2014年12月31日

◆「ひつじ辛抱」をやり過ごす

湯浅 博


来る平成27(2015)年の干支(えと)は、どことなく安泰や平和イメージの未(ひつじ)である。ところが、相場の格言では「未辛抱」といって、ひたすら耐える年になるらしい。そんな観測はハズレることを願うが、日中関係に限ってはピタリ当てはまるような気がする。

戦後70年の「未辛抱」

中国の習近平政権は早くも、来年を「抗日戦争と反ファシズム戦争の勝利70年」と位置付け、反日感情を政治利用する気配である。これに、旧ソ連から直輸入したゴリゴリの帝国主義観が重なると、周辺国にハタ迷惑な「力による現状変更」の表出になる。

来年の日本が「未辛抱」になる気配はあちこちある。中国の全国人民代表大会常務委がいまになって、日本降伏の9月3日を「抗日戦争勝利記念日」とし、南京事件の12月13日を「国家哀悼日」に制定して、派手な式典開催を決定している。

5月の中露首脳会談では、中国がウクライナ問題でロシアに理解を示した見返りに、来年は「ドイツのファシズムと日本軍国主義に対する勝利70周年」の式典開催を共同声明に盛り込んだ。ロシアを味方に引き込んで、歴史問題に絡めて対日攻勢を強める構えなのだ。

習政権は当初から「中華民族の夢」を掲げて、アヘン戦争以前の長幼の序や朝貢体制という地位への回帰を目指している。中国共産党に特徴的な「今日の目的のために過去を利用する」(ジョナサン・アンガー)ということなのだろう。

最強のイデオロギー


それは1989年の天安門事件から5日後、トウ小平氏による「かつて中国がどのようであったか」を教えなければならないとの講話ではじまった。冷戦崩壊と天安門事件で共産主義イデオロギーが破綻し、2年後に中国指導部が始めた愛国主義教育キャンペーンで、ようやく共産党支配の正当化と国の統合が保たれた。ナショナリズムの高揚こそは、政権の求心力低下を救う最強のイデオロギーであり、政権基盤が弱いほど、愛国主義教育に依
存する。

2009年の「建国60周年」記念式典の風景を思い浮かべてみよう。天安門広場の式典で、軍旗衛兵隊が広場中央から国旗掲揚台まで、きっかり「169歩」で五星紅旗を掲げた。歩数によって1840年のアヘン戦争開戦から169年の歩みを表したのだという。

中国の愛国主義にとって、西欧列強と日本の侵略による屈辱を刻み込む重要な数字であった。来年が戦後70周年であることを考えると、大股で「70歩」を歩くかもしれない。

北京で開催のアジア太平洋経済協力会議(APEC)でみた記念撮影の席順も、いわば力比べだから権力政治の観察には欠かせない。席順は議長国が差配し、「参加歴の順」や「アルファベット順」、または「何となく順」だったりする。


北京会議は前列中央に習主席が立ち、両隣にオバマ米大統領とプーチン露大統領を配して朴韓国大統領らが並ぶ。その後方に、安倍首相とアボット豪首相らである。前列の元首はエンジ色の中国服を羽織り、後列の首相は格が下として紺色の中国服を着せられた。序列が歴然と分かる小賢(こざか)しい演出である。

序列をひっくり返せ

民主国家は「やれやれ」とあきれるが、強権国家では序列が権威づけの物差しになる。もっとも、続く豪ブリスベンで開催のG20首脳会合では、開催国のアボット豪首相が北京の序列をひっくり返した。

アボット首相を真ん中に、両隣には安倍首相と習主席を配して均衡をはかった。明るい安倍首相に比べて、習主席の顔は妙に曇っていたのが印象的だった。

大国意識の強いプーチン大統領はと見れば、左スミに追いやられていた。ウクライナ上空で撃墜されたマレーシア航空機には、オーストラリア人が多数搭乗していたからだ。撃墜にはロシアの介在がなお消えない。

来年は中露がタッグを組んで、対日独戦勝70周年の式典で“序列の復 活”を目指すだろう。10年前の対独戦勝60周年のモスクワ開催は、 「追悼と和解」を掲げながら戦勝国の米露を中心に英仏中が脇を固め、敗 戦国の日独伊首脳は端に寄せられたものだ。権威主義国家は戦勝史観でし か自己正当化ができないものらしい。

斯様(かよう)なわけで来年は例の「未辛抱」を強いられそうだ。あちらのカラ威張りはやり過ごし、歴史戦には羊の皮を脱いで反撃しよう。
(ゆあさ ひろし)論説委員

産経ニュース【日曜に書く】2014.12.28
 
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