2015年06月12日

◆天は中京を見放した

平井 修一


近藤大介氏の論考「社会主義は危機に弱くなったのか?『東方の星』転覆事故から透けて見える習近平体制の『きしみ』」(現代ビジネス6/8)から。

<*「犠牲者より幹部」驚きの「東方の星」転覆事件に対する報道

中国にも、いまは(MERSの件で)韓国に抗議している場合ではないという「お家事情」もあった。それは「東方の星」転覆事件である。

6月1日、夜9時28分、中国湖北省で、長江下りの遊覧船「東方の星」が、竜巻に遭って転覆した。まさに、昨年4月に韓国で起こった「セウォル号転覆事件」の中国版といえる事件である。

「東方の星」に乗船していたのは456人。船客405人、乗員46人、旅行ガイド5人である。ただちに乗員7人を含む14人が救出されたが、残る442人の生存は絶望的だった。

古い客船を増築していたこと、船長をはじめとする乗員が船客を無視して先に逃げていること、竜巻が襲来することが分かっていながら運航をやめなかったことなど、「セウォル号」の教訓が、まったく活かされていなかった。

それに加えて私が驚いてしまったのは、中国の報道である。事故の翌2日夜7時の中国中央テレビ(CCTV)のメインニュース『新聞聯播』を見ていたら、30分の番組中、頭の12分5秒を使って、この未曾有の事故を伝えた。

だが問題は、事故の伝え方である。はじめの3分10秒は、「習近平主席が素早く的確な指示を出した」という「ニュース」を延々と流したのである。「犠牲者(現場)より幹部」、これでは中華人民共和国ではなく、中華幹部共和国だ。

続いて7分7秒まで約4分間にわたって、李克強首相が現場に急行し、やはり「素早く的確な指示を出した」という「ニュース」だった。カメラが李克強首相の姿をアップし、李首相が右手で指さして、現地の当局の幹部たちに檄を飛ばしている。

音声が入らないので具体的な言葉は不明だが、テロップを見る限り、「一分一分が非常に貴重だ」などと言ったそうである。

しかし本当に「絵にならない首相」だ。前任の温家宝首相も、重大事故があるとすぐに現場に駆けつけたものだが、一つひとつの所作に心が込められていた。温家宝前首相は、地べたに座り込んで悲しむ現地の人々の声に耳を傾けたり、手を取って哀しみを分かち合ったりということが、ごく自然にできた。

ところが李克強首相は、右手の人差し指を立てて命令するばかりだ。これではせっかく現場に駆けつけても、逆効果ではないかと思ってしまう。中国共産主義青年団(共青団)のエリート政治家たちに多いパターンだ。

加えて、日本のメディアも指摘していたが、この事故に対する中国の報道規制は、目に余るものがあった。家族を現場近くに立ち入らせないし、家族の当局に対する怒りは、絶対に中国国内で報道させない。

報道してよいのは、中国中央テレビの映像と新華社通信の記事だけだ。インターネットでも、「怒りのコメント」が打ち込まれたら、たちどころにネット警察が削除してしまう。

折りしも中国政府は6月1日から「第2回国家インターネット安全宣伝週」の取り締まりを展開中である。「6月1日の国際児童節に合わせて、青少年の健全な育成のために行う」との前触れだったが、実際は「子供の日」とは何の関係もない。

6月4日が天安門事件26周年記念日だからである。天安門事件は、1989年のこの日、人民解放軍が民主化を求める若者たち1000人以上を虐殺した中国史に残る事件だ。

中国国内の経済状況が悪化している中、習近平政権は、天安門事件の記念日を何とか平穏に乗り切りたい。そこで「インターネット安全週」を設定し、ネット上の取り締まりを強化することにした。そんな中、図らずも湖北省で「東方の星」転覆事故が発生してしまったのである。

*「社会主義体制の強み」がまったく活かされていない

6月4日午前中、習近平主席は「東方の星」転覆事件に関して、中共中央政治局常務委員会を緊急招集した。会議で習近平主席は、「党中央の強い指導のもとで対処する」として、以下の5点を強調した。

第一に、救助活動を継続すること。第二に、きめ細かい仕事を行うこと。
第三に、厳粛に事件の原因を調査すること。第四に、新聞宣伝・世論工作を強めること。第五に、事件に対する組織的な指導を強めることである。

まったく何を決めているのだかという感じがしてくる。要は習近平政権としては、14億人の庶民が怒りの声を上げることを、なによりも恐れているのだろう。

本来なら、社会主義体制の強みというのは、危機に強いことのはずである。1996年2月に雲南省で麗江大地震が起こった時、私はたまたま現場にいて、天地がひっくり返るような恐怖の地震体験をした。だが地震からわずか30分後に、大量の人民解放軍が駆けつけてくれた。このとき、中国の凄さを思い知ったものだ。

