2015年04月26日

◆成らなかった一発逆転の期待!

浅野 勝人 (元内閣官房副長官・安保研理事長)



バンドン会議に出席するためジャカルタを訪れた安倍首相、習近平国家主席の日中首脳が、5か月ぶりに2回目の会談(2015年4月22日、25分間)を行いました。

握手をしても相手の目を見ない冷え冷えとした1回目の会談(2014年11月10日、20分間)に比べれば、笑顔の出会いになった今回は雰囲気が和(なご)んでいる印象を受けました。

そして、双方が関係改善を推進する必要性を認め合って、アジアのリーダーとしての認識を示したことは内外の人々を安堵させました。

私が注目したのは、習近平が「一帯一路構想(陸と海のシルクロード経済圏)およびアジアインフラ投資銀行(AIIB)設立の提案は、すでに国際社会から歓迎されている」と述べたのに対して、安倍が「アジア地域にインフラ投資に対するニーズがあることは承知している。その認識に基づいてAIIBに関して詳しく検討していきたい」(人民网)と応じたに止め、呼び水を拒んだ点です。

「日本も参加する」とその場で明言したら、局面は一変して、日中関係は否応なしに安倍首相の主導権によって打開されました。同時に、日頃からアメリカの鼻息ばかり窺(うかが)っていると思われている日本が、自らの決断を示して世界をアッと言わせるパフォーマンスになりました。

もちろん、極秘裏にアメリカの事前了解を取り付けておく努力は不可欠です。日中首脳会談でAIIB加盟を明言する選択技は、むしろ、孤立化を懸念しているアメリカにとって「日本の加盟」が方針変更の拠りどころとなって、オバマ政権の助けになるという指摘さえあります。

それをやれるのは政治しかありません。それをやってのけるのが政治家です。

これより先、中国海南島で行われた「ボアオ・アジアフォーラム」(2015年3月26日〜29日)に出席したアメリカのライシャワー東アジア研究所長は、『習近平国家主席の基調講演に続いてフォーラム理事長の福田康夫元首相が講演し、国際社会における中国の役割が一段と重要になってきたことが表明された。

このフォーラムで最も印象に残ったのは、中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)の役割と機能についての激しい議論だった。日米が中心のアジア開発銀行(ADB)によると、ますます一体化が進むユーラシア大陸の経済成長が続く中、この地域の国々に必要なインフラ投資は約8兆ドル(962兆円)と推定されている。

世界銀行やADBなど既存の国際金融機関だけでは巨大な需要を満たすことはできない』と述べています。(毎日新聞のコラム「時代の風」、2015年4月12日)

私には日本政府がAIIBに参加しない理由が理解できません。発足する前から、中国はどうせ自分たちに都合のいい、いい加減な運用をするに違いないと決めつけるのは、隣国に対して礼を失しているように感じます。

AIIBは、当座の資本金は500億ドル(6兆円)、本部を北京に置き、中国が最大のスポンサーになって年内に発足の予定。日米加を除く世界の主要57ヶ国の参加が決まっています。

そして、投資の目標は、2013年9月、習近平国家主席が中央アジア歴訪の途、カザフスタンのナザルバエフ大学での講演で提言した「一帯(ィ―ダイ)一路(イールー):陸と海のシルクロード経済圏構想」の事実上の財源措置です。

「一帯」は中国内陸から新疆ウイグル自治区を通って、中央アジア、中東、トルコを経てヨーロッパ各国に至るシルクロード経済ベルトの活性化構想です。

また「一路」は南シナ海からマラッカ海峡、インド洋を抜けて中東、ヨーロッパおよびアフリカに通ずる海上交易ルートを指します。

一帯一路は、この春開かれた全国人民代表大会(全人代)の重要な議題となりました。王毅外相の記者会見では、質問がこの課題に集中して「政治的な地域ブロックを構築する隠れ蓑ではないか」と問われました。
王毅外相は「冷戦思考で考えるべきではない。中国のソロではなく、みんなが加わるシンフォニーだ」と答えています。

