名村 隆寛
戦後70年首相談話に手ぐすね引く韓国メディア 内容どうであれ、すべて「反日」の理屈とは…
韓国が長らく注視してきた「戦後70年の安倍首相談話」が発表されるまで3週間を切った。「談話で朝鮮半島の植民地支配と侵略に対する心からの反省と謝罪をせよ」と、韓国ではメディアを中心に“謝罪要求”にこだわる主張が相変わらず幅をきかせている。
談話が具体的にどのような内容になるのかは不明だが、「謝罪」は盛り込まれない見通しという。ただ、たとえ「謝罪」の意が込められようが、韓国のメディア世論には納得しようとする雰囲気はうかがえない。安倍政権批判は談話後も確実に続きそうだ。(ソウルにて)
■反日ロビー成功で息を吹き返す
4月末の安倍晋三首相による米議会演説の後、激しい日本バッシング、反日報道が一時は影をひそめ、比較的温和しかった韓国メディアが、また日本との“歴史認識問題”で元気を取り戻している。
日韓双方のユネスコ世界遺産登録が今月、韓国側の意向が反映されるかたちで実現したことが、メディアなどの自信の背景にあるようだ。
韓国は、世界遺産への登録が決まった「明治日本の産業革命遺産」のうち「戦時中に朝鮮半島の人々が強制徴用された施設7カ所が含まれている」と特に5月の時点から反発していた。
尹炳世(ユン・ビョンセ)外相が日韓国交正常化50年の記念日(6月22日)に合わせて就任後初めて訪日し、岸田文雄外相と会談。日本の世界遺産登録について注文をつけた尹外相は、韓国側の主張に念を押し、双方は韓国の推薦案件(百済の歴史地区)とともに日韓が登録で協力することで“完全に”一致した。
ところが、ドイツで開かれた世界遺産委員会の審議の場では、韓国側の登録に日本が約束通りに賛成を表明する一方で、日本側の登録に関しては韓国の執拗(しつよう)な対日妨害工作が最後まで展開されたという。
結局、韓国側の要求をのむかたちで日本代表団は「意に反して厳しい環境のもとで働かされた(forced to work)」と登録決定後に言わされるはめに。尹外相は「われわれの正当な懸念が忠実に反映されるかたちで決定されたことをうれしく思う」と満足げに韓国の外交的勝利を強調した。
■「してやった」とのお仕着せ論
日本政府は「朝鮮人の徴用は当時、朝鮮半島を(日本として)統治していた日本の徴用令に基づくもので、韓国が主張する強制連行には相当しない」との立場だ。しかし、韓国では尹外相の言葉にみられるように「日本が強制連行による強制労働を認めた」との認識が一般的だ。
むしろ、韓国メディアには「forced to workではなく、forced to labor」の表現であるべきだ-とのより細かい要求が見られた。また、登録決定後に岸田外相が「forced to work」について「強制労働を意味したものではない」と発言したが、これについても韓国メディアでは、予想どおりの反発が出た。
ただ、いずれも韓国の思うままにことが運んだことへの満足感や快感が漂う一種の“難癖”のレベルだ。それよりも、韓国メディアには「われわれが努力して日本に何かをしてやった」式の「してやった論」が目立つ。
日韓外相会談にしても、韓国紙には「韓国が関係改善に向けて手をさしのべた」という主張が多かった。日本の世界遺産登録実現も似たふうに解釈されている。
竹島の領有権を記載した防衛白書に韓国政府は反発し、21日に外務省と国防省はソウルの日本大使館の総括公使と防衛駐在官をそれぞれ呼び、強く抗議した。現に、この日に発表された外務省報道官による声明は「国交正常化50周年に合わせ、韓日両国の新たな未来を開いていこうというわれわれの努力を無実化させる行為」と、日本を批判する一方で「韓国側の努力」を強調している。
■日本の反安倍世論に活路?
