阿比留 瑠比
29日付の本紙連載「歴史戦」は、広島県教職員組合と韓国の全国教職員労働組合が共同作成した日韓共通歴史教材「学び、つながる 日本と韓国の近現代史」を取り上げていた。慰安婦問題でデタラメや誤解がいかに拡散されてきたかを示す一つの典型例だと考えるので、補足したい。
歴史教材は、日本軍が朝鮮の女性たちを「戦場に連れていき、性奴隷としての生活を強要しました」と記し、こう決め付けている。
「望ましいのは、『朝鮮女で、しかも若いほどよい(15歳以下が望ま しい)』という軍医の報告により、朝鮮人女性たちが『軍需物資』として犠牲になった」
慰安婦問題を少しかじった者ならピンとくる。ここでいう「軍医」とは産婦人科医の麻生徹男氏のことだろう。麻生氏は陸軍軍医大尉として中国各地を転々とし、上海で慰安婦約100人の検診をした経験から、昭和 14年に「花柳病(性病)の積極的予防法」という論文をまとめ、上官に 提出した人物だ。
麻生氏はこの中で、検診では「(朝鮮)半島人の内、花柳病の疑いのある者は極めて少数なりし」と記し、その理由として日本人慰安婦より若年者が多かったことを挙げている。
要するに、検診結果の一例を示しただけである。だが、これを作家の千田夏光氏が次のように裏付けなくこじつけて著書に書いた結果、麻生論文が朝鮮人女性の強制連行のきっかけだとの誤解が広まっていく。
「レポートの結果として軍の目は当然のようにそこへ向けられていく。(中略)朝鮮半島が若くて健康、つまり理想的慰安婦の草刈り場として、認識されていくことになる」
この千田氏の「創作」話が、さらにゆがんで日韓共通歴史教材の記述につながったとみられる。千田氏は軍属を連想させる「従軍慰安婦」という造語の発案者でもある。
千田氏自身は後に麻生氏の娘である天児都(あまこ・くに)氏からの抗議を受け、手紙で「私の記述が誤解をまねき、ご迷惑をかけているとすれば罪は私にあります」と間違いを認め、謝罪している。
にもかかわらず、いったん流布された虚構は事実を装って独り歩きしていく。
慰安婦を「性奴隷」と認定した平成8年の「クマラスワミ報告書」には、オーストラリア人ジャーナリスト、ジョージ・ヒックス氏の著書が多数引用されている。
この本の索引欄を見ると千田氏や、朝日新聞が虚偽と 判断して関連記事を取り消した「職業的詐話師」、吉田清治氏らの名前が 並んでいるのである。
悪貨は良貨を駆逐するという。扇情的なプロパガンダ(宣伝)は、当たり前の事実よりもよほど流通しやすいらしい。
ちなみに歴史教材は、拉致されたのは「ほとんどが十代の若い女性たち」とも記す。だが、米軍が昭和19年、ビルマ(現ミャンマー)で捕らえた朝鮮人慰安婦20人に行った尋問記録を読むと、10代女性は1人(19歳)しかいない。
また、日本軍が朝鮮人女性を「軍需物資」としたとも指摘する。とはいえ、韓国軍が朝鮮戦争期、軍慰安婦を「第5種補給品」と位置づけ各小隊に支給していたことは、韓国陸軍本部刊行の「後方戦史(人事篇)」に明記されているのである。自らの行為を日本に投影してはいないか。
こんな教材で子供たちに偽の歴史を植え付けて、日韓が「つながる」道理がない。
(政治部編集委員)
産経ニュース【阿比留瑠比の極言御免】2014.10.30