比護 義則
産学官協力に悪影響
軍事研究をめぐる東京大の“動き”がどうも怪しい。政府は平成25年12月、大学の軍事研究の有効活用を目指す国家安全保障戦略を閣議決定し、東大大学院情報理工学系研究科は昨年12月、軍事研究の解禁を決めた。にもかかわらず、その後、進展がみられないのだ。
大学の上層部は学 内の軍事研究反対派の顔色も伺う必要性があり、推進派との板挟みになっ たとみられるが、日本を代表する大学のガバナンスが問われても仕方がな い事態といえそうだ。
前総長は矛盾した見解
4月17日、五神(ごのかみ)真・東大新総長の就任記者会見が開かれ たが、軍事研究に関する話題は出なかった。
東大は昭和34年と42年に、評議会が軍事研究の禁止を確認した。た だ、軍事研究の是非など大学の運営方針の最終決定権は評議会ではなく総 長にある。だが東大は、評議会の確認をよりどころに、軍事研究の禁止を自動的に継承してきた。
昨年12月、東大は大学院の情報理工学系研究科のガイドラインを改 訂。「一切の例外なく軍事研究を禁止する」としていたのを、「軍事・平 和利用の両義性を深く意識し、研究を進める」と明記し、軍民両用(デュアル・ユース)技術研究を容認した。
ところが、当時の浜田純一総長は今年1月16日、大学のホームページ(HP)上で意味不明な見解を発表した。
「学術における軍事研究の禁止は、東京大学の教育研究のもっとも重要な基本原則の一つである」とし、「個々の場面での適切なデュアル・ユースのあり方を丁寧に議論し対応していくことが必要である」とも記した。
学問としての軍事研究は今も禁止だとした上で、軍事研究を内包したデュアル・ユースを肯定するという内容だ。
浜田氏の見解については、東大東洋文化研究所の安冨歩教授も「軍事研究否定のポーズを示しつつ、実際は研究を可能にする矛盾した文章だ。原則を骨抜きにしてしまう。このような欺瞞(ぎまん)言語を使うと悪影響が大きい」と指摘する。学内での動揺は広がっている。
新学期で混乱も
世界の主要国が産学官軍が協力し安全保障の研究開発にしのぎを削る中、日本では国外への「頭脳流出」が深刻な課題だ。
人型ロボットの開発を進めてきた東大の研究者ら有志が平成24年、東大は肌が合わないとして離れ、ベンチャー企業「SCHAFT(シャフト)」を立ち上げた。
シャフトは25年11月、ロボット事業に意欲を示す米グーグルに買収され、翌12月には米国防総省国防高等研究計画局(DARPA)主催の災害救助ロボットコンテストの予選で、米航空宇宙局(NASA)など強豪15チームを抑えトップの成績を収めた。
文部科学省幹部は25年11月の衆院文部科学委員会で「軍事研究を禁止する全学の内規は東大に存在していない」と明言した。軍事研究解禁を肯定する内規を制定すればよいのだろうが、東大側は「考えていない」(広報課)と後ろ向きだ。
このまま東大の軍事研究解禁はかけ声倒れとなって終わるのか。東大の教授や学生が軍事研究の扱いに困る場面が出るのは確実だ。同時に、政府が目指す産学官協力推進にも大きな影響を及ぼす。(政治部)産経ニュース【安倍政権考】2015.5.2