石岡 荘十
自動体外式除細動器、AEDがようやく世間に知られるようになってきた。普及のスピードもたいしたものだ。しかし、その機能は必ずしも正確には理解されていないような気がする。
最近のケースとしては、例の、秋葉原の無差別連続殺傷事件関連の記事である。
産経新聞。記事は<事件当時も応急措置に活用されたAEDを(中略)設置しようと募金活動を始めた>という趣旨だが、本当だろうか。
疑問は、本当に事件のとき、「応急措置に活躍した」のか? という点だ。
AEDは最悪の不整脈である心室細動に抜群の威力を発揮するマシーンだが、車にはねられて重症、あるいは即死状態で心肺停止した人に使っても意味はない。
AEDは心室細動患者に対してだけ威力を発揮するもので、出血多量やひどい打撲で停まった心臓を再稼動させる機能は持ち合わせていない。刺されて出血多量で瀕死の被害者に対しても同様だ。
車ではねられた瞬間、または刺されたとたんに、心室細動を起こした被害者が居て、AEDが「活躍した」というならともかく、そんな偶然はとても考えられない。記者はそこまで確認して記事を書くべきだった。
記事で、募金活動をしていた人の「もっとAEDがあれば、ひとりでも多くの人が救えたはず---」という談話を載せている。
大勢の人が押し寄せる商店街に、1台でも多くのAEDがあれば、それだけ安心・安全な街になることは間違いないが、なんとかとはさみ、いや、AEDも使いようなのである。機能を誤解して期待するのはケガのもとである。
もうひとつ問題の記事は、本マガジン「話の福袋」で紹介された千葉日報の記事だ。
それによると、<16日、千葉県船橋市のプールで、授業中に泳いでいた
6年生の女児が突然意識を失い、一時心肺停止状態となった。
(中略)女児は約30秒間水面にうつぶせで浮かんだ状態だったが、プールサイドの教員が気付き救助。ただちに救命措置を行い、119番通報で駆けつけた。救急隊員がAEDを使用したところ脈が回復した>そうだ。めでたしめでたしという記事だが疑義がある。
「救急隊員がAEDを使用したところ脈が回復した」、つまりAEDが役立ったとすると、少女は、子供には極めて稀な心室細動だったことになる。
しかも救急隊員が現場に駆けつけるのに要する時間は、平均で6分。3分以内に心室細動にAEDを使えた場合でも救命率は50%といわれる。
記事では救急隊員がAEDを使うまでに何分かかったのか、脈を回復した少女の容態はその後どうなっているのかをリポートしていないからなんとも言えないが、この事件が報道どおりだとして、その後少女が順調に回復しているとしたら、この少女は極めて稀な強運の持ち主だということになる。
AEDは、正常な拍動をしている心臓・完全に停止している及び心房細動を起こしている心臓に対してはAEDの診断機能が「除細動の必要なし」の診断を下し通電は行われない。
つまり心臓が停まった人や停まりかかった人になら、誰にでも万能ということではないのである。
所詮、AEDは機械なのだから、葵のご紋の印籠のように、都合のいいときにぱっと現われて万能を発揮するわけではない。過信は禁物である。
(ジャーナリスト)