というのも、前年に神戸で大地震が発生したときには、「民主主義体制の欠点」を目の当たりにしていたからだ。兵庫県知事の出動要請が発令されていないため自衛隊が出動できないとか、出動しても自衛隊車輌が赤信号で停まらなければならないといったことだ。そのため中国共産党の人々が、「民主主義が人類最高の体制とは限らない」と主張するのを聞いて、「もしかしたらそうかもしれない」と思ったものだ。

だが、あれから20年近く経った今回の「東方の星」転覆事故では、そんな「社会主義体制の強み」が、まったく活かされていない。こんなところからも、習近平体制の「きしみ」が透けて見える>(以上)

中共・習近平もぐらぐらしてきて沈没寸前か。そんな“不穏な空気”は人民の間にも浸透しつつあるようだ。

笹川陽平氏のブログ6/10「中国の小話:長江での客船事故の教訓」から。

<中国湖北省の長江で456人乗りの大型客船『東方の星』が転覆した。大惨事で、船長他わずかな人しか助からなかった。

中国中央テレビは6日、共産党と政府が「非常に責任ある態度」で事故対応に当たったと称賛する総括記事を国営・新華社通信がまとめたと伝えた。しかし、悲しみに打ちひしがれた人々のニュースは伝わってこない。

なぜに近年、習近平政権は厳しい報道規制とジャーナリストの拘束を続けるのであろうか。人民は『東方の星』転覆事故からの教訓として、以下の4項目をひそかに噂している。これは故なき事ではなく、『荀子』王制篇を意識した強烈な政権批判ではないだろうか。

1.巨大な船体で、威勢を見せかけて数十年間長江で航行したものの、一瞬で転覆した。

(どんな強力政権も、一瞬にして崩壊する)

2.転覆の前は誰も予知できなかった。

(政権崩壊は誰も予知できない)

3.『水は舟を載(の)せ、舟を覆(くつが)えす』という言葉を証明した。

(水は人民、船は政権である)

4.舵取りが逃げたら、船内の乗客やスタッフは皆ひどい目に遭う。

(指導者がいなくなると、人民はひどい目に遭う)

『荀子』王制篇前文には「君主とは舟であり、庶民とは水である」「水は舟を載せるが、舟を転覆させもする」というのがある>(以上)

ウィキによれば荀子(じゅんし、紀元前313年? - 紀元前238年以降)は、中国の戦国時代末の思想家・儒学者。日本人ならよく知っている「青は藍より出て藍より青し」の作者だが、孔子や孟子と比べて日本ではあまり知られていないようだ。

サイト「新読荀子」から王制篇第九の一部を転載する。王制篇は一種の「君主論」だ。

<馬車の馬が驚くと、君子は馬車に安心して乗ることができない。庶民が政治に驚くと、君子は位に安心して居ることができない。馬車の馬が驚けば、これを静めるのが最もよい。

庶民が政治に驚けば、これに恩恵を与えるのがもっともよい。賢良な者を抜擢し、篤敬な者を推薦し、孝行な子弟を督励し、孤(みなしご)と寡(未亡人)を保護し、貧窮者に支援する。このようにすれば、庶民は政治に安んずるであろう。

庶民が政治に安んずれば、しかる後に君子は位に安んずるのである。言い伝えに、「君は舟、庶民は水。水はすなわち舟を載せ、水はすなわち舟を覆す」とあるのは、このことを言うのである。

ゆえに人の君主たるもの、

一、地位の安定を欲するのであれば、「政治を平らかにして民を愛する」のが最もよいのである。

一、繁栄を欲するのであれば、「礼を尊んで士を敬う」のが最もよいのである。

一、功名を立てることを欲するのであれば、「賢人を尊重して有能な者を用いる」のが最もよいのである。

この三つは、人の君主たる者が守るべき大節(最重要な三カ条)である。

三つの大節が当たっているならば、その他のことも必ず当たるものなのである。だが三つの大節が当たらないならば、その他のことがいくら当たっていたとしても、益無きがごとしである。

孔子はこう言われた。「大節もよく守って小節もよく守るのは、上君である。大節はよく守るが小節はよく守ったりよく守らなかったりするのは、中君である。大節を守らない者は、たとえ小節をよく守っていたとしても、私はその者についてさらに見るまでもない」>

習近平は「三つの大節」を守らなかった。

一、習は恣意的な政敵叩きで「政情・経済を不安にして、人民の賎しい嫉は少数民族を含めて弾圧・威嚇を加え「多くの人士を獄舎に繋いだ」。

一、習は諫言を一切受け付けずに「学者などの賢者の口を封じてイエスマン=王岐山を重用した」。

桀紂と並ぶ暴君・習が舵を握る船は転覆を免れないだろう。天は中共を見放した。易姓革命の日は近い。(2015/6/11)


       
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