2015年04月27日

◆トウ小平のタン壷

渡部 亮次郎



記者の同年兵・岩見隆夫さん(毎日新聞) =故人が2012年9月22日の紙面で故園田直の外相時代の事績について触れられた。

<1978年の日中平和友好条約の締結交渉がある。当時の福田赳夫首相は政権発足時から条約締結を決意し、初の組閣(76年12月)で鳩山威一郎(参院員)を外相に起用した。背景に中ソ対立がある。福田は、

<ソ連が「親ソ的な人物」として評価していた鳩山一郎氏の長男を起用することで、日中条約締結はソ連との敵対関係を生み出すことを意図するものではない、というサインをソ連に送ったわけだ>(著書「回顧90年」)と書き残した。

さらに1年後の内閣改造で、外相を鳩山からベテランの園田直に代え、締結交渉を全権委任した。園田は78年4月訪中の段取りをする。

その矢先、中国漁船が大挙して尖閣諸島に押しかけ、日中間に暗雲が垂れこめた。園田は、

<無視こそ最大の主張>という態度を貫き、終始沈黙を守る。

8月訪中、園田は北京の人民大会堂で中国の実力者、トウ小平副首相と向かい合うと、攻勢に転じた。ガーッとのどを鳴らしながら、トウの足元のたんつぼにペッとたんを吐き、

「ところで、あんた、年いくつ。あ、それなら、私より10年下だな」

などと言う。この時、園田64歳、トウ73歳、園田一流のハッタリだ。漁船事件を難詰、トウから、

「ああいうことは絶対やらない。いままで通り20年でも30年でも放っておけばいい」 と日本の実効支配を認める発言を引き出した。条約は締結、園田外交の成功だった。>ちょっと間違いがある。

このとき私はNHK記者から転じた秘書官として同行していた。昭和53(1978)年8月10日午後4時30分(現地時間)人民大会堂でのことである。

待っていると、廊下でテレビカメラ用のライトが眩しくつき、とても小柄な老人が歩いてきた。私の肩先ぐらいしかない。まさに小平だ。眼光も鋭くない。3度の失脚と復活という艱難を潜り抜けて北にしては恬淡とした雰囲気をただよわせているではないか。

両者は会議室で並ぶようにして着席。

いきなりトウが発言。「あんた、幾つだね」。日本でなら考えられないほどの失礼さ。「64です」「あ、私より10歳下だね」園田を飲み込もうとしている。

じつは主題の日中平和友好条約交渉は峠をこしていた。わがほうの主張を中国側が全面的にうけいれ、もう調印を待つばかりだった。

トウ副主席との会談では特定の議題は無かった。東京から訓電してきた尖閣諸島の帰属問題も、園田は、はじめは持ち出す気はなかった。昔から日本に帰属していることがはっきりしているものを、改めて持ち出す事は却って自信がないと受け取られることを恐れたのだ。

ところが痰壷に盛んに痰をはくわ、トシを聞いてくるわで気が変わった。ちょうど痰が出てきた。だがこっちの足元には壷が置かれていない。そこでカーツとやったあと、トウ小平の足元へ歩いて行ってペツとやったあと、きりだした。

そうしたら即座にトウ副主席が遮るように、この前(4月に大量の漁船が押しかけた)のような事は2度とさせない。この件(帰属)は将来の世代にまかせよう。彼らには良い知恵があるはずだから、と言明。これが真相である。

尖閣列島の帰属問題についてはそもそも国交正常化時の昭和47(1972)年9月、田中角栄首相のほうから持ち出した。ところが周恩来総理はこのことについてはここで話したくないと拒否。これをトウ小平は1978年10月の来日時、日本記者クラブでの会見で1度目の「棚上げ合意」といい園田との会見を2度目の合意と決め付けた。

田中訪中にはNHK記者として同行したが、一連の会談内容については滞在中、一切の発表はなかった。6年経ったあとのトウ小平発言で初めて知った次第だった。

果たして後世の世代は予想される知恵があったか。なかった。単に中国が軍備の近代化に成功。日本を武力的に恫喝するだけの力を得た途端、恫喝し始めただけである。トウはこれを見越していたのだろうか。

アメリカCIAも元々と日本の主張の確かさを支持していた。しかしオバマ民主党政権の腰は引けている。日本もまた、野田首相は理屈をこねるのは上手いが戦争覚悟なんてできていないから、早い話、絶望的だった。

ふと、考える。日中平和条約を締結するとき、すでにトウ小平は毛沢東の死後だからかねての主張どおり、日本の資本と技術を頼りにした経済の資本主義化を構想していた。だからこそ条約の締結を急いだのだ。

だからあの時、尖閣の帰属に今後発言しないと約束しないならば日中平和友好条約の締結は延期する、と日本側が強硬に出たらどうなっていただろうか。歴史に「イフ」はないか。
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック