2014年09月01日

◆菅のバランス感覚が自民亀裂を回避

杉浦 正章



よほどの事態がなければ安倍再選は確実
 


権力闘争では勝ちと負けしかないが、今回の「石破外し」劇は、3方が1両を得て勝ち負けなしの決着と見る。首相・安倍晋三は石破を幹事長から外して“急成長”の芽を摘んだ。石破はポスト安倍への1歩を築いた。


自民党は党内に亀裂が走るのを未然に防いだ。筆者が不毛の戦いを戒めたとおりになった。ここでも仲裁役の官房長官・菅義偉が政局を見据えた働きをした。


安倍が石破を幹事長から外して、伴食大臣に据えようとしていることは奸佞側近の存在によるとたびたび指摘してきた。元首相だから奸佞とは言わないが安倍の盟友・麻生太郎も安倍に吹き込んだグループの筆頭だろう。


麻生は「石破外し」を首相に進言していた。29日の閣議後の記者会見では、石破がラジオ番組で自らの処遇について語ったことに関し、「公共の電波を使ってバンバンしゃべるというのは珍しい」と正面切って批判、安倍に対しても「石破切り」を進言したのだ。


首相周辺によると安倍と麻生が2人だけになったとき面白いやりとりがあった。安倍が「麻生さんは石破さんをどう評価していますか」と尋ねたのに対して、麻生は「評価はありません。ゼロですなぁ」と返答、2人は大笑いしたというのだ。


安倍とその周辺の雰囲気が如実に分かる話だが、世の中トップをけしかける側近は端倪(たんげい)すべからざる人物が多い。あわよくば自らの出番をと狙うものがほとんどだからだ。ただ1人事態をはらはらして見つめていた側近がいた。菅だ。


菅は安倍・石破激突の留め男としての役割を果たしたのだ。25日のTBSラジオで、破れかぶれになった石破が、幹事長留任要求をして刀の鯉口を切りそうになったのを、押しとどめたのだ。菅は安倍と綿密にはかった上で、石破に禅譲をほのめかしたのだ。


26日、国会内で菅は石破と会談「このままでは党が割れてしまうじゃないですか。なんでそんな動きをするんですか。次は石場さんしかないじゃないですか」と説得したのだ。以後、石垣島の闘牛が相手をにらみつけるような表情をしていた石破の表情ががらりと変わった。


るんるん気分がテレビ画面を通じても分かるようになった。側近が「だまされてるんじゃないですか」と持ちかけても「だます方よりだまされる方がいい」と取り合わない。


そもそも石破は、マスコミが指摘しているように、自らけんかを売った覚えはないはずだ。7月24日に安倍が石破に安保法制相への就任を求めたのが発端なのだ。それまで石破は「安倍政権が続く限り安倍さんを支える」と言明、総選挙でも参院選挙でも都知事選挙でも頑張って、自民党に圧勝をもたらし続けて来た。


幹事長留任は無理でも重要閣僚での入閣は誰もがあり得ることと見ていた。自民党員の人気も高く党員の石破幹事長留任支持率は毎日の調査で、67%に上っているのだ。安倍の安保相人事は誰が見ても理不尽そのものであろう。


菅は独特の平衡の感覚で、情勢を捉えて、安倍を説得。他の閣僚での入閣を実現させることに成功したのだ。安倍が麻生を排して菅を取り入れたのも正しい判断であった。


そこで今後だが、“禅譲”が本当であり、石破がだまされることはないのだろうか。


政治史を紐解けば、禅譲でだまして協力を取り付けたケースなどは数限りなくある。一番目立つのが佐藤栄作による三木武夫への禅譲説だ。佐藤は政権当初三木への禅譲を示唆していたが、実際の行動を見ると福田赳夫と田中角栄を競わす形で“育成”をはかったのだ。


そして総裁選で3選に佐藤が出馬することが分かると、やっと禅譲はないことが分かった三木は「男は1度勝負する」と外相を辞任して出馬した。


佐藤は「三木君を外相に起用したことだけは不明のいたりであった」と国会で答弁。総裁選は佐藤が圧勝して三木は以後干された。しかし結果的には首相になれたのだから、三木は「いい勝負」を戦ったことになる。


安倍と石破の場合はどう展開するか。まず石破の他の総裁候補を見ると、これといった候補がいない。


2012年の総裁選に出馬したのは安倍、石破の他は町村信孝、石原伸晃、林芳正だが、町村は病気が原因か覇気が薄れ、石原は「金目でしょう」発言が物語るように軽くて総理の器でないことが露呈してきた。林は衆院に鞍替えできてからチャレンジした方がいい。その他に総裁候補が育ってきている感じもない。


菅の言うとおりなのだ。結局安倍に対峙(たいじ)し得るのは石橋かいないのだ。だから叩いておこうとする政治家本能が生じるのだが、本来首相というのは後継を育成することも重要な職務だ。


安倍は今後難題が山積しているが、来年9月の再選はほぼ確実であろう。再選すれば6年の長期政権を全うできる可能性がある。さすがにこれ以上の予測できる者はいない。安倍は9月21日で60歳の還暦を迎えるが60代は政治家として脂の乗り切った時期である。


一方石破は安倍より3つ年下で57歳。まだ“修業中”で済む年齢だ。ここが我慢のしどころと考え、隠忍自重することしかない。「禅譲」を信じた振りをして、当面安倍を盛り立てることだ。


いずれにしても自民党は政権を再奪取したばかりである。内部抗争しているときではない。

     <今朝のニュース解説から抜粋>   (政治評論家)
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