一方、韓国メディアは、安保法案を強行採決した安倍政権に対し、日本国内で批判が起きていることに着目。安倍政権批判の炎を燃え立たせている。
中央日報の社説(21日付)は、法案の強行採決後に安倍内閣の支持率が急落しているとし、「支持しない」という回答が51%に増え、「支持する」との回答は35%に過ぎず過去最悪の支持率となったという某日本メディアの世論調査結果を取り上げた。
同社説は「安保法案の採決強行は、戦後の歩みを覆す暴挙という朝日新聞の社説が出てくるのも無理はない」と指摘。「日本の歴代政権は周辺国との友好関係を着実に発展させてきた」「こうした肯定的な流れが変わった決定的な原因が安倍政権の軍事大国化ということには特に異見はなかろう」「『植民地支配と侵略に対する反省と謝罪が談話に盛り込まれなければならない』という世論が50・8%に達するという事実も忘れてはならない」とまで“忠告”している
日本国内の反安倍政権の世論に活路を見いだし、飛びついたかのようだ。同紙は22日付のコラムでも、安倍政権の支持率に再度触れ、「安倍首相は植民地支配の野蛮行為にまともな謝罪をしなかった」とするニューヨーク・タイムズの社説を紹介した。
■米軍捕虜への民間企業の謝罪にも難癖
「韓日関係を担保にする安倍のごり押し外交」と題したこの中央日報コラムは、防衛白書での竹島領有の記載を「ただ苦々しい」とするとともに、世界遺産登録での日本政府の「強制労働」の解釈を批判した。
同コラムはさらに、元徴用工らからの訴訟を抱えている三菱が、戦時中の強制労働について「米軍捕虜にだけ謝罪した」(19日)ことが「強制労働に関するごり押し外交のピーク」だと断定している。同時に、訴訟進行中を理由に韓国人と中国人の徴用者らには言及しなかったことに不満を示した。
三菱マテリアルの元捕虜への謝罪は、他の韓国メディアもそこそこのニュースバリューで報じていた。ただ、「ごり押し」かどうかは知らないが、一民間企業の謝罪と「外交」を勝手に結びつけている。加えて、米国は日本と戦った相手であり、謝罪対象は労働を強いられた元捕虜である。韓国は日本と戦争したわけではない。
先述のように、朝鮮人(韓国人)の徴用は当時、朝鮮半島を日本の一部としていた日本の徴用令に基づいていた。この徴用工の問題は、日韓請求権協定(1965年)によって解決済みのはずだ。
気持ちは分からなくもないが、一事が万事、すべて日本と韓国の歴史認識問題に結びつけようとしたがる。またもや、韓国メディアにありがちな解釈だ。
■それほど重い日本との歴史
4月末の米議会演説以後、韓国メディアの中には「安倍談話に期待はできない」という意見も早くから散見された。前出の中央日報コラムも「談話に『植民地支配の謝罪』は含まれないようだという」と実に残念なようだ。
しかし、韓国での現在の趨勢(すうせい)は「それでも安倍は謝罪しなければならない」だ。譲ることは、まずあり得ないだろう。韓国の経済状況が悪化しようが、内政が混乱し重要法案が国会で通過できなかろうが、中東呼吸器症候群(MERS・マーズ)コロナウイルスの感染が拡大しようが、歴史問題をめぐっては日本に譲歩しない。
これら国内問題を抱えて大変ななか、韓国はこの5カ月間、安倍首相の米議会演説をさせないように奔走し、演説が決まるとその内容に「慰安婦への謝罪を盛り込め!」と言い張り続けた。さらには、世界遺産登録をめぐっては、自らの主張を通そうと執着し、“念願”を成就させた。
特に、朴政権発足後のこの2年半の間、日本は嫌というほど、歴史にこだわる韓国のかたくなさを見せつけられてきた。他にやるべきことがあっても、日本との歴史認識問題がともかく最優先。全てをなげうってでも、問題は「日本」だ。譲歩はできない。それほどまでに、韓国にとって日本は重い存在なのか。
■続く対日要求、変わりゆく反日手法
「反省せよ!」「謝罪せよ!」と日本に言い続ける韓国では、現在、日本の朝鮮半島統治の時代を知る「体験的世代」が高齢となり、「観念的世代」が社会の中心だ。その観念的世代もどんどん新しい世代に変わっており、日本への反発や批判は、現在の価値観に支配されている。
ここ数年言われていることであるが、対日要求をめぐり、いつの間にか韓国側のゴールポスト(要求)が動かされているような状況にある。ゴルフであれば、ピンとカップの位置がグリーンに行ったときには勝手に動いていた、というようなことがザラだ。韓国の“反日手法”は形を変えており、韓国側のその時々の価値観に、日本は振り回されて続けている。
朴槿恵(パク・クネ)大統領は2013年2月の就任直後に「3・1独立運動」の記念式典で演説した際、「加害者と被害者の歴史的立場は、千年の歴史が流れても変わることがない」と断言した。その千年のうち、朴政権のわずか2年半が過ぎた。
大統領自らが公言し、実際そうなっているのだから、間違いないのであろう。日本が加害者で韓国が被害者であり続ける限り、この2年半に韓国が見せ続けた辟易(へきえき)とするまでの日本への反発、難癖は続く。ただし、時とともに本への主張や要求、その手法は、その時の都合でいつでも変わりうる。
産経ニュース【ソウルから 倭人の眼】2015.8.7
(採録: 松本市 久保田 康文)