松本 浩史
来年9月に行われる自民党総裁選を視野に、「前哨戦」の意味合いが強かった内閣改造・党役員人事を無難にこなし、長期政権への視界がいかにも良好だから、安倍晋三首相はさぞご満悦だろう。衆院議員の任期が年内には、満了の折り返しを迎え、次期衆院選の時期がいやが上にも政界の焦点となる。「解散カード」をちらつかせながら政権運営をされては、党内の不満分子は出る幕がない。
9月3日に行われた内閣改造・党役員人事で、「ポスト安倍」の最有力候補とされる石破茂地方創生担当相を閣内に取り込めた政治的効用は大きい。安保法制担当相の就任を固辞し、無役になっていれば、何かにつけて政権運営に口を挟み、思わぬ形で屋台骨が揺さぶられるかもしれなかった。
閣内に入ったからには、そんな言動は慎まなければならず、党内には「石破氏は首相からの『禅譲』に期待して閣内に入った」(中堅)との見方も出ている。党財政を管理し、衆院選の候補に対する公認権を握る幹事長ポストから外したので、よしんば総裁選に出馬したとしても、支持の旗幟(きし)を鮮明にしていない勢力の支持は、それほど取り付けられないだろう。
政府・与党では第2次安倍政権の発足後、首相の政権運営に対し批判めいた発言が一時的には出たものの、たいした広がりをみせず、ほどなく収束している。菅義偉官房長官らが中心となり、「反安倍」の芽を丁寧に摘んできた目配りもあり、高い内閣・党支持率を維持し、安定政権を軌道に乗せた。
自民党関係者の一人は「2度の野党体験で味わった教訓が生きている」と話す。平成5年と21年の衆院選で自民党はいずれも、過半数を獲得できず野に下り、党本部には閑古鳥が鳴き、業界団体は掌を返したように政権党に流れた。こんな悲哀はご勘弁というわけだ。
なるほど、21年の衆院選直後に自民党再生会議が取りまとめた「自民党再生への提言−第45回総選挙の総括と政権奪還への取り組み−」では、敗因分析の一つとして、党内抗争に象徴的な「自民党の古い体質」を指摘している。
「わが党の体質が、官僚依存で党内抗争に明け暮れる旧態依然とした体質と受け止められ、投票行動でマイナスに作用した」
「安倍・福田・麻生と3年で3人の総裁が代ったことが、わが党の信頼を大きく低下させた」
「一体感が無く、統治能力に欠ける自民党を嫌悪する国民は少なくなかった」
いたずらに党内抗争をしていては、あれよという間に国民の支持が離反る−。安定政権の底流には、こうした自制心が脈々と党内に流れている石破氏が地方創生担当相に就いたのも、こんな配慮があったとの見方もある。
政界では、年内に任期満了の折り返しを迎えることから、解散時期をめぐり、さまざま憶測が飛び交っており、首相もいつ「解散カード」を切るか、あれこれ思案し始めただろう。
首相とすれば、総裁選で再選を勝ち取るには、支持率が高い時期に実施し、自民党圧勝の実績もってこれを実現したいはずである。
一部には、年内解散説を唱える向きもある。たが、首相が改造で菅氏ら主要閣僚をことごとく留任させたのは、ギクシャクしている日韓両国との関係改善、集団的自衛権の限定行使容認に伴う関連法案の整備、人口減少社会への対応など、諸懸案の処理を優先させたい思惑が透ける。
政府関係者も「首相は年内解散なんて考えていない」と明言する。となれば、年明けの通常国会が閉幕する6月ころという見方が出てくる。
自民党幹部は「いずれにしても、『解散カード』で党内を牽制(けんせい)すれば、政権運営はうまくいく。選挙後にはまた改造をするから、今回、処遇できなかった『閣僚待機組』の不満を抑え付けることもできる」と語る。
首相は、いかなる解散戦略を描くのか。先の提言には、「解散戦略の失敗」としてこんな分析をしている。
「勝機を見いだせる時期に解散を決断できず、結果として、追い込まれた形で解散することとなった(略)。解散戦略なきままの行き詰まり解散の結果は、当然の如く政権交代であった」
言わずと知れたこととはいえ、逆風に横っ面を張られているのに、やらざるを得ない状況にいつ追いやられないともかぎらない。安定政権だからといって油断し、衆院選後に「慢心の目が覚めた」なんてハメにゆめゆめ陥らないよう、首相は心して政権運営に当たってもらいたい。
産経ニュース【松本浩史の政界走り書き】2014・10・5