2015年05月08日

◆従北派が浸透する韓国

西岡 力



ポスト朴槿恵「3年後、日本に最悪のシナリオが現実化するかもしれない」

いま、朝鮮半島情勢は重大な時期を迎えている。日本の運命を左右するかもしれず、その問題意識を提起するため話をしたい。

昨年7月、北朝鮮による日本人拉致被害者らの安否の再調査を行う特別調査委員会の設置が決まり、日朝協議が始まった。だが、北朝鮮は調査報告の回答を遅延させている。

これに先立つ昨年3月に拉致被害者家族会のメンバーで安倍晋三首相と面会したとき、首相はこう言った。

「制裁ばかりしていると話し合いができないという人が多い。しかし日本は世界で一番厳しい制裁を北朝鮮に科している。その結果、話し合いが始まることになる」

家族会も制裁一辺倒の運動方針を変えるべきだと批判を受けたが、首相が言うように制裁圧力と国際連携の圧力によって、北朝鮮は「拉致問題は解決済み」という主張を取りやめなければならなくなった。

なぜ北朝鮮が追い込まれたのか。答えは外貨がないからだ。北朝鮮の貿易統計をみると、国家財政は毎年10億ドルほどの赤字なのに、ベンツは買う、金正恩(キム・ジョンウン)第1書記がスキー場をつくれと言ったらリフトを買う。その支払いは現金だ。

1970年代、北朝鮮は日本から数百億円分のブランドを買ったが未払いだった。欧州にも同様の負債が残っている。そんな国とは信用取引ができないのでベンツを買っても現金払いでしか買えない。

国家財政は赤字なのに現金はある。実はここが北朝鮮の一番の弱点だ。社会主義国は計画経済で、政府がすべての経済を管理している。だが、金正日(キム・ジョンイル)総書記は70年代以降、国家予算とは別に海外に数十億ドルといわれる 秘密資金を持つようにした。主な財源が在日本朝鮮人総連合会(朝鮮総連)からの送金だ。

この弱点を安倍政権がついている。北朝鮮への制裁強化に加えて朝鮮総連に対して厳格な法執行を行い、裏金を送金できないようにした。米国も核開発をや めさせるために北朝鮮との取引があったマカオの銀行などに圧力をかけた。これで北 朝鮮は外貨不足に陥り、日本や米国に対話を求める動きを見せた。北朝鮮は外貨不足 になると対外的に動き出すのだ。

2013年12月に北朝鮮NO2といわれた張成沢(チャン・ソンテク)氏が処 刑されたのも外貨不足が最大の要因だ。張氏が外貨獲得事業を朝鮮労働党に移したこ とから、利権を奪われた軍や国家保衛部という秘密警察が反発した。

張氏処刑は中国との関係悪化を招いた。張氏は中国に対して「改革開放でいきたい」と秘密の手紙を出していた。それを中国共産党の幹部が金第1書記に 通報し、張氏は裏切り者として処刑された。中国の習近平国家主席は言うことを聞く 張氏の処刑に怒った。韓国の朴槿恵(パク・クネ)大統領とは面会したのに、金第1 書記とは会わず、北京に来ることすら許していない。

北朝鮮による拉致被害者については、さまざまなルートから確実な生存情報を得ている。北朝鮮がかつて「死亡」とした被害者らについても誰1人として客 観的な証拠がない。つまり拉致被害者らは生きている。日本政府にはもっと具体的な 情報があるという感触を私は持っている。

そんな中、北朝鮮による拉致被害者らの安否を再調査する特別調査委員会の設置が決まった。安倍政権も拉致被害者を帰国させるチャンスとみた。狙いは 金正日総書記が「死亡」とした決済を覆すことだ。代も息子の金第1書記に変わっ た。

首相は拉致被害者の生存情報を持っているからこそ「被害者家族が子供を抱きしめ るまで私の使命は終わらない」と強調。さらに、金第1書記に対し「北朝鮮が誠実な 対応をしない限り、政権の存立ができなくなるような圧力をかけなければならない」 と国会で答弁し、圧力をかけた。

だが、北朝鮮は日本に接近することを決めただけで、拉致被害者らを帰国させることを決めたわけではない。北朝鮮のような独裁国家では独裁者の決済が絶対だ。

トップである金第1書記が拉致被害者を帰国させる決断をしたという保証を得 ないまま、先代の決済を覆させることは困難を極めると思う。

日本政府は拉致被害者らの生存と、帰国させるという保証を取ってから再調査に臨むべきだった。マスコミは秘密警察で構成する特別調査委だからと沸き 立ったが、再調査しても北朝鮮が「すでに死亡していた」と報告したら信じるべきだと いう話になりかねない。

一方で、私は北朝鮮が生きている人を殺して死亡報告書を作ることを検討しているという情報や、北朝鮮が日本のDNA鑑定技術について調べ、欧州の病院で 実験までしたという内部情報も得ている。

