2015年02月21日

◆中国、韓国に「踏み絵」

秋田 浩之


米国と中国のどちらを重視するのか。中国からこんな「踏み絵」を突きつけられ、朴槿恵(パク・クネ)政権が対応に苦慮している。

「本当に困った状況になった。韓国はいよいよ、米中の板挟みになってしまう」。朴政権に近い韓国の安全保障専門家はこう打ち明ける。

■中国に脅威のミサイル防衛

火種になっているのは、米国が、在韓米軍への配備を検討している新しいミサイル防衛システム。中国がこれに真っ向から反対を唱え、韓国に圧力をかけ始めたのだ。

その名称は、「戦域高高度防衛ミサイル(THAAD)」。地上100キロ以上の高さでミサイルを迎撃できるほか、半径1000キロを超える範囲を監視できる高性能レーダーをそなえているといわれる。

この配備をめぐる対立が表面化したのが、2月4日、ソウルで開かれた中韓国防相会談だった。

韓国側によると、常万全・中国国防相が約100分間の会談の半ばでこの問題を切り出し、在韓米軍によるTHAAD配備に懸念を示した。中国が公式会談で、否定的な見解を伝えるのは初めてという。

もっとも、中国の反対自体は、予想されたことだった。THAADが韓国に配備されれば、北朝鮮だけでなく、中国のミサイルも弱体化されかねないとの分析が、以前から中国内にあったからだ。

「半径1000キロ超」とされるレーダー能力の高さも、中国からみれば脅威だ。それが本当なら、中国関連の情報まで探られかねないからだ。

むしろ興味深いのは、なぜ、中国がいまになって公式に反対を表明し、韓国への圧力を強めだしたのか、である。

米軍による韓国配備の構想が浮上したのは、今に始まったことではない。
すでに昨年6月、在韓米軍のスカパロッティ司令官が講演で、検討中であることを明らかにしていた。

ところが、中国はその後も、公式の場で反対を唱えたり、あからさまに韓国に圧力をかけたりすることは控えていた。

昨年7月の中韓首脳会談で、習近平国家主席が朴大統領に「慎重な対応」を要請したとの報道もある(韓国の聯合ニュース)。だが、両国とも発言の有無は明らかにしていない。

風向きが微妙に変わりだしたのが、昨年10月下旬。中国の邱国洪駐韓大使がソウル市内の対話フォーラムに出席した際、会場からの質問を受け、THAAD配備への反対に言及した(昨年10月20日付、韓国の中央報)。

中国はこうした段階を経て、2月4日の中韓国防相会談で一気に対応を切り替えた。やんわりと異論を唱えるのでなく、韓国に表立って「踏み絵」を突きつける路線に転じたのである。

中国の意図はどこにあるのか。複数の日韓関係筋の話をまとめると、次のような見方が多い。

中国は当初、この問題は荒立てず、水面下で韓国に「対処」してもらおうとした。このほうが、中国重視の朴大統領を追い込まず、米国とも正面からケンカしないですむと考えた。だが、オバマ政権が昨年11月の中間選挙で敗北し、中東危機に忙殺されるのをみて、米韓にもっと強気に出ても大丈夫だ、と判断した――。

■「両てんびん外交」は曲がり角

韓国としては、在韓米軍へのTHAAD配備には反対しないが、韓国軍には導入しないという方針で、事態をおさめたい考えのようだ。米中双方を気遣う姿勢がうかがえる。

最終的には、米側の出方が大きなカギをにぎる。米側としては配備は実現したいが、韓国を必要以上に追い込みたくはないのが本音だろう。

「THAAD配備の可能性も含め、朝鮮半島でのミサイル防衛は、北朝鮮に向けられたものだ」。ブリンケン米国務副長官は6日、日中韓歴訪を前に ツイッターでこう発信した。

米中両方とうまく折り合い、国益を確保しようとする韓国の朴政権。この「両てんびん外交」はいま、曲がり角にきているようにみえる。
                 日本経済新聞 電子版2015/2/13

秋田浩之(あきた・ひろゆき)
1987年日本経済新聞社入社。政治部、北京、ワシントン支局などを経て政治部編集委員。
著書に「暗流 米中日外交三国志」。

                    (採録:久保田 康文)



      
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