2014年09月03日

◆安倍は谷垣と消費税で“握って”いる

杉浦 正章




幹事長人事の裏の裏を読む
 


浅薄なマスコミが「谷垣幹事長人事で消費増税が10%に引き上げられる」と報じている。


浅薄でないマスコミは、あえてそこまで踏み込んでいない。果たして「前回以上に引き上げに慎重」(経済再生相・甘利明)である首相・安倍晋三が、再増税に前向きな谷垣禎一を、クギを刺さないまま幹事長に任命するだろうか。


まずあり得ないと思う。むしろ安倍と谷垣は再増税問題でなんらかの“密約”をかわしている公算が強い。“握った”のだ。アベノミクスが失速するような大政策を、「幹事長人事」で決め打ちしてしまう訳がないのである。


総裁経験者を幹事長に据えるという谷垣の人事は全くのサープライズであった。だらしがないことに予測が当たったマスコミもテレビ評論家もゼロだ。政治記者も質が落ちた。


谷垣は自民党にとっては、苦しい野党時代を総裁として党を支えた功労者であり、温厚な人柄で他派の信頼も厚い。党総裁時代には、民主、自民、公明の3党で消費増税をとりまとめた。外交・安全保障政策でリベラル志向が強い。


政権復帰を目前にした2012年秋の党総裁選では、推薦人を確保できず出馬を断念。安倍は法相として閣内に取り込み、谷垣グループの不満を封じた経緯がある。問題は、安倍がなぜあえてリベラルの重鎮を党の要に据えたかである。


まず政局への対応については、幹事長が来年9月の総裁選に出馬されては政権が揺らぐ。安倍はあえて谷垣を幹事長に据えることによって、谷垣の懐に飛び込み、協力を勝ち取るという戦術に出たのだろう。谷垣は69歳で、次期総裁選を逃せばまず総裁候補とはなり得ない。


よほどの事態とならない限り、総裁選への出馬はないだろう。安倍の再選への自信と、谷垣への信頼がもたらした人事である。加えて外交上の配慮がある。谷垣は中国との太いパイプを持っており、対中関係改善をにらんだものであろう。


極めて重要なのは、新内閣最大の課題である消費増税をさらに引き上げ10%にするかどうかも密接に絡む人事であることだ。


谷垣は2段階増税を各党とまとめた張本人であり、8月18日には、長野県軽井沢町で開いたグループの研修会で講演し、安倍政権が年内に判断する消費税の引き上げについて「10%にもっていけない状況になると、アベノミクスが成功しなかったとみられる」と述べ、予定通り10%に上げるよう訴えた。


引き上げに慎重な安倍をけん制しているのである。少なくとも安倍はこの時点では「谷垣幹事長」を考えていなかったはずだ。谷垣がこの立場を幹事長として維持するとすれば、安倍は現段階で消費税再引き上げを決断したことになるが、ことはそう簡単ではない。


安倍が消費増税に慎重なのは一にかかって、アベノミクス直撃の危機を感じているからである。8%への引き上げですら周辺の学者を使って反対論を展開させたほどである。


今度は側近中の側近の甘利と学者を使って再引き上げ慎重論を展開させている。甘利は1日、BS日テレの「深層ニュース」で、10%への引き上げについて、「デフレの脱却ができなければ、リセットするぐらいの気持ちがなきゃだめ」と述べ、慎重に見極める姿勢を明らかにした。


安倍の心境についても「おそらく総理は8%に引き上げた時以上に慎重だ。景気が失速しないか、してしまったら元も子もなくなる」と明言している。要するに安倍の本音は再増税はしたくないのだ。


再引き上げの着目点であるGDP は4−6月が6.8%と超大幅ダウンしたのは一応想定内として、安倍が判断の目安としている7−9月のGDPがどうかというとどうも芳しくない。消費の冷え込みが見られ8月に国内で販売された新車の台数は33万3471台で、昨年同月を9.1%下回り、2か月連続で減少した。


百貨店売上高も4か月連続でマイナス。7月は白物家電までマイナスだ。民間の予想では7−9月の実質GDPの伸びはトップが1.4%、平均が0.6%、ボトムが0.1%と極めて低い。これは消費税法付則の引き上げ要因に適合しない恐れがあるのだ。


要するに安倍政権は先送りか、景気対策をぶち込んで再増税するかの選択肢しかない。しかし景気対策と言っても公共事業は人手不足もあって13年度補正予算の執行もままならない状況だ。ばらまき公共事業は効果がないのだ。


従って先送りか1%ずつの段階的実施など弥縫策かしか選択肢はなくなってきているのが実情だ。もちろん8%の引き上げでも怨嗟の声は町に満ちあふれており、その上すぐに10%への引き上げでは内閣支持率も10%になる恐れがある。竹下政権も3%の引き上げで支持率3%となり倒れた。


そこで谷垣幹事長人事だが、安倍がこの時点で谷垣と密接に意見を交換しないで幹事長起用を決めることはまずあり得ないとみた方がよい。数日前に両者は極秘会談したが、谷垣も政治家である。自説に執着して幹事長ポストを逃すようなことをするとは思えない。


安倍が谷垣の顔を立てて、例えば期限をつけて増税を延期するなどの方策を決めれば谷垣もノーとは言えないのではないか。自民党にとってもアベノミクスの失速は、地方選挙はもちろん国政選挙も直撃するのだ。


だから安倍と谷垣はその辺で“握っている”可能性が高いのだ。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
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