2014年09月22日

◆谷垣氏の「律義」はどっちに向く?

今堀 守通



今月3日の内閣改造・自民党役員人事について、中曽根康弘元首相はこう評価した。

「安倍晋三首相は『総理大臣病』になってきたな」

 ここでいう「総理大臣病」とは、決して悪い意味ではない。安倍首相が長期政権を意識した人事を行った−ということで、いわゆる「お友達」ばかりをそろえるようなことをせず、挙党態勢を意識し、派閥にもそれなりの配慮をしつつ、メリハリを利かせたということだ。

最大のサプライズであり目玉といわれた人事は、谷垣禎一前総裁の幹事長起用だった。谷垣氏が幹事長になり、自民党内の結束は強まったといわれている。ところが、「谷垣幹事長」が安倍政権にプラスとなるのか、どうも怪しくなりつつある。

今月12日、谷垣氏、公明党の山口那津男代表、そして民主党の野田佳彦元首相が「同窓会」を開いた。3人は、消費税率を段階的に8%、10%へと引き上げるのを柱とする社会保障・税一体改革に合意し、関連法を成立させた当時の党首である。

翌13日 、谷垣氏はテレビ番組に出演し、来年秋の消費税率10%への引き上げについて「あまり先送りしないようにしなければいけないのが基本だ」と強調した。

谷垣氏は、「景気の動向をよく見ていかなきゃならないのは当然のことだと思う」とも発言した。しかし、「上げたときのリスクはまだいろいろな手で乗り越えられると思うが、上げなかったときのリスクは、なかなか打つ手が難しくなる」と述べ、消費税率10%は「通過点」とも答えた。

18日の日本商工会議所の総会では、「国民に将来の安心感を持ってもらう観点から、(10%への引き上げは)法律上からも自明と理解している」と明言した。

谷垣氏の発言に「してやったり」の思いでいるのは、安倍政権と敵対関係にある野田氏と、会に同席していた藤井裕久元財務相だろう。

「同窓会」は今年3月12日に続いて2回目だった。呼びかけたのは、元自民党衆院議員の森田一・元運輸相だ。森田氏は大平正芳元首相の娘婿。大平氏は、首相在任中に消費税の前身といえる「一般消費税」の導入を目指し、現職のまま急死した。藤井氏は野田政権の「後見人」役を務め、民主党政権時代に消費税増税の旗振り役を担った。森田、藤井両氏はともに旧大蔵省OBである。

大平氏は3月12日が誕生日、6月12日が命日。1回目の「同窓会」は大平氏の誕生日に合わせての開催、今回は「大平氏の月命日」ということで開かれた。谷垣氏の幹事長就任と山口氏の代表4選を祝う会も兼ねたことになっている。

ある出席者によると、藤井氏が乾杯の音頭で「消費税は予定通り上げなきゃいかんぞ」と谷垣氏らに「奮起」を促した。あとは大平氏にまつわる話や、党首時代の思い出話に花を咲かせた。

藤井氏には大きな狙いがあった。安倍首相が消費税率10%への増税に慎重であることを見越して、谷垣、山口両氏から首相に増税圧力をかけてほしいとの期待だ。自民、公明両党側が消費税増税で圧力をかければ安倍政権は混乱するだろうという期待も透けてみえる。

余談になるが、藤井氏は終戦の日の先月15日、民主党の海江田万里代表に党人事で注文をつけた。「反対野党に徹しろ」と。集団的自衛権の行使容認を断固阻止することが念頭にある。

藤井氏は周辺に「集団安全保障はよいが、安倍首相が進めようとする集団的自衛権は問題だ」と漏らしている。はたして、海江田氏は「挙党態勢」の人事を断行したというが、集団的自衛権の行使容認に前向きな前原誠司前国家戦略担当相ら保守系を主要ポストに置かず、排除した。

「同窓会」で、谷垣氏から「消費税は予定通り上げます」という趣旨の発言はなかったという。しかし、谷垣氏は幹事長就任当初こそ安倍首相に歩調を合わせる発言をしていたのが、12日の「同窓会」を境に「先祖返り」したような発言に戻った。

安倍首相は19日、都内で講演し、消費税に関してこう発言した。

「谷垣さんに幹事長をお願いしたことを『消費税増税シフト』だといった指摘もあったが、これは誤りだ。増税は税収を確保するためであり、増税によって景気が悪化し、税収もままならないようなことであれば元も子もない。私の考えは、谷垣さんに幹事長就任を打診するにあたって率直に申し上げた」

安倍首相は昨年、8%へ引き上げる決断を最後まで渋った。今年4月以降の景気は、8%増税の反動と夏の異常気象の影響で良好と言い切れない中、「経済再生」を政権の第一に掲げた首相が、10%引き上げに慎重になるのは当然のことだろう。

谷垣氏は、「お人好し」を自認し、魑魅魍魎が集まる永田町にあって「律義」を重んじる珍しい政治家である。問題は、「律義」がどっちに向くかだ。

安倍首相が10%増税を先送りしたいとなれば、それに従うのか、それでも3党合意の順守を訴え続けるのか。谷垣氏が首相に増税圧力をかけてきたら、「政高党低」といわれる政治手法で安定させてきた安倍政権の屋台骨は大きく揺らぐ。

安倍首相は谷垣氏に「なぜ『同窓会』に出たのだ」と言いたいところではないか。少なくとも、「同窓会」が安倍首相にプレッシャーを与えたのは間違いない。(政治部次長)

産経ニュース【今週の政治デスクノート】2014.9.21









この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック