2015年04月17日

◆これでよいのか、原子力規制委の暴走

櫻井よしこ


福田康夫元首相が6日、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)に関して「先進国として拒否する理由はない。(拒否すれば)途上国いじめになるかもしれない」と述べ、日本の参加を促した。

途上国いじめとはどういう意味か。日本は長年、ODAで発展途上国を支えてきた。日本のODAの特色は、相手国の意思を基に資金と技術を提供する中で、技術移転を進めてきた点にある。現地で人材を育ててきたからこそ、日本の援助に対する評価は世界各地で驚くほど高い。

対照的に中国の援助は、大概、自ら企画し、資金、技術、労働者も中国自身が出すため、受け入れ先の国や現地の人々には、建物や橋、道路は残っても技術は残らない。加えて、労働者はその大部分が現地に居残り中国人社会を作るため、現地国の不興を買ってきた。

中国の援助は自国の国益のためだとの批判がついて回る所以である。途上国いじめは日本ではなくむしろ中国であろう。

この状況がAIIBによって変わるのか。その点がはっきり見えてこないいま、日本の不参加が途上国いじめになると批判するなど、中国の主張の代弁ではないか。

AIIBに出資する余裕があれば、日本はわが国主導のアジア開発銀行(ADB)の機能を高めるべきだ。ADBとAIIBと、複数の金融機関が特徴を活かしつつ競合することは、借り手側も大いに歓迎するだろう。

むしろいま気にかかるのは、日本経済の行方である。中国の外貨準備高は4兆ドル(480兆円)規模で、この巨額のお金が強力な磁石となってイギリスをはじめ諸国を引き寄せた。対して日本の外貨準備高は1.2兆ドル(144兆円)。貿易は、原発停止以降ずっと赤字だ。昨年はこれまでで最大規模の約12兆8000億円の赤字だった。

貿易赤字の原因

貿易立国の日本が赤字を続けるのでは、ADBの強化もAIIBへの参加も儘ならない。日本経済を強くしなければ、国際金融も外交も国防も覚束なくなる。貿易赤字の一つの大きな原因は原子力発電を全て止めて、化石燃料の輸入を増やし続けているからだ。であれば、安全を確認したうえで原発再稼働を急ぐのがよい。

それにしても再稼働が進まないのはなぜか。最大の要因は、まるで全原発廃炉を目指しているような原子力規制委員会の非科学的な姿勢にあるといってよい。同委員会は3月25日、日本原子力発電の敦賀原発(福井県)2号機の敷地内にある断層を、将来活動する可能性のある活断層だと判断した専門家調査団の評価書を受理した。

このままいけば最悪の場合、敦賀原発2号機は廃炉になる。ちなみに日本原電は経済効率の面から、同原発1号機の廃炉を3月に決定している。

一方、規制委員会は、東北電力東通原発(青森県)についても「活断層がある」と指摘した評価書を受理した。

しかし、専門家調査団の調査の手法と彼らが下した評価については、別の専門家が「科学的見地から問題がある」と指摘したように、多くの疑問と批判が寄せられている。たとえば、活断層か否かを判断する会合で、日本原電側が活断層ではないとして提出した資料は拒否され続け、まともに取り上げられたことはない。

日本原電側には主張する機会は殆ど与えられず、仮に与えられたとしても途中で打ち切られた。専門家調査団の評価書には少なくとも63点の誤りがあるとして日本原電が提出した質問状に、規制委側は全く答えていない。その上で独断で結論を出した。

聞く耳を持たないまま、規制委員会は、活断層ではないものまで活断層であるかのように扱い、原発を廃炉に追い込みつつある。なぜ、彼らは科学的知見を退けるのか。安倍政権はなぜ規制委員会の暴走をとめないのか。

北海道大学教授の奈良林直氏が、余程注意しなければ通常は気づかない興味深い事実を指摘した。活断層だといえば原発は即、廃炉になるというような無茶な議論が広まっている中で、規制委員会は、およそ害のない断層と活断層を一緒にして全体の議論を間違った方向に誘導するルール変更を行っていたというのだ。

「2013年7月8日に施行された規制委の新しい規則がそれです。第3条3項には『耐震重要施設は、変位が生ずるおそれがない地盤に設けなければならない』として、別記の3項で、『「変位」とは、将来活動する可能性のある断層等が活動することにより、地盤に与えるずれをいう』となっています。活断層の『活』が消えているのです。

耐震重要施設は『将来活動する可能性のある断層等の露頭が無いことを確認した地盤に設置』せよとも書いています。これで、本当の活断層だけでなくさまざまな断層を危険だと見做して、原発を廃炉に追い込むことが容易になったと思います」

菅元首相の負の遺産

活断層とは震源断層から発していて、少なくとも地中3キロ〜5キロの深さから地表までしっかりつながっている断層であるとして、奈良林氏が説明した。

「活断層が動くことでさまざまな地滑りや地割れが生じ、副断層や破砕帯が生まれます。この種のヒビ割れまで含めて、規制委員会は断層はすべて危ないという非科学的な見方を社会一般に醸成したといえます。

原発の安全性を担保するのに本当に大事なことは、活断層が動いたときに敷地内に副断層や破砕帯があったと仮定して、それが原子力発電所にどのような影響を与えるかを工学的に評価し、十分な対策を講じることなのです。本当の活断層と他の断層を区別せずに論じても、安全性を高めることには全くなりません」

「活」の一文字をいつの間にか削りとるという狡猾なルール変更は、なぜなされたのか。奈良林氏は、菅直人元首相の負の遺産ゆえではないかと推測する。

菅氏は13年4月30日付の「北海道新聞」紙上で、「10基も20基も再稼働するなんてあり得ない。そう簡単に戻らない仕組みを民主党は残した」、その象徴が原子力規制委員会の設置だと述べている。また、「日本原電敦賀原発(福井県)をはじめ活断層の存在を指摘している」とも語っている。

いま起きていることは、まさに菅氏の予言どおりのことだ。規制委員会の運営は、どう見ても公正だとも科学的だともいえない。反原発への偏り、活断層の恣意的な判断だけを見ても、彼らは菅氏の反原発の怨念を引き継いでいるのではないかと感じる。

規制委員会は独立性の高い3条委員会ではある。政治の介入は難しいが、それでも日本国の最高責任者として、安倍首相はその健全化を働きかけるべきだ。
『週刊新潮』 2015年4月16日号
日本ルネッサンス 第651号


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