2015年06月12日

◆安倍晴明の実母とは?

早川 昭三



山登りや名所旧跡巡りの仲間のサークル「歩こう会」が、予期もしなかった驚きと感動を与えて呉れた。

大阪城を散策中に知り合った仲間同士の会「大阪城歩こう会」に参加して、日曜ごとに10数人が連れ立ち近畿の著名な山々に登ったり、歴史に包まれた名所に出掛けるようになって久しい。

季節の移ろい、新鮮な空気と絶景、出会った人達との交流、その土地の産物の味などに接する楽しみは、実際に汗を掻き、五体の筋肉を酷使して歩き回る者だけしか味合えない産物だと信じている。

最年長のリーダー格の80余歳の仲間は、お年を感じさせない軽妙な足取りと訪ねる先への道筋は勿論、そこに纏わる地縁の知識に長けておられるのには、頭が下がる。

さて、今回の驚きの出来事のキッカケは、たまには気楽に行ける平地の名所に行こうとの女性の提案で、大阪和泉市の「信太の森」に出掛けたことだった。

その「信太の森」は、平安時代の清少納言の「枕草子」の中で「もりは信太の森」と称えられていることで知られているということで、麓を熊野古道がはしる古代から参詣の道の側ということでも広く知られているという。

朝鮮半島から5世紀ごろ伝えられた須恵器釜跡があり、わが国最古の釜跡も見付かっているという。なかなか深みのある歴史の里である。

現地に実際足を踏み入れると、流石に周囲は信太山丘陵に囲まれ、裾野まで広がる多種多彩な樹木景観は、素晴らしさの一言だった。

早速、現地博物館「信太の森ふるさと館」を訪ねた。ここの歴史や成り立ちを知る上では、それが最適だからだ。

建物1階の右手にある80坪ほどの「信太の森ふるさと館」に入り、次々と見回っている内、浮世絵風の数枚の異様な「版画絵」が目に入って仰天した。

子供を膝の前に座らせた母親らしき女性が、手に持つ筈の筆を口に咥えて、和歌の文字を障子に向かって書いている姿の絵だ。

文字は「恋しくばたずねきて」と書いてある。ところが女性のギョロッとした目線は、横向きに何かを見据えている。表情も厳しく尋常ではない。この絵は、一体何を語ろうとしているものなのか。隣には、大木の下に2匹の白狐が闇の上にある白き物体を見上げている、思わしげな別の「絵」が並べられている。

背中に言い知れぬ寒気を感じたので、館員から説明を受けることにした。館員は、懇切丁寧にこの「絵」について語ってくれた。この「絵」は、古浄瑠璃などでも伝えられる「葛の葉物語」の一場面だそうだ。

<その昔、大阪の摂津の国に安倍保名(あべのやすな)という若者が、信太大明神を参詣に来た時、狩人に追われた深手の傷を負った白狐を匿い逃がした。これに腹を立てた狩人が保名を責め、大怪我をさせ立ち去った。

すると傷で苦しむ保名の所に「葛の葉」と名乗る女性が現れ介抱した。この女性は助けた白狐の化身だったのだが、保名はそれとは知らず、二人はやがて一緒に暮らす仲となり、男子を儲けた。子の名は「童子丸」。

6年後のある日、葛の葉は庭に咲いた菊の花に見とれてわが身を忘れ、うっかり現わした尻尾を「童子丸」に見付けられてしまった。葛の葉は、もはやこれまでと一首を障子に書き残して森へ消え去った>。(版画絵がこの模様を伝える)。

その一首とは、「恋しくばたずねきてみよ和泉なら 信太の森のうらみ葛の葉」だったのだ。

<保名と童子丸は恋しい母を求めて探し回り、やっと森の奥で涙を流しながら二人を見つめている一匹の白狐と出合う。

ハッと気づいた保名が「母の元の姿になっておくれ」と哀願すると、白狐は傍らの池に己の姿を映し出し、たちまち葛の葉の姿となった。

しかし、葛の葉は泣き叫ぶわが子を諭しながら、形見に白い玉を与えて最後の別れを惜しみつつ、再び白狐になって森の奥に消えていった>。

これが「葛の葉物語です」と職員は説明を締めくくった。悲しい言伝えに心を痛めて聞き入っていた筆者に、この館員は追い討ちを掛けるようなショッキングなことを告げた。

「この童子丸が、実はかの有名な“陰陽道の祖の安倍晴明”(あべのせいめい)だといわれているのですよ」。

私の出生地は大阪阿倍野区で、安倍晴明を祀る「安倍神社」は目と鼻の先のところにある。子供の頃から親に連れられ足繁くお参りした神社だ。「安倍晴明の出所」などに思いを馳せた事も無かったが、まさかこの「版画絵」に描かれた「葛の葉物語」の童子だったのかと考えると、頭が真っ白になった。

今は、「安倍神社」とは離れたところに住んでいるため縁が薄れたが、この伝説を知った以上、お参りに行ってみたくなった。

それにしても仲間と共に方々を「歩く」ことは、時空を超えた様々な楽しみと感動の舞台に接遇させてくれるものだとつくづく思い知らされ、改めて有り難さを痛感する。(了)
この記事へのコメント
コメントを書く
お名前: [必須入力]

メールアドレス: [必須入力]

ホームページアドレス:

コメント: [必須入力]

※ブログオーナーが承認したコメントのみ表示されます。

この記事へのトラックバック