石岡 荘十
〜老人狙った新型医療保険にご用心〜
具体的なケースをまず提示する。
今年5月、79 歳の誕生日を待っていたようにアメリカンホーム保険会社から、新商品案内のパンフレットが送られてきた。「引受基準緩和型医療保険」という新型保険への勧誘である。
「引受緩和基準の緩和」というのは、多くの医療保険商品が80歳で補償打ち切り、重病歴のある人は加入不可となっている中で、この商品は80歳までに契約をすれば終身、死ぬまで一定の補償を受けられる。
契約に際して、持病があったり、入院歴があったりしても1年以内に入院していなければ加入契約が出来る、保険引受の条件を緩和した商品だということになっている。
私の場合、16年前心臓の大動脈弁を人工の弁に置き換える大手術を経験しているだけでなく、昨年4月には僧帽弁が不具合を起こし、これもまた人工弁に置換するという重病歴がある。とりわけ、昨年はひどかった。
2月に重症の胃潰瘍で急遽入院。大量の輸血と点滴で体調を整えたあとで弁置換手術に挑んだ。手術は10時間、術後の治療を含めた入院は70日間に及んだ。
この間の手術と入院の医療費総額は930万円余り。国民健康保険の3割負担に高額療養費制度を適用して押さえ込んだが、それでも五十数万円がカバーしきれず自己負担として残った。
が、当時入っていた「ザ大人の医療保険」(アメリカンホーム保険)から数万円の保険金が降りたおかげで、最終的な持ち出しは、10万円足らずという決算となった。仮に入院・手術という事態に遭遇せず、何事もなく過ごしていたとしても70日間の生活費は10万円では收まりきれなかっただろう。
だから、安くない国民健康保険料に加えて、月額12,000円余の「ザ・大人医療保険」がイザという時の役に立ったことになる。
そんなこともあって、この歳になると医療保険は欠かすことができない。新しい医療保険は、ちょうどそんなタイミングを見透かすように術後1年と1ヶ月のところでの勧誘だった。
で、新商品に飛びついた。「ザ大人の医療保険」は80歳補償が打ち切りになる。これからが健康が危うくなるという時に、医療保険なしという状態はいかにも不安である。
そんな時に少し保険料は高くなるが終身補償の勧誘である。早いほうがいいという勧めもあって6月、直ちに新商品に切り替える手続きを取った。保険料は5割増、保険料が月々6,000円ほど高くなる月額18,000円だが致し方あるまいと踏み切った。補償内容は
・ケガ・入院保険金(日額5,000円)
十・手術保険金 5万円
・通院保険金 2,500円/日
などの終身補償である。これで相当な重病になっても昨年程度の自己負担で医療費は賄えるはずだった。
そんな時またまた入院騒ぎだった。
今月初め、夜中に腹痛、トイレに駆け込むと猛烈な下血だった。真っ黒な便が便器の半分ほど。病院に駆け込むと直ちに胃カメラ(上部消化器官内視鏡)検査。結果は、急性出血性胃潰瘍で、直ちに入院。
翌日、全身睡眠薬を使って内視鏡で出血した部分(1ケ所)をアルゴンプラズマ凝固焼灼手術(APC)。つまり、出血した部分を高周波で焼いて固める止血手術を行った。
入院7日、この間3日絶食して点滴と輸血。3日目に流動食から始まって食事ができるようになった。
治療費請求書は(3割負担で)8万5,000円ほどだった。この場合の保険による保障額は
・入院費5,000×8=35,000円
・手術保険金50,000円
で、ちょうど合計8万5,000円となる勘定だった。
ところが、担当者に電話をすると、「契約1年以内の補償金は半額」になる、つまり、保険料がほぼ5割増になったのに、契約後1年間とはいえ補償額は半額ということだ。そのことはきちんと説明してあるはずだという。
ところが思い返してみても勧誘の時、「1年間半額」の説明を受けた記憶はなかった。しかし担当者に言われて改めて手許にある保険証券を仔細に点検すると---確かにありました。
補償内容欄の下半分に、80歳近い平均的な老人の視力では虫眼鏡でも使わなければ読めないような小さな活字で「1年間の保険金額は、50 %相当額とする」と書いてあった。
契約の時、ここをよく確認しなかった方が悪いといえばそのとおりなのだが、傘寿間近な老人をターゲットとするこの商品の説明書きとしては、お世辞にも顧客への思いやりのある但し書き、と受け取ることはできない。
営業的に都合の悪いことだからわざと読みにくい小さな字で目立たないように書いたと勘ぐられても致し方ないだろう。
契約勧誘の時期にも問題がある。79歳になってすぐ契約した結果、「1年以内補償半額」の罠にかかってしまった。早すぎた契約が不利な補償を強いる結果を招いた。結果論ではあるが、新商品への乗り換えを80歳ギリギリまで待っていたら、前の「ザ・大人---」で満額補償を受けられたことになる。
「1年間補償半額システム」の根拠について保険会社は「公開できない」という。なにかやましいことがあるのかもしれない。
それにしても、高齢社会のこの国でよぼよぼ老人は保険会社にとって絶好の”カモ”である。どこから個人情報を入手したのか、いろいろなところからパンフレットが送られてくる。「慌てる乞食は貰いが少ない」。用心するに越したことはない。