2014年11月06日

◆共和党圧勝は安倍外交・安保にプラス

杉浦 正章



TPPは牛・豚肉で厳しい局面も


政府関係者もマスコミも「日米関係に変化はない」の大合唱だが、変化を予知する能力がないから変化がないといっているのだろうか。


米上下両院での共和党圧勝は日米関係にも変化をもたらすのである。まず首相・安倍晋三路線にとってのプラスは日米外交・安保関係にある。議会で伝統的に対中強硬路線を取る共和党が多数を占めた結果、これがオバマの対中外交に影響を及ぼさざるを得ないということだ。


アジア・太平洋での同盟関係には強化へと作用する。マイナスは共和党は農林関係者の支持層が厚く、牛・豚肉の関税などをめぐって環太平洋経済連携協定(TPP)交渉でオバマの対日妥協をけん制する動きが出る可能性があることだ。外交は微妙な変化でもこれを予感する能力がないと方向を誤る。民主党大敗は紛れもなくオバマの大敗であり、日米関係にも影響は不可避なのだ。


まずオバマと議会との関係は、2年後の大統領選挙に向けて次第に対決色を増して行くと予想される。民主党は国務長官を務めたヒラリー・クリントンが「一強」のまま選挙まで続くことが予想され、オバマはクリントンとの盟友関係を折に触れて発揮してゆかざるを得ないものとみられる。


共和党が議会両院で多数を占めた結果、議会におけるねじれは解消したが、大統領府とのねじれは一段と深刻化した。


過去の大統領で議会の作る法案に最も多くのveto(拒否権)を発動した大統領はフランクリン・ルーズベルトで何と635回に達している。大統領はvetoで議会の影響を払いのけようとするが、議会はこのvetoを覆す3分の2の多数による再可決overrideでさらなる対抗が可能だ。


筆者がワシントン特派員時代に、ニクソンと議会の間でこの鋭い対決がありニクソンが負けている。泥沼化したベトナム戦争を背景に戦争での議会の権限を強める戦争権限法案で議会が勝ったのだ。


議会と大統領府のねじれはクリントンが1994年の中間選挙以来そうであったし、2006年以降のブッシュ政権もねじれていた。クリントンは早々に議会との妥協に動いて成果を上げている。従って珍しい事でもない。


さらに喫緊の課題は狂気のテロリスト組織イスラム国への対応だ。オバマの残る2年の任期において、これだけはレームダックでは済まされない事態だ。放置すれば批判はオバマにかかってくる。空爆だけで対応できる可能性は少なく、壊滅させるには地上軍の投入が不可欠になる可能性もある。


共和党はさらなる関与を主張しており、地上軍投入となれば当然日本にも何らかの貢献の要請が生ずることはあり得る。安倍は集団的自衛権の行使がらみでの参加は完全否定しているが、後方支援の必要が出る可能性はある。
 

内政ではオバマの推進する医療保険制度改革、いわゆるオバマケアで共和党が反対の姿勢を強めている。オバマケアつぶしの法案が提出される可能性があり、妥協が成立しなければvetoを行使せざるを得なくなるかも知れない。


オバマは議会の影響を直接的に受ける内政よりも、外交・安保でレームダック化の是正に動く可能性が高い。


さっそく登場する外交課題は10日からのアジア太平洋経済協力会議(APEC)における米中首脳会談だ。APEC成功を極めて重視する習近平が、よもやオバマの足元を見透かすような露骨な対応に出ることは予想されないが、底流にオバマ軽視の姿勢があっても不思議はない。


一方で共和党にはかねてから中国によるサイバー攻撃への批判を軸に対中批判が強く、対中強硬政策への注文が強まりこそすれ弱まることはあるまい。
 

ともすれば中国に傾斜していたオバマは、尖閣諸島や南沙諸島の中国進出という現実を前に日米豪を軸とするリバランス・対中抑止路線を取らざるを得ない状況に置かれた。その中での共和党圧勝は習近平に対して“甘い顔”がさらに許されなくなった事を意味している。


日米外交・安保面ではオバマがレームダック化しても事実上のナンバー2に近い立場の国務長官・ケリーや 国防長官・ヘーゲルとの関係はかつてなく良好な状況にある。集団的自衛権の行使を前提にした新日米防衛協力の指針(ガイドライン)などの作成作業に支障を来すことはあるまい。むしろ共和党圧勝は安倍の目指す日米基軸外交の外交・安保路線を後押しをするものとなろう。


安倍は9日から9日間の日程で、中国で開かれるAPEC=アジア太平洋経済協力会議の首脳会議、ミャンマーで開かれるASEAN=東南アジア諸国連合の関連首脳会議、オーストラリアで開かれるG20サミットに出席する。


日米豪3国は豪州のブリスベーンで15、16両日に開かれるG20の場で首脳会談が開催されることになっているが、オバマにとってアジア太平洋での同盟関係再構築の場となろう。またこれら国際会議の合間を縫って日米首脳会談が開催され関係強化を確認することになろう。


TPP交渉に関しては総じて共和党は推進論だ。しかし個別分野では厳しい局面が生ずるかも知れない。


共和党は自由貿易主義者は多いが、農業団体関係者も多い。とりわけ焦点の牛・豚肉分野の輸入関税に関しては共和党は業界の支援を受けている。8月には共和党の下院議員らがオバマに対して書簡を送り日本の農産物市場の大幅開放を要求している。大統領がより厳しい対応を迫られる可能性は十分にある。

    <今朝のニュース解説から抜粋>  (政治評論家)
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