大江 洋三
仏の経済学者・ピケティーによる「21世紀の資本」騒動はやっと静まったようである。反アベノミクス連中が格差問題で話題にしたのだろうが、驚いたことに7千円もする本が12万部も売れたという。700Pに及ぶというから、冗長な本であることに間違いない。
やむなく複数の解説書を購入し、おかげで教えられたことも多い。
ピケティーの核心は、以下の通りで資本主義のエンジンみたいなものだ。資本収益率(r)>国民所得成長率(g)。この場合の資本と資産は殆ど同じもので、資本収益率は資産利回りと同じ意味になるから、悪口風にすると不労所得から成る。一方、右辺の主体は国民所得(労働所得)から成る。
だからだろうが、左翼筋は資本主義そのものが「格差を内包」することが証明されたと喜んでいた。お陰で、国会でも野党がピケティー頼りによくアベノミク批判をやっていた。
もちろん、厳密には資本と資産は異なるが、永い時系列でみると同じ物に見えたのだろう。ピケティーが、長期にわたり民間資本(資産)の蓄積と国民所得成長率を眺めたことは称賛に値する。
お月様を、飽きもせず200年も観測するがごとしである。
だからだろうが、ピケティーは上記不等式を学説ではなく「歴史的事実」と明言している。
●マックスウエバーが明らかにしたごとく、資本主義と「資本の蓄積」は同じもので、倹約による資本蓄積が次の蓄積や投資を招く。二宮尊徳の説そのままである。
従って、資本・資産はどこに蓄積されたかは重要である。
この3月末に財務省より「国の連結貸借対照表」が公表された(H26年3月末現在)。
大枠的に表わすと下記の通りである。
資産863兆円、負債1314兆円、資産・負債差額△451兆円。
連結対象は日本政府が影響力を行使できる分野で、一般会計、各省庁の特別会計、独立行政法人等会計(郵便貯金を含む)から成り立ち、日本銀行は含まれない。
各会計の貸し借りは相殺されているので、日本国政府の素(もと)を成す資産・負債の一覧表みたいなものだ。
左方に有形固定資産が266兆円もある。実際、国有地は国土の約2割を占める。JR路線や国道の土地は公共用財産に分類されて191兆円に上る。
土地などの公共用財は主として取得原価方式だから、含み益や含み損を抱えるはずで、認会計士が査定すると額はさらに大きくなる可能性がある。
因みに、日本国政府負債の大口は、公債661兆円、財務省短期証券(為替介入残高)99兆円、郵便貯金175兆円、責任準備金(震災等への備え)105兆円、公的年金預り金116兆円となる。
●△資産・負債差額の巨大さに目が万マルになる人も多いだろうが、公会計には資本金の概念がない。あえていえば「国家・国民」が資本金である。文化力、教育力、通貨力や軍事力などの総合力が資本金になる。この中に日銀が入る。
同じく財務省発によれば、対外純資産は307兆円と世界ダントツの1位である。この事実も、国の資本金概念に入ってくる。因みに2位は中共の207兆円。
ときおり△資産・負債差額を債務超過と喚く人が出るが、明らかに間違いである。敢えて債務を使いたければ純債務が正しい
。
確かに粗債務のGDP比は240%弱で大火事のようだが、純債務で測ると80%に激減する。OECD統計は固定資産を除外して純債務比率を割り出すから、マスコミが得意の悲観論垂れ流すことになる。
ロイター通信によると、サブ・プライローンにトリプルAの格付けしたアホな米国の格付け会社が、日本公債を一ランク下げたそうだ。
日本国債の信用度が、中・韓よりランクが下とは誰も考えないから、連中の格付け基準は格付依頼者の料金次第で間違いなさそうだ。
ところで、超格差社会の米国政府の連結貸借対照表(H22年.9月現在、1ドル=100円換算)は、東北福祉大・宮本教授によると、資288兆円、負債総額1635兆円、資産・負債差額△1343兆円に上る。
米国政府の資本金は、誰がみても軍事力と通貨ドル力である。加えて英語
力もある。圧倒的な資本力だから△は更に膨らむ余地がある。
純債務に限ると、日本も米国も対・GDP比で特別の差はない。
●ピケティーに言われるまでもなく、国の財政にも適度なインフレ(名目経済成長)が必要である。何故なら、負債や借金の目減り効果と対GDP比が和らぐからである。要するに観た目がよくなる。
もう一つの理由は資産の運用利回りが増すからだ。つまり政府の不労所得が大きくなる。
実際、政府保有の有価証券は前年より37兆円も増加している。もっとも急激な円安で外貨証券が膨らんだ理由が大きく実質は兆円増になる。内、あまり外債に頼らない年金運用資産は単年度で8,7兆円も増えた。
そのおかげだろうが、27年度一般会計予算では公債の発行を前年より4兆円強も減らしている。また年金破綻の声をあまり聞かなくなった。
結局、インフ基調は国会で難しい議論をしなくてもバランスシートの改善を促すことになる。従って、単年度主義の一般会計に一喜一憂のし過ぎは如何なものかと思う。政治闘争にはいい材料なのだろうが。
●話をピケティー関連に戻すと、新たな問題定義は、相続資産格差問題である。
従って、相続資産課税を強化して、資産の新陳代謝を促す考えに行着く。理由は、米・英・豪のアングロサクソン国においては相続税が安いだけでなく、意外に富の新陳代謝が少ないからだ。
日本の相続資産最高課税率は55%で、先進国では最も高い。
しかし、資産課税を強化し再分配するなどと回りクドイことをしないで、日本のように初めから国が資産を大量に蓄積したらどうなるかという問題もある。実際、国土の2割は国有地である。
格差論を論じるにあたり、米国連邦政府の超過少資産との対比も有益ではないかと考える。
●詳しいデータはないが、米国の社会福祉政策は主として教会の慈善事業が担っているのではなかろうか。その元は教会寄付である。すると寄付は一種の納税・貯蓄に相当する。
つまり、教会資産は米国連邦政府のバランスシートにおける、事実上の連結対象ではなかろうか。
米国の失業率は改善されたと言っても、5,5%。それでも目だった暴動が起きないのは教会福祉のお陰であろう。
底辺が支えられていれば、上位1%が総国民所得の20%近くを保有しても、せいぜい「我々は上位1%ではなく99%だ」とウオール街をデモ行進して済むのは、そのためだろう。
そうすると、底辺の底上げの方が上位1%云々んより大事になる。財源は勿論、経済成長である。伸びないパイでは分けようがないからだ。
●一橋大の森口教授が面白いことを述べている。
日本で格差が話題になるのは、景気がよくなり不動産や株で儲ける人が出現するときだそうである。つまり嫉妬心から成る。そうすると目下の日本経済はインフレマインドが広がったことになる。後もう少しだ。