2015年05月28日

◆印中関係に見る本当の外交の姿

櫻井よし子


眼前で進行する世界の外交は、諸国が国益を懸けて激しく戦う実相を見せてくれる。ウクライナからクリミア半島を奪う際、核兵器使用の準備を整えていたとプーチン大統領は語った。
 
同発言は、「武器なき戦い」といわれる外交の背景には、常に軍事力が控えていることを、まるで外交の教科書のように見せてくれた。軍事力が「控えの間」から表に出てくれば、それを私たちは戦争と呼ぶがその手前の外交には、必ずいつも軍事力が付いて回る、外交と軍事は表裏一体ということだ。
 
ロシアほど、あからさまでなくともインドと中国の外交関係も、「両国はまさに戦っている」との実感を抱かせる。
 
インドのモディ首相が5月14日から16日まで中国を訪れる。訪問を前に、インド政府は長年の懸案であるインド北部のジャンム・カシミール州の領有権に関し中国政府に厳しい主張をぶつけている。

インドが領有権を主張し、パキスタンが実効支配を続ける同州に関して、驚くことに中国も領有権を主張しているのだ。のみならず、恒常的に軍を送り込んできた。

中国は、インド北東部の水源の州、アルナチャルプラデシュの領有権も主張している。いずれのケースも、明らかに中国の主張の方が不当に思える。
 
インドを代表する戦略研究家、インド政策研究センター教授のブラーマ・チェラニー氏はこう語る。

「印中首脳会談の前には必ず不吉なことが起きます。中国が対印強硬姿勢を殊更に強めるからです。インドも中国に対して、同じように強く主張しなければ押し切られてしまいます」
 
私は2011年12月のインドにおける印中首脳会談を取材したが、その直前、中国はアルナチャルプラデシュ州に通ずる巨大なトンネルを完成させ、大々的に発表した。トンネルの完成で、中国軍はいつでもアルナチャルプラデシュ州に侵入できるインフラを得た。外交の背景に、強力な軍事力の存在を印象付ける戦術である。
 
今回、インドが強烈に抗議しているのは、前述のインドが自国領だと主張するカシミール地方をパキスタンが実効支配し、そのパキスタンへの援助をシルクロード経済圏構築の一環として、中国が大々的に行うとしている点だ。
 
中国のシルクロード経済圏は中国中央テレビの発表によると、福建省から中央アジアを経てロシア経由で欧州に至るルート、中央アジアまで来た所で南下し、パキスタン経由で地中海に延びるルート、さらに福建省から南に下りてベトナム、パキスタンの要衡を押さえインド洋に出てアフリカ経由で欧州に至るルート、同じく福建省から南シナ海に出て、マラッカ海峡経由でインド洋に出るルート、さらにそのルートは南太平洋までをカバーする形になっているが、これらのルートで網羅される地域・海域を指す。
 
右の地点を地図上に書き込むと、中国が欧州とロシアを含むユーラシア大陸全域、東南アジアおよび南太平洋を含めた西太平洋とインド洋のほぼ全域を、シルクロード経済圏として影響下に置く意図が明らかになる。
 
インドは中国の試みを、直接の脅威と受け止め、危機感を強めているのだ。チェラニー氏の指摘である。

「インドの最大の脅威は中国です。何度も煮え湯を飲まされました。彼らは国境沿いに5万を超える軍を常駐させ、パキスタンに肩入れすることでわれわれに圧力をかけ続けています。シルクロード基金からパキスタンに投資される16億5000万ドル(1980億円)は、インド敵対視の色彩の濃い投資です」
 
インドが中国に強く要求し、中国も国境地帯の軍を引かない中で、両国は一見和やかな外交交渉をする。強い力を基礎にして、国家の意思をあらゆる形で表現する。これが本当の外交の姿であることを学びたい。

『週刊ダイヤモンド』 2015年5月23日号 新世紀の風をおこす オピニオン縦横無尽 1804 
                 (採録:松本市 久保田 康文)

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