「われわれにはしっかりとした生存情報が ある」と言い続け、北朝鮮が偽の死亡報告書を出してきたら、その瞬間に「拉致被害 者を殺した」と叫ぶなど、北朝鮮の嘘を指摘する“情報戦”を展開するべきだ。

昨年9月の日朝協議で、当初は北朝鮮が何らかの調査結果を出してくる とみられたが、結果として通報はなかった。当時、北朝鮮は国連を恐れていた。金第 1書記が国民に対する人権侵害で国際刑事裁判所に訴追される恐れが出てきたため、 北朝鮮はすべての外交力を国連にシフトしたのだ。

追い込まれた北朝鮮にとって2つのカードがある。1つは核開発。パキスタンのカーン博士から指導を受けて開発した。すでに核爆弾はあるが、ミサイルに搭 載できるほどの小型化は完成直前まできているとみられている。米国の介入を防ぐために米国本土まで届く核ミサイルを持とうとしている。米国と戦争する気はないが、 核開発で米国を抑止できると考えている。

もう一つは韓国の各界各層で増え続けている“従北派”と呼ばれる勢力の存在だ。親北派ではない。北朝鮮に自分から従う“従北派”だ。北朝鮮の影響を強く 受けた韓国の国会議員の1人が地下組織に対し、韓国内での武装蜂起を計画した。

そのやりとりのテープが証拠となり昨年12月、憲法裁判所は体制を危うくする活動を しているという理由で、この国会議員が所属する政党の解散を命じた。従北勢力が国 会内にまで浸透していた事例だ。

さらに2012年の韓国大統領選挙で当選した朴大統領の対抗馬は、北朝鮮に融和政策を取った盧武鉉(ノ・ムヒョン)元大統領の秘書室長だった人物。得票率 は48%で、単純計算で国民の半数近くが従北派に近いとみていい結果だ。

その候補者 が大統領になっていたら、いまごろは韓米同盟の破棄が議論されていただろう。これ も従北派の浸透をうかがわせる事実だと思う。

韓国が北朝鮮による民族主義イデオロギーに染まりだしたのは1980年代だ。その理論は資本家と労働者との間の闘争ではなく、韓国が米国帝国主義に支配さ れているという“植民地”からの解放闘争という位置づけで、その後に社会主義革命を 達成するというものだ。目的達成のために北朝鮮は高学歴の人たちをターゲットに 浸透を図った。

その思想に共鳴して従北派となった人たちは公務員を目指したり、司法やマスコミの世界に入り、民族主義イデオロギーを広げていった。

その典型が韓国版自虐史観だ。韓国の李承晩(イ・スンマン)初代大統領以降、親日派を処分しなかった状態が今も続いていることを民族的に“自虐”する考 え方だ。

金日成(キム・イルソン)主席は朝鮮戦争で、米国を排除したうえで親日派で汚れた韓国の政権を倒して統一を試みた一方、北朝鮮国内には今も中国とソ連の 軍隊を駐留させずに民族主義を貫いているという主張だ。

そこに慰安婦問題がぴったりとはまった。慰安婦を連行したとする日本軍に望んで入った朴正煕(パク・チョンヒ)元大統領は「売国奴」で、慰安婦問題を 解決しないまま日韓基本条約を締結した民族の敵というだ。それを反日運動とし て利用している。

従北派の人たちは、反日から入って米国、そして韓国を否定する。米国大使を襲う事件が起こるぐらい韓国がおかしくなっている。

韓国は3年後に大統領選挙があり、北朝鮮はもう一度韓国に左翼政権を 作りたいと思っている。朴槿恵大統領の保守政権では南北対話はできず、次の大統領 選まで延命しようと考えているはずだ。逆に日本からすれば3年後には最悪のシナリオが現実化するかもしれない。

日本の歴史は、朝鮮半島が反日勢力で統一されることを避けるという政策をとってきた。白村江の戦いから元寇、日清、日露戦争も同様だ。1965年の日韓基 本条約も日本は韓国を共産主義の国にしないという狙いあった。

いま、日韓関係は最悪な状況にあるといわれるが、問題は歴史認識だけだ。経済や安全保障では関係は維持されている。日本は日米同盟と韓国という存在が あったから共産主義と直面することはなかった。それが、朝鮮半島全体が共産化し、 核兵器を持った反日国家ができることになるかもしれない。

いま韓国と北朝鮮のそれぞれで深刻な体制危機が進行していることをしっかりと認識したうえで、日本は危機感を持って対応を考えないといけない。(3月 30日掲載)

           ◇

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             (にしおか つとむ・東京基督教大学教授)

            産経ニュース【メガプレミアム】2015.5.6

                    (採録:久保田 康文)

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