2015年07月04日

◆いっそ小田急で逃げましょか

渡部 亮次郎



「東京行進曲」の冒頭に ♪昔恋しい銀座の柳♪ という詞があるが、銀座の柳並木は、明治期にイチョウに切り替えられ、この歌より6年前の関東大震災でそれも壊滅状態となっていた。

この歌の当時(昭和4年ごろ)はプラタナスになっていたが、曲の大ヒットで<銀座に柳を復活させよう>の気運が盛り上がり、柳が復活した。

後に作詞作曲も同じメンバーで「銀座の柳」が作られ完全復活が宣言された。折角の銀座の柳も太平洋戦争の東京大空襲などで壊滅し、現在は4代目だそうだ。

  東京行進曲(昭和4年)
   作詞:西条八十
   作曲:中山晋平
   歌唱:佐藤千夜子    
  
 (一)
  昔恋しい 銀座の柳
  仇な年増を 誰が知ろ
  ジャズで踊って リキュルで更けて
  明けりゃダンサーの 涙雨

 (二)
  恋の丸ビル あの窓あたり
  泣いて文書く 人もあろ
  ラッシュアワーに 拾った薔薇を
  せめてあの子の 思い出に

 (三)
  広い東京 恋ゆえ狭い
  粋な浅草 忍び逢い
  あなた地下鉄 わたしはバスよ
  恋のストップ ままならぬ

 (四)
  シネマ見ましょか お茶飲みましょか
  いっそ小田急で 逃げましょか
  かわる新宿 あの武蔵野の
  月もデパートの 屋根に出る

作詞した西條八十は盆踊りで一晩中「東京音頭」を聞かされてのではたまらんと小田急で箱根に避難したが、何と夜になったら、そこでも東京音頭。東京へ逃げてきたという話が残っている。

また小田急電鉄は大変なコマーシャルになったものだから、西條に終身招待乗車パスを贈呈した。佐伯孝夫、丘灯至夫らが西條の弟子だった。

西條そのものは東京府出身。1892(明治25)年1月15日 - 1970(昭和45)年8月12日)は、詩人、作詞家、仏文学者。中学時代に英国人女性から英語を学んだ。正則英語学校(現在の正則学園高等学校)にも通い、早稲田大学文学部英文科卒業。

早稲田大学在学中に日夏耿之介らと同人誌『聖盃』(のち『仮面』と改題)を刊行。三木露風の『未来』にも同人として参加し、1919(大正8)年に自費出版した第一詩集『砂金』で象徴詩人としての地位を確立した。

後にフランスへ留学しソルボンヌ大学でポール・ヴァレリーらと交遊、帰国後早大仏文学科教授。戦後は日本音楽著作権協会会長を務めた。1962年、日本芸術院会員。

象徴詩の詩人としてだけではなく、歌謡曲の作詞家としても活躍し、佐藤千夜子が歌ったモダン東京の戯画ともいうべき『東京行進曲』、戦後の民主化の息吹を伝え藤山一郎の躍動感溢れる歌声でヒットした『青い山脈』、中国の異国情緒豊かな美しいメロディー『蘇州夜曲』、古賀政男の故郷風景ともいえる『誰か故郷を想わざる』『ゲイシャ・ワルツ』、村田英雄の男の演歌、船村メロディーの傑作『王将』など無数のヒットを放った。

また、児童文芸誌『赤い鳥』などに多くの童謡を発表し、北原白秋と並んで大正期を代表する童謡詩人と称された。薄幸の童謡詩人・金子みすゞを最初に見出した人でもある。

今では「銀座の柳」と聞くと、「東京行進曲」の方を思い浮かべる人が多いのは、さもありなん、この唄は作詞作曲も「東京・・・」と同じ、西条八十・中山晋平のコンビで作られた「東京・・・」の大ヒットに触発された続編であったからだ。

「東京・・・」の歌詞の冒頭に、♪むかし恋しい銀座の柳♪、とあるように、昭和4年当時、銀座には柳は無かった。この唄の大ヒットで、銀座に柳並木を復活させようという機運が盛り上がり、昭和12年になって、<銀座の柳並木>が復活
した。

この「銀座の柳」の唄はその完成を記念して作られたもので、それなりのヒットはしたが、曲想が限定されており、二番煎じの感は否めず、「東京行進曲」の影に埋もれて行ったのは仕方のないことだった。

銀座の柳(昭和12年)
  
   作詞:西条八十
   作曲:中山晋平
   歌唱:四家文子
   制作:滝野細道

    (一)
    植えてうれしい 銀座の柳
    江戸の名残りの うすみどり
    吹けよ春風 紅傘日傘
    今日もくるくる 人通り

    (二)
    巴里のマロニエ 銀座の柳
    西と東の 恋の宿
    誰を待つやら あの子の肩を
    撫でてやさしい 糸柳

     (東京行進曲の間奏)

    (三)
    恋はくれない 柳は緑
    染める都の 春模様
    銀座うれしや 柳が招く
    招く昭和の 人通り

郷里秋田の盆踊りは歌抜き、大きな太鼓を何台も出して叩くものだった。私は叩くも踊りもせずに東京の人となった。執筆:2010・7・7

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