2015年05月01日

◆透けて見える「大漢帝国」の「復興」

石  平



中国では最近、18歳になった若い男女のために「成人の礼」を毎年4月に行うことがはやり始めている。話題となっているのは「漢服」を着用しての「古式成人の礼」だ。

たとえば今月14日、南京市内の大学で、成人となった男子大学生たちが「漢服」を身につけて昔ながらの「成人戴冠(たいかん)式」を粛々と執り行った。15日には、江蘇省の中等専門学校が在校生の新成人のために「漢服」着用の成人の礼を催した。

同18日、今度は内陸部の古都・西安市内の博物館で、朱色の「漢服」に身を包んだ新成人女子30人が古式にのっとった「成人の礼」を盛大に執り行ったことが地元の新聞に大きく報じられている。

それらの「古式成人の礼」では「漢服」の着用が共通点となっている。それは中国前漢時代の正服をアレンジしてデザインされたもので、前漢王朝の人々がこのような服を着用していたらしい、と今の人々は思っている。

成人の礼だけでなく、漢服の着用はさまざまな場面で一種のブームとなっている。たとえば4月10日、南京の大学付属中学校の女子生徒たちがいっせいに「漢服」を着て集団登校したことが話題となっているし、同14日、河南省の公園で大学生たちが「漢服」を身につけて桜の木を植える儀式を行ったことも報じられている。

福建省の女子大生、朱頴さんに至っては、1人で10着以上の漢服を持ち、毎日それを着て授業に出ているという。

今や漢服だけでなく、「漢文化」、すなわち漢王朝時代の文化に対する関心が全国で高まってきている。洛陽で開かれている「漢服文化節(文化祭)」は今年で2回目を迎えたし、天津外大が設立した「漢文化伝播学院」は現在、31人の教員を擁する大所帯となっている。

広西省では、展覧スペースが約2万平方メートルに上る「漢文化陳列展示館」が建設中である。

もともと漢民族が中心の中国人だが、ここにきて突如、自分たちのルーツに関心の目を向け、「漢文化ブーム」を巻き起こしているのは、やはり、2年前に発足した習近平政権が「民族の偉大なる復興」の政策理念を高らかに掲げていることと大いに関係があろう。

西洋の「文芸復興(ルネサンス)」が古代ギリシャやローマ帝国時代を模範にした「復興」であるなら、中国の「民族の偉大なる復興」は漢王朝の時代を念頭においたものである。

この時代は漢字などによって代表される中国文明が成熟した時代であるだけではない。前漢時代の中華帝国は、現在のベトナムや朝鮮半島の大半を併合して中国史上最大の版図を作り上げたことがある。アジアを制覇したこの大帝国こそ、今の習近平政権が目指す「民族の復興」の手本なのであろう。

だからこそ、習政権の政策ブレーンで「中国きっての外交戦略者」と称される人民大学の時殷弘教授は習政権になってからの著書や発言において、周辺諸国を武力で征服して最大の版図を作り上げた前漢王朝の武帝を絶賛し、「武帝という“戦争の覇王”の出現は中華民族にとって幸いだ」と評している。

要するに、この「戦争の覇王」のまねをして中華帝国の再建を図り、民族にとっての「幸福の時代」を再現させること。それこそが習政権の掲げる「民族の偉大なる復興」の真意なのだ。

この数年ではやり始めた漢服や漢文化ブームの背後にあるのは、結局政権側のこのような大いなる野望である。

だが、われわれにとって、中国がやろうとしていることが単なる漢服や漢文化への郷愁ならともかく、アジアにおける「大漢帝国」の「復興」であるとすれば、まっぴら御免である。

                ◇                
   
【プロフィル】石平
せき・へい 1962年中国四川省生まれ。北京大学哲学部卒。88年来日し、神戸大学大学院文化学研究科博士課程修了。民間研究機関を経て、評論活動に入る。『謀略家たちの中国』など著書多数。平成19年、日本国籍を取得。

産経ニュース【石平のChina Watch】4・30
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