2015年03月16日

◆現実感増すイランの核兵器保有

櫻井よしこ


イスラエルのネタニヤフ首相はおよそいつも「ニューヨーク・タイムズ」(NYT)紙など米国のリベラル系のメディアにあしざまに批判される。

イスラエルがイランやパレスチナなど、“敵対的”な国あるいは民族にいわば囲まれる形で、国際社会の中で生き延びるために、ネタニヤフ首相は、非常に現実的かつ強硬な話をする。NYTなどはそれを嫌い「超右翼主義者」という形容詞で報じる場合が多い。

しかし、3月3日、ネタニヤフ首相が米国上下両院合同会議で行った演説は堂々たる内容で、オバマ政権に真っ正面から問題提起するものだった。
 
ネタニヤフ首相は米国が中心になって行っているイランとの核交渉を「非常に悪い取引」だと断じたのである。米国主導の、つまりオバマ大統領主導の合意案ではイランの核保有は阻止できない。

イランの平和的核利用を認める結果、核施設は廃棄しないという案はイランの核計画に必要な施設をほぼ無傷で残すものだと、主張した。
 
オバマ大統領は現在の合意案では、イランが製造を決断してから実際に核兵器を保有するまでに1年かかる、米国など国連安全保障理事会常任理事国が中心になって、イランの核開発を阻止することができると主張する。

核計画を制限する合意の履行期間を「10年以上」としているために、その間の核開発も不可能だというのだ。
 
だがネタニヤフ首相はオバマ大統領の考えが楽観的過ぎるとし、イランが核兵器製造を決断して実際に保有するまでは1年よりずっと短いと、イスラエルの情報では分析されていると説明する。

履行期間10年ということは、その先は制限が撤廃され核兵器製造が可能になるということであり、結論としてイランの核保有は阻止できないのではないか、と反論する。
 
ネタニヤフ首相の警告する通りイランが核兵器保有に至る可能性は高いと、専門家らもこれまで繰り返し指摘してきた。

イランが核を持つとき一体が起きるだろうか。中東諸国が激震に見舞われるのは目に見えている。イランの核保有を恐れる気持はアラブ諸国に非常に強い。加えて米国の中東政策に頼りながらも、オバマ大統領の軍事介入に対する消極姿勢にアラブ諸国の不安は拭えない。
 
従ってイランが核保有に至るとき、サウジアラビアをはじめとする近隣諸国は米国の核で守ってもらうという発想よりも、自らの核武装を選ぶことは十分にあり得る。そのとき、すでに崩壊気味の核拡散防止条(NPT)は最終的に破綻するだろう。
 
一方でイランは自国の核の一部をイスラム過激派の手に渡しかねない。あらゆる意味で、核兵器が一挙に拡散する危険性が生じかねない。このような最悪の事態にどう対処するのか。
 
オバマ大統領はこうした世界規模の危機に対処しかねている。振り返ればオバマ大統領は、イランの核開発の危機にかつて一度も積極的に取り組んだことはないのではないかと思えてならない。
 
オバマ大統領は、イランが核兵器を完成させる前に関連施設を攻撃すべきだというイスラエルの考えを、再三、けん制してきた。イスラエルの存亡に関わる核攻撃の危険について、オバマ政権はあまりに危機感を欠いているとネタニヤフ首相が考え、批判するのも当然であろう。
 
ネタニヤフ首相はホワイトハウスの頭越しに野党共和党によって招かれたが、オバマ大統領の意向を気にして訪米と演説を取りやめることをしかった。

上下両院合同会議には50人以上の欠席者が出たが、それでも自説を曲げることはなかった。オバマ大統領はネタニヤフ首相が実行可能な、検証可能な案は示さなかったと批判したが、それでもネタニヤフ首相の警告は重要な意味を持つと私は思う。

【櫻井よしこ】「重視すべきネタニヤフ首相の警告」

『週刊ダイヤモンド』 2015年3月14日号 新世紀の風をおこす オピニ
オン縦横無尽 1075
                      (収録:久保田 康文)

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