平井 修一
1970年、イギリス生まれのジャーナリスト、コリン・ジョイス氏が「極右の初議席獲得を支えた地方住民の怒り」を書いている(NW10/21)。
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ほとんどのイギリス人がそうであるように、僕も年に1〜2回ほどは海辺に遊びに行く。
そんな僕の「地元」ビーチ、(故郷エセックス州にある)クラクトンが今、偶然にもイギリス政界を揺るがす大激震地になっている。
以前に僕は、イギリスの海岸地帯が衰退していて、イギリス最貧地域のいくつかは海沿いの町にある、とブログに書いた。クラクトンは失業率も福祉依存も比較的高く、暴力犯罪も多い(刃物による事件が多いことで有名だ)。
その意味で、こうした海沿いの町の不満を抱える有権者たちの間から、政治を激変させるような急進的動きが持ち上がるのは不思議なことではない。だけどクラクトンの出来事に関して言えば、「怒れる少数派の不平不満だ」と簡単に片づけてしまうことはできなそうだ。
どういうことか説明しよう。クラクトンの選挙区には、保守党の国会議員が1人いた。でも今年、彼は議員辞職してイギリス独立党(UKIP)に鞍替えすることを発表。彼の辞職に伴い補欠選挙が行われ、新たにUKIP候補として立候補した彼が再選されたのだ。UKIPは近年、地方議会選挙や欧州議会選挙で躍進してはいたものの、イギリス議会で議席を獲得したのは初めてのことだった。
■移民やEUにうんざりする人々
UKIPは大方、極右の極小政党だとみられている。支持層には、怒りを抱えた白人男性が多い。彼らの怒りの矛先は、移民や権限を増すEU、社会保障に頼る貧困層や強欲な民間企業......と、ありとあらゆるものだ。そんなイメージは偏見に満ちているように聞こえるかもしれないが、もっともな部分もある。UKIPは、人々が現状にうんざりしているからこそ票を入れたくなる政党なのだ。
明らかにクラクトンの一件は、かなりの人々が既存の政治にうんざりしていることを示している。UKIPに投票した、あるいは投票するつもりだ、と不本意な様子で僕に打ち明ける友人や知り合いもたくさんいた。彼らは実のところUKIP政権など望んでいないが、抗議票を投じて自分たちの怒りを示したかったのだ。
イギリスの有権者が既存の政党を敬遠しだしたのは、議員の経費スキャンダルがあったことも影響している。でも有権者は、増え続ける移民や、無責任なのに強大な権力だけは握るEUに対しても、無力感を覚えている。これらはまさに、UKIPが攻撃の標的にしているものだ。
イギリス議会選挙は小選挙区制を採用していて、選挙区で最大の得票を得た候補が当選する仕組みだ。1位以外の候補者たちに合計65%の票が集まっていたとしても、トップの1人が当選することになる。つまり、保守党と労働党という2大政党の支配を破るのは、小政党にとって容易ではない。
■労働党政権復活に道
僕はUKIPがこの2大政党支配を打ち破る見込みがあるとは思わない。それでも、有権者を保守党から引き離し、弱体化させ、政治的議論に火を点けることができることを証明してみせた。
長年の間、保守党の支持基盤は最も不安定だとささやかれてきた。保守党党首のデービッド・キャメロン首相は、UKIP票の増加が労働党政権の復活に道を開くことになると、繰り返し警告している。
もしもUKIPが総選挙で保守党支持者の10人に1人の票でも獲得できれば、保守の票が割れ、労働党が勝利する確率がぐっと高まるからだ。
だが興味深いことに、クラクトンと同日にもう1つ他の地域で補欠選挙が行われ、こちらは労働党候補が議席を獲得した。2位のUKIP候補はほんの僅差にまで迫っていた。
UKIPは極小政党かもしれないが、彼らの主張は急速に「主流」になりつつあるようだ。(以上)
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移民賛成、EU残留に賛成している(多分リベラルなのだろう)評論家のJanan Ganesh氏にとって、以上のような状況は堪えがたいようで、「英国に深刻な被害を及ぼしかねない愁苦主義 こんなに素晴らしい国なのに、なぜ不満だらけなのか?」と怒りの声をあげている(10/21日、英フィナンシャルタイムズ紙)。
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「静かな絶望の中で耐え忍ぶのがイングランド流だ」――。1973年にピンク・フロイドはこう歌った。ストイックな態度は当時の国民性であり、欧州の病人だった英国にはそれが必要だった。
現在、この国の否定的な態度には、静かなところなど何一つない。今日の英国を取り巻く雑音は、移住者や詳細不明の「エリート」、政治そのものに対する唸るような不満の声だ。
目下、選挙に関して世間を沸かせている英国独立党(UKIP)は、今の状況がひどく、一段と悪化しているという多くの人の見方を糧に伸長している。
フランスでは、2017年に(極右ルペン率いる)国民戦線(FN)の大統領が選出される可能性が少なからずある。ここ英国では、来年の総選挙で考えられる最も極端な結果は、その偏屈な気難しさが過激主義にはまだ至らないUKIPが議席をいくつか獲得することだ。
移住者は確かにやって来る。それも理由があってのことだ。英国は、来るに値する場所なのだ、云々。(以上)
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在日、朝日、中韓北に優しい人、一方でそれらを嫌う人。日本でも激しく対立している。両者はともに不寛容で、話し合いや歩み寄りが成立しないことは多くの国と同様だ。お互いに憎悪している。心の底では呪っており、殺したいと思っている。結局は選挙で決着をつけるのがルールになっている。血を流さない戦争だ。
選挙結果を受け入れない敗者はいるもので、たとえばタイでは国王が統帥権をもつ軍が出張ってきて暫定政権をつくり、とりあえず対立を抑える。一種の安全弁だ。
中共の場合、国政選挙、地方選挙もない。せいぜい町内会の選挙くらいで、それも中共が用意した候補者から選ぶのだから、選挙と言えるものではない。不満や怒りを鎮める選挙も安全弁もないから殺し合いになる。
香港人が自由民主の象徴である普通選挙を求めるのは、流血の争いになるのが嫌だからだ。自由民主を後退させたくないからだ。習近平は一国二制度を容認するしかないのではないか。それとも学生を虐殺するか。
英国の憂鬱は選挙で晴れる可能性はあるが、選挙や安全弁のない中共の憂鬱は死ぬまで晴れないことは確実だ。ポンコツ空母・遼寧のボイラーのように爆発するだろう。(2014/10/27)