阿比留 瑠比
「首脳会談」ぶれぬ日本
11月に北京で催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議の場で、安倍晋三首相と中国の習近平国家主席による初の首脳会談が実現するとの期待が高まってきた。日中双方で「機は熟している」(自民党の高村正彦副総裁)、「APECは重要なチャンスだ」(程永華駐日大使)などと前向きな言葉が飛び交っているのもその表れだ。
首相自身が臨時国会の所信表明演説で、これまで日中関係であえて使わなかった「友好」という言葉を用いた。一定の手応えを感じているからこそ、次のように述べたのだろう。
「日中両国が安定的な友好関係を築いていくために、首脳会談を早期に実現し、対話を通じて『戦略的互恵関係』をさらに発展させていきたい」
首相はもともと「日中友好」の4文字が対中外交戦略の選択肢を狭めてきたと考えてきた。例えば平成20年6月の都内での講演では、「友好は手段であって目的ではない」と強調してこう説いていた。
「日中外交はいわば日中友好至上主義といってもいい。だんだん、友好に反することは全然だめだという雰囲気が醸し出されてきた。友好に反することは何かは中国側が専ら決める」
首相が第1次政権時に戦略的互恵関係を提唱したのも、ウエットな日中友好至上主義は排し、もっとクールに相手の必要性を認め合って付き合っていこうという発想からだった。
中国側も以前とは対応を変えてきている。16日にイタリア・ミラノで李克強首相と握手を交わした際の反応について、安倍首相は周囲に「李氏はニコニコしていてこれまでと態度は違った」と語っている。
一方、所信表明演説での韓国への言及は「関係改善に向け、一歩一歩努力を重ねてまいります」とあっさりしたものだ。安倍政権が韓国に向ける視線の厳しさが如実に反映されている。
もちろん、外務省内にも「尖閣諸島(沖縄県石垣市)問題もあり、首脳会談があるかどうかは五分五分だろう。中国は自分たちの事情で会談ができなくなった場合でも、平気で日本のせいにしてくる国だから」(幹部)との見方もあり、予断は許さない。
ともあれ、日中首脳会談が実現すれば、東アジア地域の安定化や日中間の経済活動の円滑化のほかにも外交上、大きな意味がある。
尖閣諸島の領有権問題の存在を認めることや、首相の靖国神社不参拝の確約など、中国が会談の条件としてきた一方的な要求に一切譲歩することなく会談が行われれば、対中外交でよき前例となるからである。
実は第1次安倍政権時代の平成19年6月にも、日中間で同様の駆け引きがあった。当時、中国の胡錦濤国家主席は、台湾の李登輝元総統訪日を理由に首相との会談をいったん拒否してきた。
ところが、日本側が中国が示した会談のための諸条件をことごとく突っぱねた結果、「条件はつけない。ぜひ会談を行いたい」と折れてきたのだった。
北京を訪問した首相に習氏が会おうとしなかったら、「中国は国際的に失礼な国となる」(政府高官)のも事実だろう。
「こっちが譲らなかった結果、首脳会談ができなくてもかまわないという姿勢で臨んでいる」
首相は周囲にもこう語る。国際会議の議長国という晴れ舞台を前に、追い込まれているのは中国の方のようだ。(政治部編集委員)
産経ニュース 【阿比留瑠比の極言御免】2014・10・23