豊田 真由美
野心見えぬ「安倍追随」に側近たちの不満
今年2月、自民党の谷垣禎一幹事長は麻生太郎副総理兼財務相に会食に誘われた。
「あなたはもう首相をやった。党内の若手で誰を育てようと考えているのか」。そう尋ねようと考えていた谷垣氏を前に、麻生氏は腰を落ち着けるなりこう切り出した。
「おい、谷垣。お前は誰を育てようと思っているんだ」
麻生氏が自分と同じことを考えていたと知った谷垣氏は驚きを隠せなかった。
3月に70歳になった谷垣氏。最大の関心事は「後進の育成」だ。幹事長就任から約1カ月後の昨年10月には、平成24年の衆院選で大量当選した当選2回(当時1回)の新人議員を対象に昼食懇談会を開催。野党時代の総裁を務め、初当選前の彼らを育成した経緯から「私にとっては虎の子の119人」と、思い入れたっぷりに挨拶したこともある。
ただ、安倍晋三首相(党総裁)が「ポスト安倍」の育成に着手しているのに対し、谷垣氏は将来の首相候補となりそうな中堅の育成には消極的にみえる。
首相は、衆院当選4回で自身と思想信条の近い稲田朋美政調会長らを育てようとしているが、谷垣氏は目先の国政選挙をにらんでか、支持基盤が弱い若手を中心に世話を焼いている。
谷垣氏は、リベラル派が集まる宏池会(現・岸田派)の出身で、かつては「宏池会のプリンス」とも呼ばれた。谷垣氏の息がかかった「ポスト安倍」が台頭すれば、長期政権をにらむ首相にとって政敵になりかねない。
首相と対決する構図となることを注意深く避けてきた谷垣氏にとって、それは本意ではないのだろう。
自らが「ポスト安倍」となる野心も見えない。9月の総裁選をめぐっては「私は幹事長だから、総裁をしっかりお支えして、おのずからそういう道(安倍氏の再選)になるようにするのが私の仕事だ」と述べ、早々と首相の再選を支持した。
地盤を引き継いだ元文相の父、専一氏が71歳で死去したことを引き合いに引退さえにおわすこともある。2月2日夜、都内で開かれた自著の出版記念パーティーで、宏池会を創設した池田勇人元首相の政治理念「寛容と忍耐」にふれ、こう宣言した。
「私ももう今年で70歳。政治家として活動できる時期はそう長くない。もう一回、政治の世界に『寛容と忍耐』を再生させられないか。残る時間を、できるかぎりそれにかけてみたい」
「政高党低」にささやかな抵抗をみせることもある。首相肝いりのカジノを中心とした統合型リゾート施設(IR)を整備する推進法案をめぐり、今国会での成立に暗雲が立ちこめ始めた背景には、カジノ導入に否定的な谷垣氏の意思が働いたとされている。
もともと慎重だった公明党だけでなく、自民党内からも「カジノをやればもうかるという錯覚が広がっている」「収益も上がらず社会的な問題だけが残る」などと、後ろ向きな発言が飛び出し始めていた。
それでも、官邸サイドに気を使うあまり「幹事長として踏み込まなければならない諸懸案への発言を控えすぎている」(閣僚経験者)との批判も党内にくすぶっている。
消費税率を10%に引き上げる時期の判断をめぐっては、経済成長を重視する首相の「上げ潮」路線にブレーキをかけられず、最終的には財政再建重視の持論を取り下げ、1年半の延期を許した経緯もある。
「あまり『安倍一強』と書き立てられると、謀反を起こしたい連中が起こせなくなる。いい意味か悪い意味か知らんが、自民党にはそういう体質がある」
こう分析するのは、昨年9月、幹事長就任挨拶のため都内の事務所を訪ねてきた谷垣氏に対し、首相のブレーキ役となるよう助言した海部俊樹元首相だ。海部氏は「谷垣さんはもう少し思ったことを安倍に言ってやってくれたらいいと思う。安倍は言われれば聞く人間だ」と気をもむ。
だが、谷垣氏に近い党幹部の一人は皮肉混じりにこう語る。
「谷垣氏は絶対に出過ぎることはない。首相にとってこれほど居心地のいい体制はないだろう」(政治部)
産経ニュース【政界徒然草】2015.5.3