事情に精通している北京の知人(中国人)に、透明性の高い公正な運用が期待できないという懸念から日本が参加しないことをどう思うか聞いてみました。

「AIIBの初代総裁になるとみられている金(チン)立(リー)群(チユン)は、中国財務省で官僚トップの次官を経験した国際金融のエキスパートです。

しかも日本人が歴代総裁のADBの副総裁をつとめたことがあって、日本との信頼関係を構築するにはうってつけの人材です。国際基準を熟知しており、世界が納得する立派な銀行にしたいと決意を表明しています。

日米両国政府の懸念が的中するようなことになったら、中国は世界に恥をさらすことになります。レベルの高いスタッフがそろっている日本がAIIBの仲間になってくれるのを今でも期待しています。

もう一つ大事なことは、AIIBが良い効果を上げるには、世界銀行やADBなどとの綿密な連携が不可欠です。目的はアジアの人々のためです。それには日米との協調が何より重要です。ですから日本がなぜ参加を見送るのか理解に苦しみます。」

さらに「これは私見」と断ったうえで、「一帯沿線はイスラムの国々が連なり、独裁政権下で富の偏重に伴う貧富の差が激しい地域です。

貧困にあえぐ若年層が自国の政治に失望してテロ集団に走ってしまいます。例えば、IS「イスラム国」の戦闘員の主な供給地帯になっています。中国の辺境地帯を含めて一帯周辺国々の民生向上に寄与することはたいへん意義深い事業です。

一帯一路を成功させるには長い時間を要しますが、テロ撲滅につながる息の長い政策です。」

概ね、わたしの見解と一致していました。

ところが、一方、日本政府の指摘通り、中国が運用一切を仕切って、中国の総合戦略に沿ったプロジェクトに優先融資する対外経済戦略の実行機関となるのではないかという懸念が指摘されています。

信憑性の高いある月刊誌は「習近平政権の進めている反腐敗闘争をみれば中国の官民あげた汚職体質、腐敗の現状は深刻だ。こんな国の政府、官僚が牛耳る金融機関が社会的責任を果たし、公明正大、清廉潔白な仕事をすると期待するのは、お人好しにすぎるだろう。

日本がAIIBへの参加を見送るのは当然の判断だ。日本は焦ることなく、ADBの強化と世銀や国連との連携でアジアのインフラ構築に協力していけばよい。義はどちらの側にあるか、そう遠くない将来に判明する」と記述しています。

いったい、AIIBはアジアの救世主となるのか、中国によるアジア覇権の道具なのか。どちらが正しいか、いまの時点で的確に判断するのは困難です。

ただ、中国が遠くない将来に回答を示さざるを得ないのであれば、AIIBに加盟して内側から組織運営の透明性、融資審査や意思決定をめぐる不適切な行為や誤った判断を改める改革の先兵になるのが日本の中国に対する友情ではないでしょうか。

中国がグローバルスタンダードに見合った機構を構成して、AIIBが一帯周辺の途上国の経済発展に役立つ、民主的で透明性の高い国際金融機関となるよう手を貸すのが日本の役割でしょう。

安部政権は順風満帆で向かうところ敵なしの政治情況にあります。戦後もっとも安定した政権といって過言ではないでしょう。内政外交の厄介な政策についても次々と結着をつけています。ただ一つ、極めて重要な近隣外交が行き詰まったまま放置されています。

日中貿易は、2007年以来、日米貿易を凌駕してトップを占めています。中国は日本にとってとても大切なパートナーです。

もし仮にAIIBに加盟する場合の日本の出資分担金が、いわれているように3,000億円〜4,000億円だとしても、「現時点で負担に見合うメリッタがない」(政府関係者)という志(こころざし)の乏しい見解が日中関係を律する判断の基準になっては哀(かな)しくなります。

惜しい機会を逸したと残念に思いますが、安倍さん、加油!加油!(2015年4月25日)




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