報道(ごく一部)。

<シンガポールで1日まで開かれた「アジア安全保障会議」には、30を超える国の国防相や軍関係者らが参加した。3日間にわたった議論の「主役」は、南シナ海の領有権問題などで強硬な姿勢を見せる中国。日本からは初めて首相が出席し、米国や東南アジア諸国との連携を訴えた。

安倍首相は集団的自衛権行使に向けた国内での検討を説明し、「米国との同盟を基盤とし、ASEANとの連携を重んじる」と強調。「日本の『積極的平和主義』に感謝したい」(ベトナムのタイン国防相)といった評価も聞かれた。

米国のヘーゲル国防長官は演説で中国を名指しし、「この数カ月、南シナ海で情勢を不安定にさせる一方的な行動をとっている」と非難した。

(中国側の反論は)「これまで14のうち12の国と友好的な協議を通じて、国境紛争を解決してきた。武力で威嚇したり、挑発したりしたことはない。積極的平和主義を旗印に、地域をかき回そうとする(日本の)動きは容認できない。領土問題で中国が最初に挑発したことはない」

(中国の)主張が理解を得られたとは言い難い。会場からは、「中国が先に挑発したことは一度もないという主張を信じる国はない」「今回のような姿勢では信頼を失う」といった厳しい声が相次いだ>(以上)

・・・

来たるべき戦争が冷戦か熱戦かは分からないが、抑止がベストなのだけれど、勝っても負けても、この安倍氏の講演は「第2次大東亜戦争」宣言として歴史に残るだろうなあと思う。安倍氏はいい仕事をした。GJ!(2014/8/3)

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