2014年11月11日

◆「ヴェルサイユ便り」@

寺田 輝介
(安保政策研究会常務理事・元メキシコ駐在大使 元韓国駐在大使)    


筆者は今夏二ヵ月余りをパリ近郊ヴェルサイユ市で過ごした。

ヴェルサイユ市と言うと誰もがヴェルサイユ宮殿を連想するが、ヴェルサイユ市自体は、宮殿を中核に残存する王朝時代の建造物を巧みに取り入れた街並みを持つ、パリのベットタウンの性格が強い地方都市である。

ここにお届けする「ヴェルサイユ便り」は、筆者が夏の間毎日読み続けた「ル・モンド」紙、そしてテレビ・ラジオのニュースを通して把握したフランス外交と国内政治に関するレポートである。

―フランス外交の注目点―
  
夏に入り当国メデイアが競って報じていたのが、パレスチナ自治区ガザにおけるイスラエル軍とパレスチナ・ハマスとの軍事衝突であった。

イスラエル軍の砲撃等により血を流している多数の婦女子のシ―ンがテレビ等に頻繁に報じられた結果、フランスではガザ地域住民に対する同情心が高まっていることが直に感じられた。

暫く様子を見ていると、当国アラブ系住民がパレスチナ・シンパのフランス人を巻き込みパレスチナ連帯デモを始めたが、同時併行的にイスラエル支持デモも行われ、両者の激突の場面が見られた。

欧州各地でもパレスチナ連帯デモが行われていたが、イスラエル支持デモが催されたのは当国のみであった。パレスチナ問題は、フランスのユダヤ系社会とアラブ系社会を直接刺激し国内問題化する為、フランス外交にとり舵取りが難しい問題であることを具体的に示す事例であった。

夏を通して欧州国民に深刻なインパクトを与え続けてきたのは、悪化の一路を辿るウクライナ情勢であった。

プーチン政権がクリミア半島を奪取した時欧州国民は一様に反撥したが、いざ欧州連合(EU)が制裁を課する段階になると、EU内で制裁実施をめぐり温度差がかなり大きいことが明らかになった。

あくまでロシアと「対話」を求める独、仏、伊等に対し、ロシアと国境を接している上、嘗て旧ソ連邦の支配下にあったポーランド、バルト三ヵ国は強く反撥し、対ロシア「強硬路線」を求めた。EUの足並みが乱れていた時に起きたのが、7月17日のマレイシア航空機撃墜事件であった。

撃墜事件の衝撃の大きさから、EUのロシアに対する制裁は当然一本に纏まると思われたが、具体的制裁措置を検討するEU外相会議がいざ開かれてみると(7月22日)、当初コンセンサスを妨げたのが「フランス問題」であった。

フランスのサルコジ政権時代に成約したロシア向け大型強襲揚陸艦二隻の取り扱いが障害となったのである。

あくまで引き渡しの凍結を求めるEU各国に対し、フランスは国内の雇用悪化を口実に、今回の制裁措置実施前に契約し完工した一隻分は例外とし、建造中の二隻目を制裁の対象とすることを主張した。

国民もこれを支持した。最終的にはフランスの言い分が通ったが、筆者の目にはフランス外交の粘り勝ちと映ると同時に、改めてフランスのしたたかな外交力を感じさせられた。

しかしながら、8月に入るとウクライナ東部の親ロシア派武装集団にプーチン政権が密かに兵員、武器、弾薬等の援助を継続していることが偵察衛星の写真等で明らかになり、フランスの外交的勝利とも言える艦艇売却問題が大きく影響を受けることになる。

フランス外交の動きをよく見ていると、フランス政府は9月上旬に開かれる北大西洋条約機構(NATO)首脳会議でウクライナ問題が最重要議題になり、艦艇売却問題が俎上に載せられると予想していたようで、首脳会議の直前(9月3日)、大統領府は「(ロシアのウクライナ介入は)欧州の安定を脅かしている。

(大型強襲揚陸艦の)引き渡し条件は整っていない」と発表した。絶妙なタイミングでなされた政府声明は、フランスは経済的利益を犠牲にしてまでもEUの「共同益」を守る意思を示したとして、先の外相会議の場における不評を払拭し、EU各国の高い評価を勝ち取った。ここにも機を見るに敏なフランス外交の柔軟性が感じられた。
 
一方制裁を受けたプーチン政権は、8月に入るとEU等に対し農産物の輸入制限で対抗してきた。ロシアの対抗措置は、EUの中でもポーランド、ドイツ及びフランスにかなりの打撃を与えており、フランスの場合損失は約10億ドルに及ぶとされ、直撃を受け苦悩する農民の姿を報ずる記事が多く見られるようになった。

ウクライナ問題は、制裁措置をめぐって当初EU内の足並み乱れを曝け出したが、プーチン政権の飽くなきウクライナ干渉がEUの結束を促進する一助となった。

しかし夏が終わり、冬を迎える時期になれば、EUに対する天然ガス供給問題が浮上してくる。

そうなるとロシアのガスに依存している国と非依存国との間に対ロシア政策をめぐり不協和音が生じるであろう。非依存国のフランスは如何なる態度をとるであろうか。

この様な状況をプーチン政権が見逃す筈がない。硬軟取り混ぜた外交攻勢を仕掛け、EUの分断を図るのではないか。遠く離れた日本も目を離せない状況が続く。そしてウクライナ問題は混迷の度合いを一段と深めて行く。<続く>    (2014/9月8日 記)

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